筋肉注射は、皮下組織の下にある筋肉に薬液を入れる注射です。米国CDC(疾病予防管理センター)のワクチン接種の手引き『Vaccine Administration』は、筋肉内注射を皮膚に対して90度の角度で刺し、部位は年齢に応じて大腿前外側か上腕の三角筋が望ましいとしています。日本の定期接種実施要領も、予防接種(ワクチン)の筋肉内注射について、部位を原則として三角筋部または大腿四頭筋部とし、5種混合ワクチンなどでは乳児は大腿四頭筋部と定めています。ただし同要領もCDCの手引きも予防接種の規定で、一般の薬剤の注射には添付文書と施設の手順が優先します。針の長さや、どの部位に打つかは、薬剤の添付文書、施設の手順、医師の指示で変わります。看護職・看護学生の方に向けて、部位の選び方、手順、神経や血管を避ける注意、在宅での注意点を整理します。
この記事でわかること
- 筋肉注射と皮下注射の違い
- 三角筋・大腿・臀部の特徴と、選び方の考え方
- 針の長さと角度の考え方
- 神経損傷や血管内への誤注入を避ける注意
- 訪問看護での関わり
Q: 筋肉注射とは?皮下注射との違いは?
筋肉注射(筋肉内注射)は、薬液を筋肉の中へ入れる方法です。皮下注射は、皮膚の浅い層の下にある皮下組織へ入れます。
| 種類 | 薬液を入れる場所 | 定期接種実施要領(予防接種)での部位 |
|---|---|---|
| 皮下注射 | 皮下組織 | 原則として上腕伸側(外側) |
| 筋肉内注射 | 筋肉 | 原則として三角筋部または大腿四頭筋部(乳児は大腿四頭筋部) |
どちらの経路で投与するかは、薬剤ごとの添付文書で決まっています。「筋肉内注射」と指定された薬剤を皮下に入れたり、その逆をしたりしないよう、実施前に指示と薬剤を照合します。皮下注射の部位と手順は皮下注射の部位とやり方で解説しています。
Q: 筋肉注射はどの部位に打つ?
予防接種(ワクチン)については、定期接種実施要領が、5種混合ワクチンと小児の肺炎球菌ワクチンの筋肉内注射の部位を原則として三角筋部または大腿四頭筋部とし、乳児では三角筋部ではなく大腿四頭筋部と定めています。一般の薬剤の注射の部位は、添付文書と施設の手順、医師の指示で決まります。CDCの『Vaccine Administration』も、年齢に応じて大腿前外側か上腕の三角筋が望ましいとしています。
| 部位 | 特徴 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 三角筋部(上腕) | 成人のワクチン接種で通常用いられる部位(CDC) | 筋肉量が少ない人では針の長さに注意 |
| 大腿前外側(大腿四頭筋部) | 乳児で推奨される部位(CDC。定期接種実施要領も、5種混合ワクチンなどで乳児は大腿四頭筋部)。成人にも使える | 針が短すぎると筋肉に届かない |
| 臀部 | 薬剤によって指定される | 避けるべきと明記されている場合がある |
臀部については、定期接種実施要領が、ヒトパピローマウイルス感染症、帯状疱疹、高齢者の肺炎球菌感染症の予防接種では臀部に接種しないと定めています。CDCも、成人のB型肝炎ワクチンでは、臀部に打つと三角筋に打つ場合より免疫原性が著しく低くなると記しています。薬剤によって指定や避けるべき部位が違うため、添付文書で確認します。
部位を選ぶときに確認すること
- 添付文書に部位の指定や禁止がないか
- 皮膚に発赤、腫れ、傷、硬結がないか
- 筋肉量が十分か。定期接種実施要領は、高齢者の肺炎球菌ワクチンについて、明らかに筋肉量が少ない場合などは大腿前外側部に接種することも可能としています
Q: 針の長さと角度はどう決める?
角度について、CDCは筋肉内注射を皮膚に対して90度で行うとしています。針は22〜25ゲージが示されています。
針の長さは、部位と体格で変わります。CDCの『Vaccine Administration』は、成人の三角筋への接種について、次の長さを示しています。
| 成人の体重 | 針の長さ(三角筋) |
|---|---|
| 60kg未満 | 表は25mm(1インチ)。本文は、90度で組織を寄せなければ16mm(5/8インチ)で足りるとし、脚注も、一部の専門家は16mmを推奨し皮膚を強く伸ばして使うとしています |
| 60〜70kg | 25mm(1インチ) |
| 男性70〜118kg、女性70〜90kg | 25〜38mm(1〜1.5インチ) |
| 男性118kg超、女性90kg超 | 38mm(1.5インチ) |
成人の大腿前外側は、体重にかかわらず38mm(1.5インチ)で、皮膚を強く伸ばし皮下組織を寄せない場合は25mm(1インチ)でもよいとされています。乳児・小児にはこの表を当てはめられず、CDCは年齢別の長さ(1〜12か月は25mm)を示しています。これはワクチン接種を前提にした米国の資料で、日本の針の規格や薬剤、皮下脂肪の厚さとは一致しないことがあります。実際の針の選び方は、施設の手順書と医師の指示に従ってください。
Q: 筋肉注射の手順は?
細部は薬剤と施設で異なります。以下は共通の流れです。
- 指示の確認。患者、薬剤、用量、時刻、経路(筋肉内であること)を照合します
- 手指衛生と物品の準備。保管状態と使用期限を確認します
- 部位の選択と観察。前回の部位を確認し、避ける皮膚の状態がないか見ます
- 消毒。定期接種実施要領は、予防接種では接種前に接種部位をアルコール消毒するとしています
- 刺入。皮膚に対して90度(CDC)。針の長さが筋肉に届くかを確かめます
- 針先の確認。薬剤の添付文書と施設の手順に従います。定期接種実施要領は、予防接種では針先が血管内に入っていないことを確認するとしたうえで、同要領が定める一部のワクチンの筋肉内注射では、確認の際に陰圧をかける必要はないとしています。これは予防接種の規定で、一般の薬剤の注射は添付文書と施設の手順に従います
- 注入と抜針。ゆっくり注入し、抜針後に刺入部を観察して記録し、針は安全な容器に捨てます
刺入したときに激痛や血液の逆流があったら?
医薬品の添付文書には、筋肉内注射の注意として次の趣旨が書かれています(ここでは2剤の添付文書を例に挙げています)。
- 神経走行部位を避けるよう注意すること(ワゴスチグミン注、エルカトニン筋注の添付文書)
- 注射針を刺入したとき、激痛を訴えたり血液の逆流をみた場合は、直ちに針を抜き、部位を変えて注射すること(同)
- 繰り返し注射する場合は、左右交互に注射するなど、注射部位を変えること(エルカトニン筋注の添付文書)
- 同一部位への反復注射は行わないこと。低出生体重児、新生児、乳児、幼児、小児には特に注意すること(ワゴスチグミン注の添付文書)
強い痛みやしびれ、血液の逆流があれば、そのまま注入せず、針を抜いて医師に報告します。
Q: 筋肉注射の合併症で、特に注意することは?
- 神経への影響:添付文書は「組織、神経等への影響を避けるため」に、神経走行部位を避けるよう求めています。刺入時の激痛やしびれがあれば中止します
- 注射部位の痛み・硬結:ワゴスチグミン注の添付文書は、注射部位に疼痛、硬結をみることがあるとしています。同一部位への反復を避けます
- 小児での反復注射:大腿四頭筋拘縮症は、1973年に山梨県での多発が報じられ、その後の全国調査で、大部分が乳児期の大腿部への筋肉注射の続発症であることが判明した、と整形外科の症例報告(整形外科と災害外科 73巻2号・2024年)の導入部に書かれています。1970〜80年代の予防啓発で新規発生は激減したとされています。小児に筋肉注射をする場面では、添付文書の小児への注意と、医師の指示を確認します
薬剤ごとの禁忌、避けるべき部位、投与量は、添付文書、施設の手順、医師の指示が優先です。迷うときは実施せず医師に確認します。
Q: 在宅で筋肉注射を行うとき、気をつけることは?
- 医師の指示書と薬剤の照合。経路が筋肉内になっているか
- 体位。刺入部が見え、筋肉がゆるむ姿勢にする
- 実施後の観察と説明。しびれや強い痛み、腫れが出たときの連絡先を伝える
- 使用後の針は安全な容器に入れ、医療機関や自治体のルールに沿って処理する
家族やヘルパーが担える範囲は、厚生労働省の通知で整理されています。詳しくは家族やヘルパーができる医療行為は?で解説しています。
Q: 訪問看護では筋肉注射にどう関わる?
訪問看護師は、医師の指示にもとづく注射の実施、前後の観察、本人・家族への説明、主治医や薬剤師への報告を担います。刺入時の違和感、皮膚の状態、普段との変化を記録し、医師へ具体的に伝えることが、安全な注射につながります。Footage訪問看護ステーションでも、注射や処置に関するご相談を受け付けています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 筋肉注射は何度の角度で刺しますか?
CDCのワクチン接種の手引き『Vaccine Administration』は、筋肉内注射を皮膚に対して90度で行うとしています。一般の薬剤の注射では、針の長さと角度は薬剤の指示と施設の手順に従います。
Q2. 筋肉注射の部位は、どこが一番よいですか?
一つには決められません。予防接種(ワクチン)については、定期接種実施要領が、原則として三角筋部または大腿四頭筋部とし、5種混合ワクチンなどで乳児は大腿四頭筋部としています。薬剤の添付文書と医師の指示で決めます。
Q3. 筋肉注射で臀部に打ってはいけない場合はありますか?
あります。予防接種では、定期接種実施要領は、ヒトパピローマウイルス感染症、帯状疱疹、高齢者の肺炎球菌感染症の予防接種では臀部に接種しないと定めています。薬剤ごとに添付文書で確認します。
Q4. 同じ場所に続けて筋肉注射をしてもよいですか?
避けます。添付文書は、繰り返す場合は左右交互にするなど部位を変えるとしています。定期接種実施要領も、予防接種について、同一部位への反復しての接種は避けるとしています。
Q5. 刺して血液が戻ったらどうしますか?
添付文書は、血液の逆流をみたら直ちに針を抜き、部位を変えるとしています。
まとめ
予防接種(ワクチン)の筋肉内注射では、CDCが皮膚に対して90度、定期接種実施要領が三角筋部や大腿四頭筋部など年齢に合った部位を示しています。一般の薬剤の注射は、添付文書、施設の手順、医師の指示に従います。針の長さは体格と部位で考え、神経走行部位を避け、刺入時に激痛や血液の逆流があれば抜針して部位を変えます。同一部位への反復は避けます。部位の指定や禁止、投与量は、添付文書、施設の手順、医師の指示が優先です。注射や処置で迷うときは、ひとりで抱え込まずにご相談ください。
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この記事は、訪問看護ステーションを運営するフッテージが、日々の訪問で行っているケアをもとにまとめています。在宅での処置やご家族への指導に関わる仕事に関心がある方は、私たちと一緒に働くことも考えてみませんか。訪問看護が初めての方も歓迎しています。
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参考資料
- 厚生労働省「定期接種実施要領」(令和8年6月1日改正)第1総論 https://www.mhlw.go.jp/content/001708680.pdf
- CDC「Vaccine Administration」2024年6月18日 https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/imz-best-practices/vaccine-administration.html
- PMDA 添付文書「ワゴスチグミン注0.5mg/2mg」2024年12月改訂(第2版)§14.1.3 https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/672173_1233400A2024_3_03
- PMDA 添付文書「エルカトニン筋注20単位「TBP」」2023年12月改訂(第1版)§14.1 https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/480143_3999401A3180_3_04
- 徳永修・福岡真二「51歳で手術を施行した大腿四頭筋拘縮症の1例」整形外科と災害外科 73巻2号(2024)266-273頁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/73/2/73_266/_pdf
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