「利用者が増えない」を組織で解く|ドラッカーのマーケティング観から考える訪問看護の営業設計

この記事でわかること

  • 訪問看護ステーションで「利用者が増えない」根本原因の整理

  • ドラッカーが提唱した「マーケティングの目的はセリングを不要にすること」の訪問看護への応用

  • 個人の営業力に依存せず、組織として地域連携の仕組みを構築するための具体的ステップ

  • FOOTAGE株式会社が実際に運用している営業設計のフレームワーク

  • すぐに使えるチェックリストとKPI設定の考え方

はじめに:「営業が苦手」は問題ではなく、設計の問題である

訪問看護ステーションを開設して半年、あるいは1年が経過しても利用者数が伸び悩んでいる——そういった相談を、私たちFOOTAGEは経営支援の現場で繰り返し受けてきました。

話を聞くと、多くの場合、管理者やスタッフが「営業が苦手で」「ケアマネに挨拶に行ったが効果がなく」「何をすればいいのかわからない」という状況に陥っています。

しかし、その本質的な問題は「営業力の不足」ではありません。組織として利用者獲得の仕組みが設計されていないことにあります。

本記事では、経営学の父・ピーター・ドラッカーのマーケティング哲学を軸に、訪問看護ステーションが陥りがちな「個人依存の営業」から脱却し、組織として持続的に利用者を獲得し続ける仕組みの作り方を解説します。

なぜ「頑張って営業しても増えない」のか:構造的な失敗パターン

よくある失敗の3パターン

訪問看護ステーションの営業が機能しない場合、原因はほぼ次の3つのいずれかに分類されます。

パターン①:担当者の属人化

管理者や特定のスタッフが「顔」として営業活動を担い、その人が離職・休職した瞬間に関係が途絶えるケース。ケアマネジャーやMSW(医療ソーシャルワーカー)との関係が「個人の人脈」で維持されているため、組織として継続できません。

パターン②:アプローチ先の絞り込みができていない

半径5km以内に存在するケアマネ事務所・病院・クリニックすべてを均等に回ろうとして、関係性がどこでも浅いまま終わる。ターゲットの優先順位が定まっていないため、リソース配分が分散してしまいます。

パターン③:「来てもらう理由」がない

「よろしくお願いします」という挨拶営業に留まり、紹介先が「この事業所に紹介するメリット」を感じられていない。サービスの差別化が言語化されておらず、既存事業所との違いが伝わっていません。

共通する根本原因:マーケティング設計の欠如

これらの失敗に共通しているのは、「売る(セリング)」から始まっていることです。名刺を配り、パンフレットを渡し、対応の速さをアピールする——確かにそれ自体は間違いではありませんが、それより前に行うべき設計が抜け落ちています。

ドラッカーの教え:「マーケティングの目的はセリングを不要にすること」

ドラッカーが指摘した「セリング」の限界

ピーター・ドラッカーは主著『マネジメント』(1973年)の中で、次のような言葉を残しています。

これは製造業やBtoCのビジネスだけに当てはまる話ではありません。訪問看護という「対人サービス×地域医療福祉連携」の世界でも、この原則は鮮やかに機能します。

訪問看護に当てはめると何が変わるか

ドラッカーの言葉を訪問看護の文脈で読み直すと、次のように解釈できます。

つまり、訪問看護における「マーケティング」の本質は、「紹介してください」と頼みに行く前に、「紹介したくなる理由」を事業所の側が設計することにあります。

「想起集合(Evoked Set)」という考え方

マーケティング理論には「想起集合」という概念があります。消費者(ここでは紹介元)が選択を行う際に、無意識に思い浮かべる候補ブランドの集合です。

ケアマネジャーが「精神疾患のある利用者を紹介したい」と考えたとき、真っ先に頭に浮かぶ事業所になれているか。MSWが「ターミナル期の患者をどこかに紹介したい」と考えたとき、選択肢の一番上にいられているか。

この「想起集合への参入」こそが、訪問看護マーケティングの核心です。それは一度の挨拶では達成できません。継続的な関係構築と、明確な専門性の発信によって初めて実現します。

組織で解く:個人依存から脱却する地域連携の仕組み設計

なぜ「個人の営業力」に頼ってはいけないのか

個人の人間関係や営業センスに頼る体制には、構造的な脆弱性があります。

  • 離職リスク:その人が辞めると紹介ルートが消える

  • スケール限界:一人の行動量には物理的な上限がある

  • 質のバラつき:人によって伝わる内容・印象が変わる

  • 属人ノウハウの蓄積不可:成功体験が組織の資産にならない

訪問看護ステーションは、地域医療福祉連携において「事業所として信頼されること」が必要です。そのためには、個人の顔ではなく、組織として一貫したメッセージを届ける仕組みが求められます。

組織的地域連携の5ステップ

FOOTAGEが支援先の事業所と構築してきた地域連携フレームワークを、以下に示します。

STEP 1|自事業所の「強みの言語化」

まず「何が得意な事業所か」を明文化します。

  • 対応できる疾患・状態(精神、ALS、小児、ターミナル、認知症など)

  • 対応できる医療行為の範囲(点滴、人工呼吸器、CVポートなど)

  • 対応可能な時間帯・緊急対応の体制

  • 多職種との連携実績(医師・PT/OT/ST・薬剤師・MSWとの協働)

これを1枚のA4シートにまとめ、スタッフ全員が同じ内容を説明できる状態にします。

STEP 2|紹介元のマッピングと優先順位づけ

自事業所の商圏内(概ね半径5〜10km)に存在する紹介元を以下のカテゴリで整理します。

リスト化したら「月に何件の紹介可能性があるか」「自事業所の強みとの親和性」の2軸でABC評価を行い、A先(月1回以上接触)・B先(月1回程度)・C先(四半期1回)に分類します。

STEP 3|接触チャネルの多層化

訪問営業だけに頼らず、複数のチャネルで「存在を認知・想起される状態」を作ります。

  • 直接訪問:担当者ローテーションで属人化を防ぐ(管理者・サ責・スタッフが順番に)

  • 事例報告・情報共有:「○○さんの状態が改善しました」という連絡を定期的に入れる

  • 勉強会・事例検討会の開催:年2〜3回、ケアマネ向けの勉強会を主催する

  • ニュースレター・LINE配信:月1回、地域の医療福祉情報や事業所の取り組みを配信

  • SNS・ウェブサイト:更新頻度は問わないが「検索されたときに存在が確認できる」状態を維持

STEP 4|担当者ローテーションと引き継ぎルールの設定

個人依存を防ぐための社内ルールを設計します。

STEP 5|紹介後のフィードバックループの構築

紹介をもらった後のアクションが、次の紹介を生む最重要プロセスです。

  • 紹介を受けたら 24時間以内に進捗を紹介元へ報告

  • 初回訪問後に「アセスメント結果の共有」を行う(守秘義務に配慮しながら)

  • 月1回、担当ケアマネへの「状態報告」連絡を習慣化する

  • 「紹介してよかった」と感じてもらえる体験を積み重ねる

このループが回り始めると、「また紹介したい」という自然な動機が生まれ、やがてセリングが不要な状態に近づきます。

KPI設計と数値管理:「感覚経営」から脱却するための指標

訪問看護ステーションの営業KPI基本セット

利用者獲得を組織として管理するためには、定性的な「頑張っています」ではなく、定量的な数値で進捗を把握することが不可欠です。

以下は、月次でモニタリングすべき最低限のKPIです。

損益分岐点から逆算する「必要利用者数」の計算

以下に逆算の例を示します。

まず自事業所の損益分岐点を明確にします。

この数字から逆算して、月次の新規獲得目標を設定します。

この逆算を持っていると、「何件訪問すれば達成できるか」という行動量の設計が可能になります。

チェックリスト:地域連携の仕組みが整っているか確認する20項目

以下のチェックリストで、現在の仕組みの完成度を確認してください。

【基盤整備】

【接触・関係構築】

【紹介後フォロー】

【数値管理】

15項目以上チェックできている場合:仕組みの基礎は整っています。次は精度と継続性を高める段階です。

10〜14項目:部分的に機能していますが、抜け漏れが利用者獲得の停滞を生んでいる可能性があります。

9項目以下:仕組みの設計から再構築が必要です。

FOOTAGE実体験:「個人の営業力ゼロ」から月20件紹介を実現した仕組み

開設当初の失敗:「愛想のよいスタッフ頼み」の限界

FOOTAGEが訪問看護ステーションの運営を始めた当初、地域連携は特定のスタッフの人柄と人脈に依存していました。そのスタッフは確かに優秀で、ケアマネからの評判も高く、1年目から紹介数は安定していました。

しかし、そのスタッフが退職した月から、紹介件数は3分の1以下に落ちました。ケアマネたちは「あの人に頼みたい」と思っていたのであって、「あの事業所に頼みたい」という関係性はまだ構築できていなかったのです。

この失敗が、組織的な地域連携設計を本格的に構築するきっかけになりました。

立て直しで実施した3つの施策

施策①:地域連携マニュアルの整備

それまで属人的だった関係構築の方法を、「誰がやっても同じクオリティになる」レベルまでマニュアル化しました。初回訪問のトークスクリプト、情報提供の様式、フォローアップの頻度と内容を全て文書化し、スタッフ全員が同じ動きができる状態を作りました。

施策②:紹介元のセグメント化と担当制の導入

コーディネーターが全ての紹介元を担当する体制から、「病院MSW担当」「居宅ケアマネ担当」「相談支援担当」の3つのセグメントに分けて担当者を配置しました。専門特化することで、それぞれの担当者が深い関係性を作れるようになり、紹介元の課題を先回りして解決できるようになりました。

施策③:「役立つ情報を届ける」コンテンツ戦略

月1回、担当ケアマネや連携MSWに対して「最近の状態共有」と合わせて、「こんな医療情報があります」「こんな制度が使えます」という形の情報提供を開始しました。押しつけがましい営業ではなく、「この事業所と話すと有益な情報が得られる」という印象を形成することで、自然に相談が増える環境を作りました。

結果:担当者が変わっても紹介件数が維持される組織へ

これらの施策導入から12ヶ月後、紹介件数は月20件前後で安定しました。担当者の産休・育休・異動があっても、紹介件数の大きな落ち込みはなくなりました。

これはまさにドラッカーが言う「おのずから売れるようにする」状態——つまり、事業所の存在と専門性が地域に定着した結果です。

まとめに向けて:「仕組みのある事業所」が長期的に勝つ理由

訪問看護業界は、今後も競合事業所の増加と、紹介元の「選別眼」の高まりが続くと予測されます。この環境で生き残るのは、スタッフ個人の人柄や努力だけで戦う事業所ではなく、組織として再現性のある利用者獲得の仕組みを持つ事業所です。

ドラッカーの言葉に戻ると、「おのずから売れるようにする」ためには、地道な設計と積み重ねが必要です。しかしその積み重ねは、一度仕組みとして定着すれば、スタッフが変わっても、時代が変わっても、競合が増えても、機能し続けます。

よくある質問(FAQ)

Q1. ケアマネへの挨拶営業は必要ないのでしょうか?

必要です。ただし、挨拶営業は「仕組みの入口」に過ぎません。重要なのは初回訪問ではなく、2回目・3回目以降の接触でどれだけ「価値のある情報提供者」として認知されるかです。1回の挨拶で終わる営業は、記憶に残らないまま終わります。

Q2. 小規模ステーション(スタッフ5名以下)でも仕組み化は可能ですか?

可能です。むしろ小規模だからこそ、1人が倒れたときのリスクが大きいため、仕組み化の優先度は高いと言えます。まずは「紹介元リストの作成」と「紹介後フォローのルール化」の2点から始めてください。大がかりなシステムは不要で、共有スプレッドシート1枚から始められます。

Q3. 紹介元のケアマネが「うちはもう付き合う事業所が決まっている」と言います。どう対応すればよいですか?

これは非常によくある壁です。このような場合、正面突破は得策ではありません。「既存の事業所では対応が難しいケース」に絞って「もし困ったことがあれば相談してください」という入口を作ることが有効です。困難事例・医療依存度の高いケース・緊急対応など、他の事業所が敬遠しやすい分野での専門性を打ち出すことで、「困ったときの選択肢」として想起される位置づけを確立します。

Q4. 開設から何ヶ月で月20件の新規紹介を目指すのが現実的ですか?

地域の競合状況・既存の人脈・スタッフ数によって異なりますが、仕組みを正しく設計した場合、開設から6〜9ヶ月で月10〜15件、12〜18ヶ月で月20件以上の紹介を達成するケースが多く見られます。開設直後の3ヶ月は「種まき」に徹し、関係構築に注力することが、中長期での安定につながります。

Q5. スタッフに営業活動を担ってもらうには、どう動機づければよいですか?

「営業」という言葉を使わないことが有効な場合があります。看護師・リハビリスタッフにとって、紹介元のケアマネに「利用者の状態を報告する」「困っているケースを相談し合う」という行動は、専門職として自然な連携活動です。「地域連携活動」として位置づけ直し、訪問時間と同様に「業務の一部」として計画に組み込むことで、負担感なく継続できる体制になります。

まとめ

「利用者が増えない」という課題の多くは、個人の能力や努力の問題ではなく、組織としての仕組みが設計されていないことに起因しています。

ドラッカーが半世紀以上前に指摘したように、マーケティングの本質は「セリングを不要にすること」——つまり、頼まなくても紹介が来る状態を、計画的に作り出すことです。

そのためには以下の5つのステップが不可欠です。

  1. 自事業所の強みを言語化する

  2. 紹介元をマッピングし、優先順位をつける

  3. 複数のチャネルで接触を継続する

  4. 担当者ローテーションと引き継ぎルールを整備する

  5. 紹介後のフィードバックループを回す

そしてこれらの活動を、KPIで数値管理しながら継続することで、属人的な営業依存から脱却した「仕組みのある事業所」が完成します。

FOOTAGEは訪問看護ステーションの開設支援・フランチャイズ展開において、この地域連携の枠組みを支援先事業所と共に構築・運用してきました。「仕組みがなくて利用者が増えない」状態から抜け出したい方は、ぜひ一度ご相談ください。

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