訪問看護の収支計画書テンプレート(Excel・無料・登録不要)|事業計画書の作り方と融資で見られる点
監修:山口 雄太(看護師/株式会社FOOTAGE 取締役 経営支援事業部長)
訪問看護ステーションの収支計画書は、売上を「訪問件数×単価」、人件費を「人数×給与」で月ごとに積み上げ、現預金の推移まで出すのが基本形です。報酬の入金はサービス提供の約2か月後(介護保険は国保連から翌々月23日〜月末)なので、その遅れも計算に入れます。事業計画書は、この収支計画を中心に、事業の目的・地域の需要・人員体制・資金計画を1冊にまとめたものです。
看護職員は常勤換算2.5人以上という人員基準があり、開業初月から人件費は満額でかかります。一方で売上は遅れて入ってきます。このずれを月次で見える形にしておくと、開業の判断にも融資の審査にも使えます。記事の後半では、そのまま使える収支計画テンプレートを登録不要で配布しています。
この記事でわかること
- 訪問看護の事業計画書に書く5つの項目
- 収支計画書の組み立て方(売上・人件費・販管費の積み上げ方)
- 開業初期に現預金が減り続ける「入金のずれ」の仕組み
- 融資の審査で事業計画のどこが見られるか
- 無料テンプレート(3期・月次)の使い方
Q: 訪問看護の事業計画書には何を書くのか?
事業計画書は、「なぜこの地域で、誰に、どの体制で訪問看護を提供し、いつ資金が回るのか」を一続きで説明する文書です。書式に決まりはありませんが、金融機関や指定権者、一緒に働くスタッフに説明する場面を考えると、次の5項目をそろえておくと伝わります。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 1. 事業の目的・理念 | なぜ開業するのか、どんなステーションにしたいか |
| 2. 地域の需要 | 対象エリアの高齢者数・要介護認定者数、競合ステーション、連携先の居宅介護支援事業所や病院 |
| 3. サービスと体制 | 対象とする利用者像、24時間対応の有無、看護職員・リハビリ職の配置 |
| 4. 収支計画 | 月ごとの売上・人件費・販管費・利益(3期分が目安) |
| 5. 資金計画 | 初期投資・運転資金・自己資金・借入と返済の予定 |
このうち中身の説得力を決めるのは4と5です。1〜3は「その数字の根拠」として書きます。たとえば「開業6か月で利用者を何人にする」という計画は、2の連携先の数や3の体制と結びついていなければ、読み手には願望に見えてしまいます。
Q: 訪問看護の収支計画書はどう組み立てるのか?
収支計画は「売上」「人件費」「販管費(人件費以外の経費)」の3つを月ごとに積み上げ、その差で営業利益を出します。年間の合計を12で割る作り方だと、開業から利用者が増えるまでの数か月が平らにならされて見えなくなります。
売上は「訪問件数×1件あたりの単価」で積む
売上は、月の訪問件数に1件あたりの平均単価を掛けて出します。単価は保険の種類と訪問時間、地域区分で変わります。
- 介護保険: 訪問看護I2(30分以上1時間未満)は823単位です(令和6年度介護報酬改定)。1単位の円単価は地域区分で異なり、たとえば3級地の訪問看護は1単位11.05円なので、1回あたり約9,094円になります
- 医療保険: 訪問看護基本療養費Iは看護師の場合、週3日目まで1日5,550円です。これに訪問看護管理療養費(月の初日7,670円・2日目以降1日3,000円など、ステーションの区分による)や各種加算が加わります(令和6年度診療報酬改定)
開業前の計画では、想定する利用者の保険の内訳と訪問時間から平均単価を1つ決め、件数を月ごとに増やしていく形が扱いやすいです。単価を高めに置くと計画全体が楽観に傾くので、加算は体制と届出が確実に整うものだけを入れておくのが安全です。単位数・点数の根拠は、厚生労働省の令和6年度介護報酬改定と令和6年度診療報酬改定で確認できます。
人件費は「人数×給与」に法定福利費を足す
人件費は、職種ごとの人数に月額給与を掛け、賞与・法定福利費(社会保険料の会社負担分など)・退職金の積立を足して出します。看護職員は常勤換算2.5人以上・うち1人は常勤という人員基準があるため、利用者がまだ少ない開業初月から、最低限の人件費は満額で発生します。人員基準の計算方法は訪問看護ステーションの人員基準と配置で詳しく解説しています。
販管費は「拠点ごと」と「職員ごと」に分けて置く
人件費以外の経費は、増え方で2つに分けると計画が崩れにくくなります。
- 拠点ごとにかかるもの: 家賃、水道光熱費、通信費、電子カルテなどのシステム費。拠点が増えない限りほぼ一定です
- 職員ごとにかかるもの: 訪問用の車両・駐車場、燃料費、ソフトウェアのアカウント費、消耗品、研修費。職員が増えると比例して増えます
この分け方をしておくと、「職員を1人増やすと月の経費がいくら増えるか」がすぐに読めるようになり、採用の判断にも使えます。
Q: 訪問看護の収支計画で見落としやすい「入金のずれ」とは?
訪問看護では、サービスを提供してから報酬が入金されるまで約2か月かかります。介護保険の場合、事業所はサービス提供月の翌月10日までに国保連へ請求し、入金はサービス提供月の翌々月23日〜月末です(支払日は都道府県の国保連によって異なります)。一方、給与や家賃は毎月出ていきます。
このため、損益計算書の上では黒字の月でも、手元の現預金は減り続けるという時期が開業後しばらく続きます。収支計画書を「損益」だけで作ると、この谷が見えません。売上は2か月後の入金として、給与は翌月の支払いとして、月ごとの現預金残高まで計算しておきます。
私たちフッテージも、開業初年度には法人口座の残高が150万円まで落ち込んだ時期がありました。事業として赤字だったからではなく、入金のずれと人員の先行投資が重なったためです。その時の経緯と対策は開業1年目のキャッシュフロー危機にまとめています。
運転資金をいくら持てばよいかは、この現預金の推移から逆算します。業界一般の参考レンジは初期投資と運転資金を合わせて1,500〜2,000万円ですが、必要額は人員の増やし方と利用者の増え方で大きく変わります。調達の考え方は訪問看護の開業資金はどう作る?で解説しています。
Q: 人員計画は収支計画にどう反映させるのか?
採用する月と、訪問件数が増え始める月は分けて置きます。看護職員を採用すると人件費はその月から発生しますが、その職員が担当する訪問件数は、利用者の紹介が増えてから少しずつ積み上がります。採用と件数の増加を同じ月に置くと、計画上は人件費と売上が釣り合って見えますが、実際には数か月のずれが出ます。
もう1つの注意点は、人員基準ちょうどの体制で計画を組まないことです。常勤換算2.5人ちょうどで始めると、1人の退職や休職で基準を割り込みます。最小人数で黒字になるかどうかより、続けられる人数で黒字になるかを見ておくほうが実務的です。この考え方は2.5人で黒字化は「できる」。でも続かないで詳しく取り上げています。
Q: 融資の審査では事業計画のどこが見られるのか?
審査で見られるのは、売上の数字そのものより「その数字の根拠」と「資金が一番薄くなる時期を乗り切れるか」です。日本政策金融公庫の創業融資(新規開業・スタートアップ支援資金)を例にとると、計画書と面談で次の点を説明できるかが問われます。
- 訪問件数の伸びに根拠があるか(連携先の居宅介護支援事業所・病院、地域の需要)
- 開業者自身の経験が事業と結びついているか(訪問看護の実務経験・管理経験)
- 自己資金をどれだけ用意しているか
- 現預金が最も少なくなる月でも資金が尽きない計画になっているか
- 返済額が、黒字化した後の利益で無理なく払える水準か
月次の収支計画と現預金の推移がそろっていれば、最後の2点はそのまま表で示せます。融資の通し方の詳細は訪問看護の開業資金はどう作る?を参照してください。
無料の収支計画テンプレート(3期・月次)の使い方
この記事で説明した組み立て方をそのまま入力できる、収支計画テンプレートを配布しています。登録は不要です。Excel形式なので、Excel・Googleスプレッドシート・Numbersで開けます。
テンプレートは5つのシートで構成されています。入力するのは黄色のセルだけで、結果は自動で集計されます。
| シート | 入力するもの・わかること |
|---|---|
| 使い方 | 入力の手順と、組み込んである前提の説明 |
| データベース | 職種ごとの月額給与、家賃・通信費・車両などの月額費用 |
| 損益計画(3期) | 月ごとの職員の増減、訪問件数、平均単価、自己資金 |
| 借入 | 借入先ごとの借入額・年利・返済年数 |
| 財務シミュレーション(3期) | 期ごとの売上・人件費・営業利益・キャッシュフロー・現預金残高 |
報酬の入金は2か月後、給与は翌月払いとして計算するように作ってあるため、入力するだけで「損益は黒字なのに現預金が減る」時期が表に出ます。法人税等は営業利益の30%として概算しているなど、簡略化している部分は「使い方」シートに書いてあります。実際の申告額や融資条件は、税理士や金融機関に確認してください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 事業計画書は何年分作ればよいですか?
3期分(3年分)を月次で作るのが目安です。開業直後の1〜2年は利用者の増え方で数字が大きく動くため、年単位でなく月単位で作っておくと、計画と実績のずれを早く見つけられます。
Q2. 訪問件数はどう見積もればよいですか?
連携先として見込める居宅介護支援事業所や病院の数と、そこからの紹介の見込みから積み上げます。開業初期は計画どおりに利用者が増えないことも多いため、楽観・標準・慎重の3通りで作っておくと、資金計画の安全幅を判断できます。
Q3. 1件あたりの単価はいくらで置けばよいですか?
想定する利用者の保険の内訳(介護保険・医療保険)と訪問時間から平均を出します。介護保険の訪問看護I2(30分以上1時間未満)は823単位で、1単位の円単価は地域区分によって異なります。加算は体制と届出が確実なものだけを含めるのが安全です。
Q4. 収支計画書と資金繰り表は何が違いますか?
収支計画書は売上と費用の差(利益)を見るもので、資金繰り表は実際のお金の出入り(現預金残高)を見るものです。訪問看護は報酬の入金が約2か月遅れるため、両方を月次で並べて見ることが大切です。配布しているテンプレートは、両方を1つのファイルで確認できます。
Q5. テンプレートの利用に登録や費用はかかりますか?
かかりません。この記事のリンクからそのままダウンロードできます。作った計画の見直しや、融資・開業準備の進め方について相談したい場合は、経営支援のページからお問い合わせください。
まとめ|収支計画は「月次」と「入金のずれ」で作る
- 事業計画書は、目的・地域の需要・体制・収支計画・資金計画の5項目でまとめる。説得力を決めるのは収支計画と資金計画
- 売上は訪問件数×単価、人件費は人数×給与+法定福利費、販管費は拠点ごと・職員ごとに分けて月ごとに積む
- 報酬の入金はサービス提供の約2か月後。損益だけでなく現預金の推移まで計算する
- 採用する月と訪問件数が増える月を分けて置き、人員基準ちょうどの体制で計画しない
- 融資では数字の根拠と、資金が最も薄くなる月を乗り切れるかが見られる
私たちフッテージは、自社で訪問看護ステーションを開業・運営してきた経験をもとに、事業計画づくりから開業後の運営まで経営支援を行っています。作成した計画の見直しや開業準備についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。