訪問看護の保険請求の仕組み|医療保険と介護保険の違い・レセプトの流れ・請求管理を経営支援の専門家が解説
【結論】訪問看護の請求が難しい本当の理由は、医療保険と介護保険の2つの制度にまたがる、ほぼ唯一の在宅サービスだからです。同じ「訪問看護」でも、利用者ごとにどちらの保険が適用されるかが変わり、請求先・様式・ルールがすべて変わります。しかも請求は毎月10日までの提出が原則で、入金はサービス提供月から約2か月後。請求業務のつまずきは、返戻(差し戻し)による入金遅れとなって、そのまま資金繰りに跳ね返ります。本記事では、①医療か介護かの適用判定、②月次の請求サイクル、③請求を支える書類(特に指示書の期限管理)、④返戻への対応、⑤請求管理の方法(台帳の作り方)、を開業前に知っておくべき実務として解説します。私たちフッテージは月間約7,500件(2026年7月時点)の訪問を運営する中で、請求は「提出して終わり」ではなく「入金の消込までが請求業務」だと考えて仕組みを作ってきました。その考え方もあわせてお伝えします。
この記事でわかること ・医療保険と介護保険、どちらが適用されるかの判定ルール ・レセプト提出から入金までの月次サイクルとタイムラグ ・請求の前提になる書類(指示書・計画書・報告書)と最多事故 ・返戻・査定への対応手順 ・請求管理台帳で毎月確認すべき5項目
Q: 医療保険と介護保険、どちらで請求するのか?
判定の大枠は「要介護認定を受けている人は介護保険が優先。ただし例外は医療保険」です。
| 利用者の状態 | 適用される保険 |
|---|---|
| 要介護・要支援の認定を受けている | 原則、介護保険 |
| 認定を受けていても、厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)に該当 | 医療保険 |
| 認定を受けていても、特別訪問看護指示書の交付期間中 | 医療保険 |
| 精神科訪問看護基本療養費の対象(認知症を除く) | 医療保険 |
| 要介護認定を受けていない(40歳未満・自立判定等) | 医療保険 |
別表第7は、末期の悪性腫瘍・多系統萎縮症・筋萎縮性側索硬化症など、厚生労働大臣が定める疾病等の一覧です。特別訪問看護指示書は、急性増悪等で頻回の訪問が必要なときに主治医が交付するもので、有効期間は原則14日間・月1回(気管カニューレを使用している状態、真皮を越える褥瘡の状態は月2回)交付できます。
経営面で重要なのは、同じ利用者でも状態の変化で保険が切り替わる点です。要介護認定が下りた、特別指示書が出た、がんが末期と診断された——その月から請求先が変わります。この切り替えの見落としが、返戻の典型パターンです。
Q: 請求から入金までの流れはどうなっているのか?
月次サイクルは次のとおりです。
- 月末: 当月の訪問実績を確定(記録・実績の突合)
- 翌月10日まで: レセプトを提出。介護保険は国民健康保険団体連合会(国保連)へ、医療保険は審査支払機関(支払基金・国保連)へ、いずれも伝送で提出
- 審査: 記載不備や算定誤りは返戻・査定として戻される
- 翌々月下旬: 入金
つまりサービスを提供してから入金まで約2か月かかります。4月分の訪問の対価が入るのは6月下旬です。開業直後は、売上が立っているのに現金が入らない期間が必ず発生します。この構造を織り込んだ運転資金の設計は開業1年目のキャッシュフロー危機|口座残高150万円からの生存戦略で詳しく解説しています。
もう1つの実務上の山は「毎月1日〜10日」です。前月実績の確定・レセプト作成・提出がこの10日間に集中します。誰がこの業務を担うのかを決めずに開業すると、管理者が毎月上旬に訪問へ出られなくなります。
Q: 請求の前提になる書類は何か?
レセプトは単独では成立しません。次の書類が揃って初めて請求できます。
- 訪問看護指示書: 主治医が交付。有効期間は最長6か月。これが切れた期間の訪問は請求できません
- 訪問看護計画書: 利用者ごとに作成し、主治医に提出
- 訪問看護報告書: 毎月、主治医に提出
- 訪問看護記録書: 訪問ごとの記録。実績とレセプトの突合の根拠になります
- (介護保険)ケアプラン・サービス提供票との整合
最多事故は指示書の有効期限切れです。 指示書の更新は主治医への依頼から交付まで日数がかかるため、期限の1か月前にアラートを出す運用(台帳・ソフトのリマインド機能)を開業時から入れておくことをお勧めします。期限切れに気づかず訪問を続けると、その期間の報酬は請求できず、そのまま損失になります。
Q: 返戻・査定にはどう対応するのか?
返戻はレセプトが審査機関から差し戻されること、査定は請求内容が減額されることです。典型的な返戻理由は次のとおりです。
- 被保険者番号・保険者番号の誤り(資格変更の見落とし)
- 医療保険と介護保険の適用判定の誤り(同じ訪問の二重請求、特別指示書期間の区切り誤りを含む)
- 指示書の期間とレセプトの期間の不整合
- ケアプラン・サービス提供票との不一致(介護保険)
対応の原則は「翌月に必ず再請求する」ことと、「同じ理由の返戻を2度出さない」ことです。返戻は入金が1か月以上遅れるだけでなく、放置すれば請求漏れとして消えていきます。返戻を台帳で管理し、理由別に集計して発生源(資格確認の運用・判定のチェック手順)を直すことが、請求精度を上げる唯一の方法です。
Q: 請求管理はどうやればよいのか?
「レセプトを出すこと」と「請求を管理すること」は別の仕事です。私たちフッテージでは、請求管理を**「入金の消込までが請求業務」**と定義しています。毎月確認するのは次の5項目です。
- 実績とレセプトの突合: 訪問記録の件数・内容と、レセプトの件数・金額が一致しているか。ここのズレは請求漏れか過誤請求のどちらかです
- 請求台帳の記帳: 月ごとに「請求額・入金予定月・入金実績・差異」を1行で持つ。請求ソフトの画面ではなく、経営者が月次で見る台帳として別に持つのがポイントです
- 未入金・保留の追跡: 入金予定月に入らなかった請求を放置しない。返戻・保留・資格喪失のどれかを特定する
- 返戻台帳と再請求期限の管理: 返戻を理由別に記録し、翌月請求に必ず載せる
- 利用者負担分の請求・未収管理: 保険請求と別に、利用者への自己負担分の請求・回収状況を管理する。少額でも未収は積み上がります
この5項目が回っていれば、「売上(発生)と入金のズレ」が毎月数字で見えるようになり、資金繰りの予測精度が上がります。逆にここが曖昧なまま拠点を増やすと、請求漏れがどこで起きているか誰にもわからなくなります。
Q: 請求業務は誰が担うべきか?
体制の選択肢は3つです。
| 体制 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 管理者が兼務 | 開業直後・小規模 | 毎月1〜10日に管理者の訪問が止まる。属人化しやすい |
| 事務員を配置 | 利用者数が増えてきた段階 | 採用コストはかかるが、看護職の時間を訪問に戻せる |
| 外部委託(請求代行) | 事務採用が難しい場合 | 委託しても、実績突合と入金消込の責任は事業所に残る |
どの体制でもレセプトソフト(電子カルテ・請求ソフト)の利用が前提です。ソフト選定では、指示書期限のアラート・実績突合のしやすさ・国保連/支払基金への伝送対応を確認してください。外部委託を選ぶ場合も、上記の請求管理5項目のうち台帳と消込は自社側に残す設計をお勧めします。委託先に「全部任せた」状態は、請求の実態が見えなくなる典型パターンです。
Q: 開業時には何を準備しておけばよいのか?
初回請求(開業から2〜3か月目)を事故なく通すために、開業前に整えておくことが4つあります。
- 電子請求の環境と届出: 介護保険は国保連への電子請求の利用手続き、医療保険は審査支払機関へのオンライン請求等の届出が必要です。手続きには日数がかかるため、指定が下りたらすぐ着手します
- 請求ソフト(電子カルテ)の選定と初期設定: 事業所情報・加算の体制・利用者情報の登録を開業前に済ませます。指示書期限のアラート機能はこの段階で必ず設定します
- 月次スケジュールの固定: 「月末に実績確定→1〜5日に作成→8日までに提出→10日は予備日」のように、締めのカレンダーを開業初月から固定します。初回から10日ギリギリの運用にすると、不備が出たとき修正の時間がありません
- 初回請求のレビュー体制: 経験者・ソフトベンダーのサポート・開業支援者のいずれかに、初回レセプトの提出前チェックを依頼しておきます。初回の不備は翌月に持ち越され、開業直後の入金がさらに1か月遅れるためです
とくに1と2は「指定が下りてから考える」と間に合わないことがあります。指定申請と並行して進めてください。
よくあるご質問(FAQ)
Q: レセプトの提出期限はいつですか?
サービス提供月の翌月10日までが原則です。介護保険は国保連へ、医療保険は審査支払機関へ伝送で提出します。
Q: 入金はいつになりますか?
おおむねサービス提供月の翌々月下旬です。提供から入金まで約2か月のタイムラグがあることを前提に運転資金を設計してください。
Q: 同じ利用者を医療保険と介護保険の両方で請求できますか?
同一月に両保険の請求が発生することはあります。たとえば特別訪問看護指示書の交付期間(原則14日間)は医療保険、それ以外の期間は介護保険となり、1人の利用者に対して両方のレセプトを作成します。できないのは、同じ訪問を両保険で二重に請求することです。期間の区切りを誤ると返戻の原因になります。
Q: 返戻されたらその報酬はもらえないのですか?
返戻は「差し戻し」であり、修正して再請求すれば支払われます。ただし入金は1か月以上遅れます。放置すれば実質的な請求漏れになるため、返戻台帳での管理が必要です。
Q: 開業時にレセプト業務の経験者は必要ですか?
必須ではありませんが、初回請求(開業から2〜3か月目)は不備が出やすい山場です。経験者がいない場合は、ソフトベンダーのサポートや請求代行、開業支援者のレビューを初回請求に合わせて確保しておくと安全です。
まとめ|請求は「提出して終わり」ではなく「入金の消込まで」
- 訪問看護は医療保険と介護保険の2制度にまたがる。適用判定(要介護認定・別表第7・特別指示書)の誤りが返戻の典型
- 請求は翌月10日締め、入金は約2か月後。このタイムラグを前提に運転資金を組む
- 請求の前提は書類。最多事故は指示書の有効期限切れで、期限アラートの運用を開業時から入れる
- 返戻は翌月に必ず再請求し、理由別に集計して発生源を直す
- 請求管理は5項目(実績突合・請求台帳・未入金追跡・返戻台帳・自己負担未収)。入金の消込までを毎月回す
- 体制は管理者兼務→事務員→外部委託の順に検討。委託しても台帳と消込は自社に残す
私たちフッテージは、月間約7,500件(2026年7月時点)の訪問を支える請求・管理体制の運営経験をもとに、開業支援・経営支援を提供しています。請求体制の設計や請求管理の仕組みづくりにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。