訪問看護ステーションの指定申請|流れ・必要書類・法人格の選び方を経営支援の専門家が解説
【結論】指定申請は「書類仕事」ではなく、開業日を決める律速工程です。訪問看護ステーションは、介護保険法にもとづく都道府県(政令市・中核市では市)の指定を受けて初めて開業できます。多くの自治体で申請の受付は月1回、受理から指定までは1〜2か月かかり、指定日は毎月1日付です。つまり「いつ申請書を出せるか」で開業月が1〜2か月単位で動きます。さらにその手前には、法人設立・事務所契約・人員確保という前提条件があり、どれか1つが遅れると申請自体が出せません。本記事では、①法人格をどう選ぶか、②指定日から逆算したスケジュールの組み方、③必要書類と差し戻されやすいポイント、の3つに絞って解説します。私たちフッテージは全国15拠点(2026年8月時点)を開設してきた実務経験から、つまずきやすい箇所を具体的にお伝えします。
なお、物件・資金・採用まで含めた開業全体の進め方は訪問看護ステーション立ち上げ完全ガイド(開設までの5フェーズ)にまとめています。本記事は指定申請の手続きそのものを深掘りします。
この記事でわかること ・指定申請の全体フロー(申請から指定までの期間) ・法人格(株式会社・合同会社・NPO法人等)の選び方と定款の落とし穴 ・指定の4要件(法人格・人員・設備・運営基準) ・必要書類の一覧と、差し戻されやすいポイント ・指定後すぐにやるべき届出
Q: 指定申請から開業まで、どれくらいかかるのか?
法人設立の着手から数えると、標準的には4〜6か月です。内訳はおおむね、法人設立に2週間〜1か月、事務所の契約と人員確保に1〜3か月(並行)、指定申請の受理から指定まで1〜2か月です。ただし採用活動だけは別枠で、求人掲載やリファラル採用(知人・元同僚への声かけ)は開設の9か月以上前から始めることをお勧めします。看護師の採用は最も読めない工程で、ここが遅れると他の準備がすべて揃っていても申請できません。
重要なのは、多くの自治体で申請受付が月1回に区切られている点です。締切を1日過ぎれば、受付は翌月、指定はさらにその先になります。「開業を1か月後ろにずらす」とは、家賃と人件費が売上ゼロのまま1か月余分に出ていくことを意味します。だからスケジュールは開業希望日(指定日)から逆算して組みます。
| 逆算の目安 | やること |
|---|---|
| 9か月以上前 | 採用活動の開始(求人掲載・リファラル採用の声かけ) |
| 指定日の5〜6か月前 | 法人設立(定款の事業目的に注意)・事業計画の確定 |
| 4〜3か月前 | 事務所の契約・管理者と看護職員の採用内定 |
| 2〜3か月前 | 申請書類の作成・自治体への事前相談 |
| 1〜2か月前 | 申請受理・審査・補正対応 |
| 指定日(毎月1日付が多い) | 指定・開業 |
受付回数・審査期間・様式は自治体ごとに違います。最初にやるべきことは、指定権者(都道府県または政令市・中核市)の手引きを取り寄せ、受付締切日を確認することです。
Q: 法人格はどれを選べばよいのか?
指定は法人にしか出ないため、個人事業では開業できません。実務上の選択肢は株式会社・合同会社が中心で、NPO法人・一般社団法人等でも指定は受けられます。
| 法人格 | 設立費用の目安 | 設立期間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 株式会社 | 登録免許税15万円〜+定款認証費用 | 2週間〜1か月 | 信用力が高く、融資・採用で説明しやすい |
| 合同会社 | 登録免許税6万円〜(定款認証不要) | 1〜2週間 | 設立コスト最小。小規模スタート向き |
| NPO法人 | 数千円程度(認証制) | 数か月 | 費用は低いが所轄庁の認証に時間がかかる |
| 一般社団法人 | 登録免許税6万円〜+定款認証費用 | 2週間〜1か月 | 非営利型の選択肢 |
判断軸は3つです。第1に設立スピード。開業を急ぐならNPO法人は認証に数か月かかる点が不利です。第2に資金調達。創業融資の審査では事業計画の中身が本質ですが、対外的な説明のしやすさでは株式会社に分があります。第3に将来の展開。多拠点化や事業売却まで視野に入れるなら、株式会社が最も選択肢を狭めません。
最大の落とし穴は、法人格の種類より定款の「事業目的」です。 定款に「介護保険法に基づく居宅サービス事業」「健康保険法に基づく訪問看護事業」等の文言がないと、指定申請は受け付けられません。後から目的を追加する場合、定款変更と変更登記が必要になり、時間を失います。設立時に、指定権者の手引きにある目的の記載例をそのまま入れておくことをお勧めします。
Q: 指定を受けるための要件は何か?
申請の前提となる要件は4つです。
- 法人格: 上記のとおり。定款の事業目的まで含めて確認されます
- 人員基準: 看護職員(保健師・看護師・准看護師)を常勤換算2.5人以上、うち1人は常勤。管理者は原則として常勤の保健師または看護師です(根拠: 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準〔平成11年厚生省令第37号〕)
- 設備基準: 事業の運営に必要な広さの事務室と、感染症予防に必要な設備等
- 運営基準: 運営規程・重要事項説明書・記録の整備など、運営体制に関する基準
このうち開業準備で最も時間がかかるのは人員です。申請書には従業者の勤務形態一覧表を添付するため、申請時点で採用が確定している必要があります。常勤換算2.5人の計算方法と、ギリギリの人数で始めるリスクは訪問看護ステーションの人員基準と配置|常勤換算2.5人の計算方法で詳しく扱っています。
Q: 必要書類には何があるのか?
自治体により多少異なりますが、共通する主要書類は次のとおりです。
- 指定申請書・訪問看護事業所の指定に係る記載事項(付表)
- 法人の登記事項証明書・定款の写し
- 従業者の勤務形態一覧表・資格証の写し
- 管理者の経歴書・資格証の写し
- 事業所の平面図・写真、賃貸借契約書の写し
- 運営規程・利用者からの苦情処理の概要
- 誓約書(欠格事由に該当しないこと)
- 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書(加算の届出)
差し戻されやすいのは次の4点です。 ①勤務形態一覧表の常勤換算の計算誤り、②管理者の兼務の書き方(管理者がどの時間帯に看護職員として勤務するかの整合)、③平面図の不備(事務スペースと相談スペースの区分が読み取れない)、④定款の事業目的の文言不足。いずれも補正には日数がかかり、受付が月1回の自治体では致命的な遅れになります。事前相談の段階で、この4点を自治体の担当窓口に直接確認しておくことをお勧めします。
Q: 自治体への事前相談では何を確認すればよいのか?
多くの指定権者は、申請書の提出前に事前相談(事前協議)の機会を設けています。ここを「様式をもらう場」で終わらせず、差し戻し要因を先に潰す場として使うのが実務のコツです。確認すべきは次の5点です。
- 受付締切日と指定日: 何日までに受理されれば何月1日指定になるか。郵送か持参か、予約制かも確認します
- 定款の事業目的の文言: 設立前なら記載例をもらい、設立済みなら現在の定款で通るかをその場で見てもらいます
- 平面図の要求水準: 事務スペース・相談スペースの区分、面積の目安、写真の要否
- 管理者兼務の書き方: 勤務形態一覧表で管理業務と看護業務をどう区分して書くか
- 加算の体制届の提出タイミング: 指定申請と同時か、指定後か。開業月から算定するための期限
事前相談の記録は日付・担当者名とともに残してください。担当者の口頭回答が後で覆るケースは稀にありますが、記録があれば協議の起点になります。なお、賃貸物件は「指定が取れなかったら契約をどうするか」という順序問題を抱えます。契約前に事前相談で物件の要件充足を確認しておくと、このリスクを小さくできます。
Q: 指定を受けた後、すぐにやることは?
指定はゴールではなく、届出の起点です。開業直後の請求・受け入れに直結するものから順に挙げます。
- 医療保険のみなし指定の確認: 介護保険の指定訪問看護事業者は、健康保険法上の指定訪問看護事業者とみなされます。別途の申請は原則不要ですが、地方厚生局への届出事項(加算の届出等)は別にあります
- 緊急時訪問看護加算・24時間対応体制加算等の体制届: 開業月から算定するには事前の届出が必要です
- 生活保護法・中国残留邦人等支援法の指定申請: 生活保護受給者の利用依頼を受けるために必要です
- 労災保険の指定: 労災の訪問看護を受けるための指定です
また、指定は6年ごとの更新制です。更新時期の管理も、開業時に仕組みとして決めておくと安心です。
よくあるご質問(FAQ)
Q: 指定申請にかかる費用はいくらですか?
申請手数料は自治体により異なり、数万円程度の手数料を設ける自治体と無料の自治体があります。行政書士等に申請代行を依頼する場合は別途報酬がかかります。金額は指定権者の手引きで確認してください。
Q: 個人事業主のままでは開業できませんか?
できません。介護保険法上、指定居宅サービス事業者は法人であることが要件です。まず法人を設立し、定款の事業目的に訪問看護事業を明記する必要があります。
Q: 申請してから指定までの間に、営業活動をしてもよいですか?
指定前にサービス提供・契約はできませんが、ケアマネジャーへの挨拶回りや内覧会等の周知活動は可能です。指定日からすぐ依頼を受けられるかどうかは、この期間の動きで大きく変わります。
Q: サテライト(出張所)も同じ申請が必要ですか?
サテライトは本体事業所の一部として扱われ、単独の指定申請ではなく変更届等での手続きになります。要件・手続きは自治体により運用差があるため、事前相談が必須です。
Q: 指定申請を自分でやるか、専門家に頼むかの判断基準は?
書類作成そのものは経営者自身でも可能です。ただし受付が月1回の自治体で差し戻しを受けると1か月を失うため、初回開業で時間的余裕がない場合は、指定申請の実績がある行政書士や開業支援者に確認だけでも入れる価値があります。
まとめ|指定申請は「開業日からの逆算」で設計する
- 指定申請は多くの自治体で受付が月1回・指定まで1〜2か月。開業希望日(指定日)から逆算してスケジュールを組む
- 法人格は設立スピード・資金調達・将来の展開の3軸で選ぶ。最大の落とし穴は定款の事業目的の書き漏れ
- 指定の4要件(法人格・人員・設備・運営)のうち、最も時間がかかるのは人員確保
- 差し戻しの典型は、常勤換算の計算誤り・管理者兼務の記載・平面図・定款目的の4点。事前相談で潰す
- 指定後は、加算の体制届・生活保護法指定・労災指定までを開業前の準備に含める
私たちフッテージは、全国15拠点(2026年8月時点)を開設してきた実務経験をもとに、指定申請を含む開業準備の支援を行っています。スケジュールの組み方や書類の確認からでも、お気軽にご相談ください。