皮下注射は、皮膚のすぐ下にある皮下組織に薬液を入れる注射で、部位は上腕外側・腹部・大腿が代表的です。同じ部位内で続けて打つときは前回の注射箇所から2〜3cm離すよう、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のインスリン製剤の患者向医薬品ガイドに示されています。刺入角度や、皮膚をつまむか、注射後にもむかは、薬剤の添付文書と施設の手順、医師の指示で変わります。看護職・看護学生の方に向けて、部位の選び方、手順、合併症、在宅で自己注射をする方への伝え方を整理します。

この記事でわかること

  • 皮下注射と筋肉注射・皮内注射の違い
  • 各部位の特徴と、避けたい場所
  • 毎回部位をずらす理由と、硬結・リポハイパートロフィー
  • 手順と、角度・つまみ方の考え方
  • 合併症、在宅の自己注射での伝え方、訪問看護の関わり

Q: 皮下注射とは?筋肉注射・皮内注射との違いは?

皮下注射は、皮膚の浅い層(表皮と真皮)の下にある皮下組織へ薬液を入れる方法です。インスリンなどの自己注射に使われるほか、一部のワクチンも皮下に接種します。

種類 薬液を入れる場所 主な使い道
皮内注射 皮膚の浅い層 薬剤の皮内テストなど
皮下注射 皮下組織 自己注射、一部のワクチン
筋肉内注射 筋肉 筋肉内と指定された薬剤、一部のワクチン

厚生労働省の定期接種実施要領(令和8年6月1日改正)は、皮下接種を原則として上腕伸側(外側)に、筋肉内注射を原則として三角筋部または大腿四頭筋部に行うと定め、同一部位への反復しての接種は避けるとしています。

Q: 皮下注射はどの部位に打つ?

インスリン製剤の患者向医薬品ガイド(PMDA)には「皮下注射は、腹部、大腿部、上腕部、臀部などに行います」とあります。日本糖尿病協会の『インスリン自己注射ガイド』も、腹部・上腕・大腿・臀部を推奨される注射部位として図示しています。薬剤によって記載が違う場合があるため、添付文書で確認します。

部位 特徴 気をつけること
上腕外側 定期接種実施要領が皮下接種の部位とする 自分では手が届きにくい
腹部 自己注射でも手が届きやすい 臍まわりなど、指示された範囲を守る
大腿 座位で手が届き観察しやすい 衣類をずらして皮膚を見る
臀部 薬剤によって指定される 自分では見えにくい

次の場所は避けます。

  • 硬結や腫瘤がある箇所(PMDAの使用上の注意の改訂は、認められた場合は当該箇所への投与を避けるとしています)
  • 毛根部(日本糖尿病協会のガイドが、痛みを減らすコツとして挙げています)
  • 発赤、腫れ、傷、強い浮腫のある皮膚、皮下出血のある箇所

Q: なぜ毎回、注射部位をずらすのか?

同じ場所に打ち続けると、皮膚が硬く盛り上がり、薬の効きが悪くなることがあるためです。日本糖尿病協会のガイドは、同じ場所への注射で皮膚が硬くなったり、赤くなったり、むくんだようになったりすると説明しています。狭い部位への繰り返しで皮下にできる弾性のふくらみが、リポハイパートロフィーです。

PMDAの使用上の注意の改訂(インスリン製剤)には、次の趣旨が書かれています。

  • 同一箇所への繰り返し投与で、皮膚アミロイドーシスまたはリポジストロフィーがあらわれることがある
  • あらわれた箇所に投与すると、吸収が妨げられ、十分な血糖コントロールが得られなくなることがある
  • 血糖コントロール不良のときは、注射箇所の腫瘤や硬結を確認し、注射箇所の変更とともに投与量を調整する
  • 血糖不良に伴って増量された状態で、正常な箇所に投与して低血糖に至った例が報告されている

血糖値が安定しない方では、薬の量だけでなく注射部位の触診が手がかりになります。同ガイドは、硬い所に注射すると痛みは少ないが効きは悪くなると指摘しており、本人が選びやすい部位に偏っていないかも見ておきます。

ずらし方の一例として、同ガイドは、注射部位を4分割して1か所を1週間使い、時計回りに1週間おきに変える方法を示しています。インスリン以外の薬でも、同一部位への反復は避けるのが基本です。

Q: 皮下注射の手順は?

細部は薬剤・デバイス・施設で異なります。以下は共通の流れで、実際は施設の手順書と医師の指示に従ってください。

  1. 指示の確認。患者、薬剤、用量、時刻、経路を照合します
  2. 手指衛生と物品の準備。保管状態と使用期限を確認します
  3. 部位の選択と観察。前回の部位を確認し、ずらして選びます
  4. 消毒。日本糖尿病協会のガイドは、アルコールが完全に乾いてから注射するよう示しています
  5. 刺入。針の長さと薬剤・デバイスに合った角度で、迷わず素早く刺します
  6. 注入。ゆっくり入れます。ペン型注入器では、押したまま指示された秒数を数えます。日本糖尿病協会のガイドは、普通は5〜10秒くらいとしています
  7. 抜針。ペン型注入器は、ボタンを押したままゆっくりまっすぐ抜きます
  8. 針の廃棄と観察。刺入部の出血、腫れ、痛みを見て記録します。注射後にもんでよいかは薬剤で違います。添付文書や施設の手順に「もまない」とある薬剤はもまず、書かれていなければ指示を確認します

角度とつまみ方はどう決める?

針の長さで変わります。日本糖尿病協会のガイドによると、成人では4mm、5mm、6mmの針を使え、4mmの針なら皮膚をつまみ上げなくても注射でき、角度は90°(直角)です。小児・若年者も4mm、5mm、6mmの針を使い、基本的に皮膚を軽くつまみます。6mmの針では、つまみ上げる代わりに斜め45°で刺す方法もあります。つまむときは皮下組織だけをつまみます。同じガイドは、筋肉まで持ち上げると筋肉内注射のリスクがあると図示しています。

ワクチンの手順では、米国CDCの『Vaccine Administration』が皮下注射を45度とし、部位は12か月未満で大腿、12か月以上で上腕外側としています。「皮下注射は何度」と一つに決めず、使う針と薬剤の指示で判断します。

Q: 皮下注射の合併症と、避けたい場面は?

  • 硬結・リポハイパートロフィー:部位をずらして予防します。しこりに気づいたら、かかりつけ医か糖尿病療養指導士に相談するよう、日本糖尿病協会のガイドは伝えています
  • 感染:手指衛生と清潔な針が基本です。日本糖尿病協会のガイドは、針とペン型注射器の共有で肝炎などのウイルス感染が起こることがあると注意しています
  • 出血・皮下血腫:抗凝固薬の使用中は刺入部の観察を続けます。ヘパリン製剤の患者向医薬品ガイド(PMDA)には、注射部位からの出血や皮下出血が挙げられています
  • 血管内への誤注入:インスリン製剤の患者向医薬品ガイド(PMDA)は、まれに針が血管内に入り、注射後直ちに低血糖があらわれることがあるとしています。意識状態や冷汗を観察します
  • 神経への刺激:刺入時に強い痛みやしびれがあれば注入を中止し、医師に報告します

薬剤ごとの禁忌と避けるべき皮膚の状態は、添付文書、施設の手順、医師の指示が優先です。迷うときは実施せず医師に確認します。

Q: 在宅で自己注射をする本人・家族に何を伝える?

インスリンなどの自己注射は、主治医と薬剤師の指示が優先です。伝える内容は次の4点です。

  • 針は注射のたびに新しいものを使い、他の人と共用しない(PMDAの患者向医薬品ガイド)
  • 部位をずらす。同じ部位内では前回から2〜3cm離す(PMDAの患者向医薬品ガイド)
  • しこりや赤み、むくみに気づいたら、そこには打たずに相談する
  • 使用済みの針は安全な容器に入れる。日本糖尿病協会のガイドによると、処理方法は自治体で違い、資源ごみに出してはいけません。確実なのは、かかりつけの医療機関に戻すことです

訪問の際は、実際に打ってもらって観察すると、角度が針の長さに合っていない、つまみ上げすぎ、毎回同じ場所に打つといった癖が見つかります。家族やヘルパーが担える範囲は、厚生労働省の通知で整理されています。インスリン注射の準備や片付けは家族やヘルパーができる医療行為は?で解説しています。

Q: 持続皮下注射や皮下点滴も同じ手順?

針を皮下に留置して薬液や輸液を入れ続ける方法は、1回ごとの皮下注射とは管理が違います。刺し替え、速度、家族の見守りの範囲は在宅での皮下点滴・持続皮下注射とはで詳しく解説しています。

Q: 訪問看護では皮下注射にどう関わる?

訪問看護師は、医師の指示にもとづく皮下注射の実施に加え、自己注射をしている方の手技と注射部位の確認、本人・家族への指導、主治医や薬剤師への情報共有を担います。手の動きや視力、認知機能の変化で手技が難しくなっていないかも、訪問の場で確かめられる点です。Footage訪問看護ステーションでも、自己注射の手技や注射部位の管理についてのご相談を受け付けています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 皮下注射は何度の角度で刺しますか?

針の長さとデバイスで変わります。日本糖尿病協会のガイドでは、インスリンペンの4mm針は90°、6mm針の小児・若年者では45°で刺す方法もあります。CDCのワクチン接種の手順は45度です。

Q2. 皮下注射では、皮膚をつまむ必要がありますか?

針の長さで変わります。日本糖尿病協会のガイドでは、成人の4mm針ならつまみ上げずに注射でき、小児・若年者では基本的に軽くつまみます。

Q3. 同じ部位に続けて注射してもよいですか?

避けます。定期接種実施要領は同一部位への反復を避けるとしており、インスリン製剤のPMDA患者向医薬品ガイドは、同じ部位内なら前回から2〜3cm離すとしています。

Q4. 皮下注射の部位は、どこが一番よいですか?

一つに決められません。薬剤、手の届きやすさ、皮膚の状態で決まるため、添付文書と主治医の指示を確認します。

Q5. 家族が代わりに皮下注射をしてもよいですか?

自己注射は主治医の指導のもとで行います。家族が代わりに行えるかは状態と内容で変わるため、始める前に主治医と訪問看護師に相談してください。

まとめ

皮下注射は、皮下組織に薬液を入れる注射で、部位は上腕外側・腹部・大腿などから、薬剤と皮膚の状態に合わせて選びます。同じ部位内では前回から2〜3cm離すこと、しこりに打たないこと、毎回新しい針を使うことが基本です。角度とつまみ方は針の長さで決まり、注射後にもんでよいかは薬剤の指示によります。禁忌や手順は、添付文書、施設の手順、医師の指示が優先です。手技や部位の管理で迷うときは、ひとりで抱え込まずにご相談ください。

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参考資料

  • PMDA「患者向医薬品ガイド インスリン製剤」2024年11月更新 https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/530471_2492420A1021_1_00G.pdf
  • PMDA「使用上の注意の改訂(インスリン製剤)別紙1」 https://www.pmda.go.jp/files/000235039.pdf
  • 公益社団法人日本糖尿病協会「インスリン自己注射ガイド」平成26年5月初版 https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/GUIDE_140515_B5.pdf
  • 厚生労働省「定期接種実施要領」(令和8年6月1日改正) https://www.mhlw.go.jp/content/001708680.pdf
  • CDC「Vaccine Administration」2024年6月18日更新 https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/imz-best-practices/vaccine-administration.html

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