結論:体温や血圧の測定、軟膏の塗布や湿布の貼付、点眼、坐薬の挿入、爪切り、ストーマのパウチにたまった排泄物を捨てることなどは、条件を満たせば「原則として医療行為ではない」とされ、家族やヘルパーが行えます。 根拠は厚生労働省の通知(平成17年7月26日 医政発第0726005号)で、5項目と注記の6項目が列挙されています。さらに令和4年12月1日の通知(医政発1201第4号)で、インスリン注射の準備・片付けや在宅酸素の準備などが追加されました。一方で、摘便や褥瘡(床ずれ)の処置、点滴の管理などは医療行為にあたり、看護師が行います。
この記事でわかること
- 「医療行為(医行為)」とは何か、どこからが医療行為になるのか
- 厚生労働省の通知で「原則として医療行為ではない」とされているケアの一覧
- 家族・ヘルパーには任せられず、看護師が行うケア
- 介護職員が痰の吸引や経管栄養を行うための条件
- 訪問看護に相談したほうがよい場面
在宅で家族を介護していると、「目薬をさしてあげてもいいのか」「ヘルパーさんに薬を塗ってもらえるのか」と迷う場面が出てきます。この記事では、通知の内容をもとに、誰がどこまでしてよいのかを整理します。
Q: そもそも「医療行為(医行為)」とは何か?
医師法第17条などにより、医師や看護師などの免許を持たない人が「医業」を行うことは禁止されています。厚生労働省は、医業を次のように説明しています。
当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと
(厚生労働省 平成17年7月26日 医政発第0726005号)
つまり、専門的な判断や技術がなければ体を傷つけるおそれのある行為が「医行為」で、これを仕事として繰り返し行えるのは医師や看護師などに限られます。ただし同じ通知では、介護の現場で医行為の範囲が「不必要に拡大解釈されている」との声があることも踏まえ、原則として医行為ではない行為を具体的に示しています。
Q: 医療行為に当たらないとされているケアは?
平成17年の通知で「原則として医行為ではない」とされた行為は、次のとおりです。
| 区分 | 行為 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 測定 | 体温測定(わきの下・耳式) | 特になし |
| 測定 | 自動血圧測定器での血圧測定 | 特になし |
| 測定 | パルスオキシメーターの装着 | 新生児以外で入院治療が不要な人 |
| 処置 | 軽い切り傷・擦り傷・やけどの手当て | 専門的な判断や技術が不要なもの |
| 薬の使用 | 軟膏の塗布・湿布の貼付・点眼 | 下の3条件を満たす場合(褥瘡の処置は除く) |
| 薬の使用 | 一包化された飲み薬の介助・坐薬の挿入・鼻への噴霧 | 下の3条件を満たす場合 |
| 身の回り | 爪切り・爪やすり | 爪や周囲の皮膚に異常がない |
| 身の回り | 日常的な口腔ケア・耳あかの除去 | 重い歯周病や耳垢塞栓がない |
| 排泄 | ストーマのパウチにたまった排泄物を捨てる | 肌に貼ったパウチの交換は除く |
| 排泄 | 自己導尿の補助(カテーテルの準備・体位の保持) | 本人が導尿する場合の補助 |
| 排泄 | 市販の使い捨てグリセリン浣腸 | 成人用は40g程度以下など容量の条件あり |
薬の使用の介助には、次の3つの条件があります。
- 入院・入所して治療する必要がなく、容態が安定している
- 副作用の危険性や薬の量の調整のために、医師や看護師が続けて経過を見る必要がない
- 飲み薬では誤嚥(ごえん)の可能性、坐薬では肛門からの出血の可能性など、使い方そのものに専門的な配慮が必要ではない
加えて、医師や看護師がこの3条件を確認し、免許のない人が介助できることを本人や家族に伝えていることが前提です。薬は医師の処方を受け、患者ごとに区分されたものに限られます。
なお、肌に貼ったストーマ装具の交換は平成17年の通知では除かれていましたが、平成23年7月の厚生労働省の回答で、専門的な管理が必要ない場合は原則として医行為にあたらないとされました。詳しくはストーマ装具(パウチ)交換は誰がしてよい?をご覧ください。
Q: 2022年の通知で追加された行為は?
令和4年12月の通知では、「介護現場で実施されることが多いと考えられる行為」が追加で示されました。主なものは次のとおりです。
- インスリン注射の場面:注射の声かけ・見守り、未使用の注射器を手渡す、使い終わった注射器の片付け(針を抜いて処分することは除く)、医師の指示した単位数と目盛りが合っているかを読み取る
- 血糖測定:持続血糖測定器のセンサーの貼付と、測定値の読み取り
- 経管栄養:準備と片付け(栄養を注入すること・注入を止めることは除く)、外れた経鼻胃管のテープを決められた位置に貼り直す。チューブが胃に入っているかの確認や胃ろうの状態の確認は、医師か看護師が行います
- 痰の吸引:吸引器にたまった汚水の廃棄、水の補充
- 在宅酸素:指示された酸素流量の設定、酸素を流していない状態でのマスクやカニューレの準備、加湿瓶の水の交換。酸素吸入を始めること・止めることは、医師・看護師・ご本人が行います
- 膀胱留置カテーテル:蓄尿バッグの尿を捨てる、尿の量と色の確認
- 薬の使用:水虫や爪白癬の爪への軟膏の塗布、吸入薬の吸入、分包された液剤の内服の介助(平成17年の通知と同じ3条件を満たす場合)
- その他:とろみ食を含む食事介助、入れ歯の着脱と洗浄
いずれも「病状が不安定で専門的な管理が必要な場合は医行為とされることもあり得る」と注記されています。また、測った血糖値や血圧の数値をもとに「薬を使うかどうか」を判断することは医行為であり、事前に決められた範囲から外れた値が出たら医師や看護師に報告することとされています。
Q: 家族やヘルパーに任せられないケアは?
次のようなケアは、専門的な判断や技術が必要な医行為として扱われます。訪問看護師や医師が行います。
- 摘便(指で便をかき出す):直腸の粘膜を傷つけるおそれがあり、医行為です(摘便・浣腸は家族がしてよい?)
- 褥瘡(床ずれ)の処置:軟膏の塗布でも、褥瘡の処置は通知の対象から除かれています
- 点滴・皮下点滴の管理:針の刺入や滴下の調整は看護師が行います(在宅での皮下点滴・持続皮下注射とは)
- 数値にもとづく薬の判断:血圧や血糖値を見て薬を増やす・やめるといった判断
- 異常のある爪の爪切り:巻き爪や爪の周りの炎症がある場合、糖尿病などで専門的な管理が必要な場合
Q: 家族が医療的なケアをするのは問題ないのか?
在宅では、ご家族が痰の吸引や胃ろうからの栄養注入を担っている場合があります。厚生労働省の通知では、医師法が禁じる「医業」を、免許のない人が医行為を「反復継続する意思をもって行うこと」と説明しています。
ご家族が行うケアの扱いは、ご本人の状態やケアの内容で変わります。始める前に主治医と訪問看護師に確認し、手順と注意点の指導を受けてから始めてください。痰の吸引の家族指導については在宅での吸引ケアと訪問看護、胃ろうの注入については胃ろう(PEG)の在宅管理で詳しく解説しています。
Q: 介護職員が痰の吸引や経管栄養をするには?
痰の吸引と経管栄養は医行為ですが、社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、2012年(平成24年)4月から、介護福祉士と、研修を修了して都道府県の認定を受けた介護職員は、医師の指示のもとで行えるようになりました。対象は次の行為です。
- 痰の吸引(口の中・鼻の中・気管カニューレ内部)
- 経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養)
行う事業所も、医師・看護職員との連携などの要件を満たして、事業所ごとに都道府県へ登録する必要があります。ヘルパーさんに吸引や経管栄養をお願いしたい場合は、まずケアマネジャーに、対応できる事業所があるかを相談してください。
Q: 訪問看護に相談したほうがよいのはどんなとき?
「医療行為ではない」とされるケアでも、ご本人の状態によっては看護師の判断が必要になります。次のような場面では、訪問看護にご相談ください。
- 皮膚の赤み・ただれ・傷が治らない(褥瘡やスキンテアの可能性)
- 薬を飲み込みにくい、むせることが増えた
- 測った血圧や血糖値がいつもと違う
- 吸引や胃ろうのケアを家族が始める前に、手順を教わりたい
- ヘルパーさんにどこまで頼めるか分からない
Footage訪問看護ステーションでは、訪問の中で、ご家族やヘルパーさんが担える部分と看護師が担う部分をご本人の状態に合わせて一緒に整理しています。ご家族への手技の指導や、ケアマネジャーとの役割分担の調整も行っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ヘルパーさんに目薬をさしてもらえますか?
容態が安定していて、医師や看護師が条件を確認していれば、点眼の介助は原則として医行為ではないとされています。初めてお願いする時は、ケアマネジャーや訪問看護師を通して条件を確認しておくと安心です。
Q2. 床ずれに軟膏を塗るのはヘルパーさんでもできますか?
褥瘡の処置は通知の対象から除かれているため、看護師が行います。皮膚の保湿のための軟膏の塗布など、褥瘡の処置ではない場合は原則として介助できます。
Q3. 家族が爪を切るのは問題ありませんか?
ご家族が身内の爪を切ることに問題はありません。ただし巻き爪、爪の周りの赤みや腫れ、糖尿病がある場合は、傷から感染が広がるおそれがあります。訪問看護師にご相談ください。
Q4. ヘルパーさんに胃ろうからの栄養の注入を頼めますか?
介護福祉士か、研修を修了して認定を受けた介護職員で、都道府県に登録した事業所であれば、医師の指示のもとで行えます。対応できる事業所かどうかは、ケアマネジャーに確認してください。準備と片付けだけであれば、令和4年の通知で原則として医行為ではないとされています。
Q5. 血圧を測って、高ければ薬を飲ませてよいですか?
血圧の測定は医行為ではありませんが、数値を見て薬を使うかどうかを決めるのは医行為です。事前に医師から指示された範囲を外れた場合は、医師か訪問看護師に連絡してください。
まとめ
体温・血圧の測定、軟膏や湿布、点眼、坐薬、爪切り、ストーマの排泄物の処理などは、厚生労働省の通知で「原則として医療行為ではない」とされ、条件を満たせば家族やヘルパーが行えます。2022年の通知では、インスリン注射の準備や在宅酸素の準備なども加わりました。一方で、摘便や褥瘡の処置、点滴の管理、数値にもとづく薬の判断は医療行為です。どこまでを誰が担うかは、ご本人の状態で変わります。迷ったときは、ひとりで抱え込まずに訪問看護へご相談ください。
参考資料
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日 医政発第0726005号
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」令和4年12月1日 医政発1201第4号
- 厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」https://www.mhlw.go.jp/content/000464962.pdf
- 厚生労働省「原則として医行為ではない行為について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/gensoku_ikoui.html
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