訪問看護の開業資金はどう作る?創業融資の通し方と資金繰りの設計を経営支援の専門家が解説
監修:山口 雄太(看護師/株式会社FOOTAGE 取締役 経営支援事業部長)
開業資金でつまずく本当の原因は「調達額の不足」より「入金が2か月遅れる構造を軽く見ること」です。訪問看護は、サービスを提供しても報酬が入るのは約2か月後。開業して数か月は、売上が立っていても手元のお金が減り続けます。だから勝負は「いくら借りられるか」ではなく、「資金が一番薄くなる時期を、借りたお金で乗り切れるか」です。本記事では、(1)創業融資をどう通すか、(2)運転資金をいくら厚くするか、(3)資金が薄くなったとき経営者は何を判断するか、に絞って解説します。フッテージも初年度には法人口座の残高が150万円まで減った局面があり、その実体験も踏まえてお伝えします。
なお、開業全体の流れ・費用の内訳・調達手段の一覧といった全体像は訪問看護ステーション立ち上げ完全ガイドにまとめています。本記事は「資金をどう作り、どう持たせるか」の実務に絞って深掘りします。
Q: 開業資金は結局いくら必要なのか?
初期投資と運転資金を合わせて1,500〜2,000万円が試算例です(平均値ではなく、物件・人数・地域で大きく変わります)。見るべきは総額より、運転資金の比重が大きいことです。
| 区分 | 試算例 | 中身 |
|---|---|---|
| 初期投資 | 500万円前後 | 事務所賃貸・設備・車両・システム導入・法人設立費用など |
| 運転資金 | 1,000〜1,500万円 | 黒字化までの人件費・家賃など6〜12か月分 |
事務所や車両といった初期投資に意識が向きがちですが、資金繰りで苦しくなるのは運転資金側です。理由は次のQの「入金の遅れ」にあります。費用の内訳は立ち上げ完全ガイドに譲り、ここからは「調達」と「持たせ方」に絞ります。
Q: 資金は開業後「いつ」一番薄くなるのか?
これを理解しているかが開業資金設計の分かれ目です。介護保険・医療保険の報酬は、サービス提供月の約2か月後(翌々月)にまとめて入金されます。この2か月のズレが、開業直後のキャッシュに独特の谷を作ります。
開業からの資金の動きを時系列で見ると、次のようになります(利用者獲得のペースなどにより前後します)。
- 開業〜1か月目:訪問はまだ少なく、入金はゼロ。人件費・家賃などの固定費だけが出ていく。
- 2か月目:訪問件数は増え始めるが、最初の月の報酬すらまだ入っていない。手元資金は減り続け、一番不安になる時期。
- 3か月目の下旬:ようやく開業初月ぶんの報酬が初めて入金される。国保連などを経由するため、入るのは提供月の翌々月の下旬(おおむね23日〜月末)です。ただし開業初期は利用者獲得が計画を下回りやすく、入ってくる額は想定より小さくなります。
- 3〜5か月目:入金は始まったが、固定費の全額をまかなえる水準ではないことが多い。残高が底を打ちやすいのがこのあたりで、ここが最初の関門です。
- 半年〜1年:利用者が積み上がり、毎月の入金が固定費を上回り始めると、資金繰りが安定に向かう。
つまり、開業資金は「初期投資を払えるか」ではなく、「入金が固定費を上回るまでの数か月間、赤字のまま固定費を払い続けられるか」で設計する必要があります。運転資金を6〜12か月ぶんと置くのは、この谷の深さと長さから逆算した数字です。
Q: 創業融資(日本政策金融公庫)はどう通すのか?
審査で見られているのは「事業計画に根拠があるか」と「返せる裏づけがあるか」です。金額の大きさや熱意ではありません。
訪問看護の開業で主軸になるのが、日本政策金融公庫の創業融資です。主な制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」(2025年3月に「新規開業資金」から名称変更)で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。創業期(新たに事業を始める方や、事業開始後に税務申告を2期終えていない方)は、原則として無担保・無保証人で利用できます(最新の要件・上限は必ず公庫の公式情報で確認してください)。
制度が使いやすくなっても、審査を通すために準備すべきことの本質は変わりません。特に押さえるべきは次の点です。
- 収支計画に「他人が検証できる根拠」を持たせる — 「利用者が何人増えるか」を願望でなく根拠で示します。近隣の要介護者数や競合ステーションの数、連携予定の居宅介護支援事業所・病院、想定単価の積み上げ——こうした裏づけのある計画は信頼されます。収支計画書の作り方は事業計画書の作り方の記事で解説しています。
- 自己資金の「出所」を説明できるようにする — 審査では自己資金の額だけでなく、それをどう貯めてきたかを見られます。コツコツ積み上げた預金は「計画性がある」と評価され、直前に一時的に入れた資金(いわゆる見せ金)は逆に不利に働きます。通帳の動きは説明できる状態にしておきます。
- 入金の遅れを織り込んだ資金計画を示す — 前述の「初回入金は3か月目下旬・資金は3〜5か月目に底を打つ」構造を計画に反映し、そこを乗り切る運転資金を見込んでいることを示せると、返済の実現性が伝わります。
- 開業前から複数の金融機関と関係をつくる — 公庫だけでなく、地域の信用金庫・地方銀行にも開業前から相談しておくと選択肢が広がります。地域金融機関は地域内の取引実績を重視するため、早めの接点づくりが効きます。
審査で落ちる・減額されやすいのは、(1)収支計画の利用者増が根拠なく楽観的、(2)自己資金が極端に薄い、または出所が説明できない、(3)運転資金を軽く見て初期投資中心の申請になっている、(4)面談で事業内容を自分の言葉で語れない、の4つです。融資は「借りられる最大額」を狙うものではなく、返せる範囲で、運転資金が十分に残る額を根拠を持って申請します。
Q: 融資に経営者の連帯保証は必要か?外すことはできるのか?
近年は「経営者保証なし」で創業融資を受けられる選択肢が広がっています。経営者保証(連帯保証)は、法人が返済できなくなったときに経営者個人が返済義務を負う仕組みで、事業が立ち行かなくなったとき再挑戦を難しくします。開業時は必ず確認してください。
知っておくべき制度・ガイドライン:
- 経営者保証に関するガイドライン(2014年2月1日適用開始) — 全国銀行協会と日本商工会議所の研究会が2013年12月に公表した、法的拘束力のない自主ルールです。(1)法人と個人の資産・お金が分かれている、(2)法人の資産と収益力で返済できる財務基盤がある、(3)金融機関へ適時適切に情報開示している——の3点を満たすほど、保証なしの融資や既存の保証の見直しの可能性が出てきます(最終判断は金融機関)。
- 経営者保証改革プログラム(2022年12月策定)と、2023年4月からの金融庁の監督指針の改正 — 金融機関が保証を求める場合、その必要性などを詳しく説明し、内容を記録することが求められます。開業者から「保証なしで組めませんか」と聞いてよい後ろ盾です。
創業向けの選択肢:
- 日本政策金融公庫の無保証枠 — 創業期は原則として無担保・無保証人で利用できます。経営者保証を付けない形で組めるかを確認しましょう。
- スタートアップ創出促進保証制度(2023年3月15日開始) — 信用保証協会の制度で、創業予定者や創業から5年以内の事業者が、経営者保証なしで信用保証を受けられます。上限額・保証料率などの条件は最新情報を確認してください。
実務のポイント: 融資相談の最初に「経営者保証なしで組めるか」を確認します。
Q: 運転資金はいくら厚くすればいいのか?
「なんとなく多め」ではなく、固定費から逆算して決めます。運転資金の必要額は、次の考え方で組み立てられます。
運転資金 = 月々の固定費 × (入金が始まるまでの月数 + 入金が固定費を上回るまでの月数) + 予備
訪問看護の固定費は人件費が大半を占め、開業直後は売上がなくても、給与・家賃・車両・システムの費用が毎月かかります。この固定費に、(1)初回入金がくる3か月目下旬までの空白、(2)入金が固定費を上回るまでのさらに数か月、を掛けたぶんが、赤字のまま払い続ける総額です。ここに予備を足して、安全な運転資金額が出ます。
運転資金を「6〜12か月ぶん」と置くのは、この計算の幅です。利用者の立ち上がりが早い立地・体制なら6か月ぶんで足りることもありますが、立ち上がりが読めない場合は12か月ぶん(初期投資と合わせて総額2,000万円規模)を見ておくほうが安全です。楽観的な利用者獲得ペースを前提に運転資金を絞ると、3〜5か月目の谷で資金が尽きます。
Q: 助成金・補助金は資金計画にどう組み込むか?
助成金は「あてにして計画に組み込む」ものではなく、「入ったら手元資金を厚くするもの」と考えるのが安全です。
融資と助成金・補助金の決定的な違いは、入金のタイミングです。融資は開業前にまとまった額が手元に入り運転資金の土台になりますが、助成金・補助金の多くは「先に支出してから後で一部が戻る」後払いで、受給まで時間がかかり、要件を満たさないと受け取れないこともあります。
訪問看護では、採用・育成・雇用維持に関わる雇用系の助成金が候補になり得ますが、要件が細かく制度の改廃も頻繁なため、社会保険労務士など専門家に最新情報を確認しながら申請するのが確実です。重要なのは、助成金の入金を運転資金の前提に組み込まないこと。
Q: 資金が薄くなってきたら、経営者は何を判断するのか?
ここで扱うのは、開業した経営者が実際に迫られる判断です。どれだけ準備しても、資金が想定より早く薄くなることはあります。フッテージも開業初年度に法人口座の残高が150万円まで減った局面がありました。売上が立ち始めていても、入金の遅れと先行投資が重なると、手元資金はここまで薄くなります。
判断の要点は3つです。
- 「粘る」より「早く動く」 — 資金が尽きてから金融機関に相談しても条件は厳しくなります。余力があるうちに、追加の融資枠や返済条件の相談を始めます。
- 支出の抑制は「採用ペース」で調整する — 固定費は人件費が中心です。既存スタッフを守りつつ、次の採用のタイミングを利用者の増え方に合わせます。
- 損益ではなく資金繰りで判断する — 帳簿上は黒字化が近くても入金は遅れて増えます。判断の軸は常に「手元にいくら残っているか」です(この構造は2.5人で黒字化する損益分岐の記事でも触れています)。
Q: 自己資金はどのくらい用意すべきか?
公庫は自己資金の額を要件として明示していませんが、審査の重要な要素のひとつとしています(公庫の調査では、創業資金に占める自己資金の割合は平均2割程度)。ただし開業時に使い切ると想定外の出費に対応できないため、一部は「開業後の予備」として手元に残しておきます。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 経営者の連帯保証なしで創業融資を受けられますか?
近年は可能性が広がっています。公庫の創業融資(創業期は原則として無担保・無保証人)や、信用保証協会のスタートアップ創出促進保証が選択肢です。相談の最初に「保証なしで組めるか」を確認してください。
Q2. 開業してすぐ黒字になれば、運転資金は少なくてよいですか?
いいえ。帳簿上黒字でも報酬の入金は約2か月遅れる(初回は3か月目下旬)ため、運転資金は黒字化予測に関係なく、入金の遅れを前提に確保してください。
Q3. 自己資金がほとんどなくても開業できますか?
公庫は自己資金の額を要件として明示していません。ただし薄いと、資金が想定より早く薄くなったときの余力がなくなります。
Q4. 助成金だけで開業資金をまかなえますか?
現実的ではありません。多くは後払いで受給まで時間がかかるため、融資と自己資金で土台を作り、助成金は補完にします。
Q5. 資金繰りが不安なとき、まず何を見直せばよいですか?
入金が始まるまでの数か月、手元資金がマイナスにならないかを月ごとにシミュレーションします。利用者獲得を計画より低めに見積もり直すと、必要な運転資金が見えます。
出典(一次資料)
- 経営者保証: 中小企業庁「経営者保証に関するガイドライン」適用開始のお知らせ・経済産業省「経営者保証改革プログラムを策定しました」・中小企業庁「スタートアップ創出促進保証」
- 融資の制度・限度額・無担保無保証人: 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」・創業融資のご案内
- 自己資金の扱い・割合: 日本政策金融公庫「創業支援Q&A」
- 報酬の入金時期: 東京都国民健康保険団体連合会「審査支払事業」
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- 訪問看護ステーション立ち上げ完全ガイド|事前準備・費用・資金調達の全知識
- 訪問看護事業所の事業計画書の作り方(無料ガイド付)
- 2.5人で黒字化は「できる」。でも続かない|訪問看護の損益分岐と最小単位の落とし穴
まとめ|開業資金は「いくら借りるか」より「いくら残せるか」
訪問看護の開業資金でつまずく本当の原因は、調達額の不足ではなく、報酬が約2か月遅れて入る構造を軽く見ることにあります。
- 初回入金は3か月目下旬。資金は3〜5か月目に底を打ちやすく、そこを越えられるかが最初の関門
- 創業融資は「借りられる最大額」でなく「根拠のある額」を狙い、相談の最初に「経営者保証なしで組めるか」を確認する
- 運転資金は固定費×月数から逆算して厚めに持ち、助成金は計画の前提にしない。資金が薄くなったら「粘る」より「早く動く」
私たちフッテージは、独立開業から拠点を広げてきた過程で得た資金調達・資金繰りの実践知を、開業支援・経営支援のかたちで提供しています。開業資金の作り方や運転資金の設計にお悩みの方は、収支計画の点検からでもお気軽にご相談ください。