この記事でわかること

・摘便は医行為。介護職員は実施不可。実施は医師・看護師。家族が行う場合は必ず訪問看護師・医師の手技指導と禁忌理解が前提

・市販のグリセリン浣腸(一定条件下)は原則として医行為でない。介護職員・家族が実施可能

・在宅で安全に排便ケアを続けるには、訪問看護師との連携が最も重要

在宅で高齢の家族が頑固な便秘に苦しんでいるとき、「摘便や浣腸を自分でやってもよいのだろうか」と迷うご家族は少なくありません。摘便(指で便をかき出す行為)は医行為であり、介護職員は実施できません。一方、市販のディスポーザブルグリセリン浣腸(一定条件を満たす製品)は、原則として医行為に該当しないとされており、家族や介護職員が行うことが認められています。これは厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日 医政発第0726005号)で明確にされています。ただし、どちらのケアも正しい手順と禁忌の理解なしに行うことには、深刻な健康リスクが伴います。この記事では、「誰がしてよいか」「どうやるか」「どんなリスクがあるか」を順番に整理します。

摘便とは何か?医療行為に該当する理由

摘便とは、直腸内に硬く詰まった便を指(または専用の器具)でかき出す処置のことです。下剤や浣腸だけでは排便できない「宿便」「糞便塞栓」の状態に対して行われます。

なぜ摘便が医行為に該当するのかというと、直腸粘膜は非常に繊細で、不適切な処置によって出血・損傷・迷走神経反射(後述)などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるからです。厚労省通知(医政発第0726005号)では、摘便は明確に「医行為」に位置づけられており、医師・看護師のみが業として行うことができます。

介護施設の介護職員や訪問介護のヘルパーは、たとえ長年の経験があっても摘便を行うことは法律上認められていません。

では家族はどうか?

本人・家族が自身または家族のケアとして行うことは、医師法・保健師助産師看護師法の「業として行う」規定の対象外です。つまり、法律上は禁止されていません。しかし、「法律上禁止されていない」ことと「安全に行える」ことは別問題です。必ず訪問看護師または医師から手技指導を受け、禁忌を理解したうえで行うことが大前提です。

Q: 摘便を家族が行う場合、どうやるのか?手順とポイント

以下の手順はあくまでも参考情報です。実際に行う前に、必ず担当の訪問看護師または医師から個別の指導を受けてください。

準備するもの

  • 使い捨てゴム手袋(ラテックスアレルギーがある場合はニトリル手袋)
  • 潤滑剤(市販のゼリー状潤滑剤、またはオリーブオイル等)
  • 防水シート・おむつ(汚れ防止)
  • ウェットティッシュまたはティッシュペーパー

体位

左側臥位(左向きに横になった状態)が基本です。これにより直腸の走行に沿って指を挿入しやすく、また直腸穿孔(後述)のリスクを下げることができます。

手順の流れ

  1. 手をよく洗い、手袋を装着する
  2. 潤滑剤を指先にたっぷりつける
  3. 肛門周囲をゆっくりほぐすようにマッサージする
  4. 指をゆっくり、抵抗なく入る深さまで挿入する(無理に奥まで押し込まない)
  5. 便に指が触れたら、かき出すのではなく「ほぐす・崩す」イメージで少量ずつ外に誘導する
  6. 本人が痛みや気分不良を訴えたらただちに中止する

絶対に守るべき注意点

  • 強くかき出さない。粘膜を傷つけます
  • 指を奥まで押し込まない。無理に深部まで入れると直腸穿孔のリスクがあります
  • 1回で全部取り切ろうとしない。分けて行うか、訪問看護師に任せる判断も重要です
  • 無理な体位では行わない。仰向けは直腸の走行と合わず、誤って腸を傷つけやすくなります

Q: 摘便で気をつけるべきリスクや禁忌は何か?

摘便には、適切に行っても起こりうるリスクがあります。以下の状態には行わないこと、または必ず事前に医師・訪問看護師に相談することが必要です。

行ってはいけない場合(禁忌)

  • 痔核(いぼ痔)・裂肛(切れ痔)がある:出血・悪化のリスクがあります
  • 直腸疾患・直腸手術後:主治医に確認してから行ってください
  • 出血傾向がある(抗凝固薬服用中など):わずかな刺激でも出血します
  • 重篤な心疾患がある:迷走神経反射による徐脈・血圧低下のリスクが高まります
  • 本人が強く拒否している:本人の意思を尊重してください

注意が必要なリスク

直腸粘膜損傷・出血:直腸内壁は薄く傷つきやすい組織です。指の爪や強い摩擦で裂傷が生じることがあります。血便・出血が見られた場合はすぐに医療機関または訪問看護師に連絡してください。

迷走神経反射:肛門・直腸への刺激が迷走神経を過剰に興奮させ、徐脈(脈が遅くなる)・血圧低下・顔面蒼白・冷汗・失神が起きることがあります。高齢者や心疾患のある方では特に注意が必要です。処置中に顔色が悪くなる、脈が遅くなる、意識が朦朧とするなどの変化があればただちに中止し、横になってもらい、意識が回復しない場合は救急車を呼んでください。

感染リスク:手袋をしないまたは不十分な手洗いで行うと、腸内細菌が広がりやすくなります。必ず手袋を使用し、処置後は手をよく洗ってください。

Q: 浣腸は家族がやってよい?厚労省通知の内容

A: 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸(一定の条件を満たすもの)は、原則として医行為に該当しないとされており、家族や介護職員が行うことができます。

厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日 医政発第0726005号)では、以下の条件を満たす市販グリセリン浣腸を介護職員等が使用することは、原則として医行為でないと示されています。

医行為に該当しないとされる条件(厚労省通知より)

  • 市販のディスポーザブル製品を使用する
  • 挿入の深さが適切(製品の説明書の範囲内)
  • グリセリン濃度50%の市販製品
  • 対象者の状態が安定している
  • その他、製品添付文書・指示に従って実施する

ただし、これはあくまで「原則として」の整理であり、対象者の状態・病状によっては医療行為として医師・看護師が行う必要があります。初めて行う場合は必ず訪問看護師または医師に相談・確認してください。

Q: 浣腸の正しいやり方は?安全に行うための手順

準備と体位

必ず左側臥位(左向きに横になった状態)で行ってください。立位・座位での実施は直腸穿孔のリスクがあり、絶対に避けてください。

  • 防水シートを敷く
  • 浣腸液は体温程度に温める(熱すぎると粘膜を傷める)
  • ノズル先端に潤滑剤をつける

実施手順

  1. 左側臥位になってもらい、ひざを軽く曲げてもらう
  2. ノズル先端に潤滑剤をつける
  3. ノズルを肛門に対してゆっくり挿入する(目安:5〜6cm程度。抵抗があれば中止する)
  4. 容器をゆっくり押してグリセリン液を注入する
  5. 注入後、できるだけ5〜10分我慢してもらう(難しければ可能な範囲で)
  6. 便意を感じたらトイレへ

浣腸のリスクと禁忌

立位での実施は直腸穿孔リスクがあり、絶対に避けてください。過去に重篤な事故事例が報告されています。

  • 頻回の連用は避ける:腸が浣腸なしでは動かなくなる(習慣性)リスクがあります
  • 腸疾患・炎症性腸疾患がある場合:必ず医師に確認してください
  • 腹痛・血便・強い下痢が出た場合:中止して医療機関または訪問看護師に連絡してください

Q: 高齢者の在宅便秘ケア、まず何をすればよい?

摘便・浣腸はいずれも「便が詰まってしまった後」の対処ケアです。日頃から便秘になりにくい環境を整えることが、最も大切な取り組みです。

水分摂取

高齢者は体内の水分量が少なく、腸内の水分も不足しがちです。便を柔らかく保つためには、こまめな水分補給が欠かせません。飲み込みの機能に問題がなければ、食事以外の時間にも意識的に水分を補うことをお勧めします。

食物繊維の摂取

食物繊維は便の容積を増やし、腸の蠕動運動を促します。野菜・海藻・きのこ類・豆類などを日常の食事に取り入れることが基本的なアプローチです。

排便リズムの維持

毎日同じ時間(朝食後など)にトイレへ行く習慣をつけることで、腸が動きやすい状態を保てます。仮に便が出なくてもトイレに座る習慣は大切です。

身体の動き・腹部マッサージ

在宅で生活する高齢者は、活動量が低下しやすく、腸の動きも弱まりがちです。可能であれば座る・立つ・短距離を歩くなど、日常的な身体活動を維持することが助けになります。おへその周りを時計回りに優しくマッサージする方法も、家庭で取り組みやすいケアのひとつです。

下剤の適切な使用

かかりつけ医・訪問看護師と相談し、本人の状態に合った内服の下剤を組み合わせることが大切です。摘便・浣腸ばかりに頼らず、まず内服での排便コントロールができているかを確認することが優先です。

Q: 訪問看護師はどのような排便ケアをしてくれるのか?

在宅療養では、排便の問題は生活の質に直結します。Footage訪問看護ステーションでは、排便ケアを「生活の全体を見たうえで組み立てる」ことを大切にしています。

  • 定期的な排便状況の確認と記録
  • 本人・家族への手技指導と禁忌の共有
  • かかりつけ医との情報共有・下剤調整の連携
  • 摘便が必要な場合は訪問看護師が実施
  • 浣腸を家族が行う際のサポート・指導

「家族で対応できる範囲はどこか」「看護師が関わるべき場面はどこか」を一緒に整理することが、在宅ケアを長く安全に続けるための鍵です。

排便トラブルでお悩みの場合は、ぜひフッテージの訪問看護師にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1: 訪問介護のヘルパーさんに摘便をお願いできますか?

A: できません。 摘便は医行為に該当するため、介護職員(ホームヘルパー)は実施することができません(厚生労働省 医政発第0726005号)。摘便は訪問看護師または医師が行う必要があります。訪問看護の訪問日以外に摘便が必要になった場合は、担当の訪問看護ステーションに相談して対応を検討してください。

Q2: 家族が摘便をしても法律違反にはなりませんか?

A: 法律上は問題ありません。 医師法・保健師助産師看護師法が規制するのは「業として」医行為を行う場合です。家族が自身の家族に対してケアを行うことはこの規制の対象外とされています。ただし、「法律上禁止されていない」ことと「安全に行える」ことは別です。必ず訪問看護師・医師から個別の手技指導を受けてから行ってください。

Q3: 市販のグリセリン浣腸は何を選べばよいですか?

A: 厚労省通知の条件を満たす市販ディスポーザブル製品を選んでください。 条件はグリセリン濃度50%・ノズルの挿入深さが製品仕様の範囲内であること・対象者の状態が安定していることです。薬局・ドラッグストアで「グリセリン浣腸」として販売されているディスポーザブル製品(使い捨てタイプ)がこれに該当することが多いですが、購入時に薬剤師に確認することをお勧めします。

Q4: 摘便中に本人が気分が悪くなったらどうすればよいですか?

A: ただちに中止して、横向きまたは仰向けに寝かせてください。 顔色が青白い・脈が遅くなる・冷汗が出る・意識がぼんやりするなどの症状は迷走神経反射の可能性があります。多くの場合、処置を中止して安静にすることで回復しますが、意識を失った場合・呼吸が乱れた場合はすぐに119番へ連絡してください。担当の訪問看護師にも事後に必ず報告してください。

Q5: 何日間便が出なかったら摘便・浣腸を考えればよいですか?

A: 一律の日数で判断するのではなく、本人のいつもの排便パターンと比べることが重要です。 また、腹部が張っている・食欲がない・吐き気がある・腹痛がある、といった症状がある場合は便秘以外の原因(腸閉塞など)の可能性もあるため、まずかかりつけ医または訪問看護師に相談することをお勧めします。自己判断で摘便・浣腸を行うのは慎重にしてください。

まとめ

  • 摘便は医行為。介護職員は実施不可。家族が行う場合も、必ず訪問看護師・医師の指導を受けてから
  • 市販グリセリン浣腸(一定条件)は医行為でない。家族・介護職員が実施可(厚労省 医政発第0726005号)
  • 摘便の主なリスクは直腸粘膜損傷・出血・迷走神経反射。禁忌(痔・出血傾向・心疾患など)がある場合は必ず医療者に任せる
  • 浣腸は必ず左側臥位で実施。立位は直腸穿孔のリスクがあるため絶対に避ける
  • 在宅での排便ケアは日頃の水分・食物繊維・排便リズムの維持が基本
  • Footage訪問看護ステーションでは、摘便の実施・手技指導・かかりつけ医との連携まで一貫してサポートしています

在宅での排便ケアに不安を感じているご家族は、ひとりで抱え込まず、まずフッテージの訪問看護師にご相談ください。

あわせて読みたい

Footage訪問看護ステーションに相談する

看護師・リハビリ職の方へ

この記事は、名古屋を中心に訪問看護ステーションを運営する Footage が、日々の訪問で行っているケアをもとにまとめています。在宅での処置やご家族への指導に関わる仕事に関心がある方は、私たちと一緒に働くことも考えてみませんか。訪問看護が初めての方も歓迎しています。

Footage の採用情報を見る

この記事の運営

Footage訪問看護ステーション

在宅医療を支える訪問看護ネットワーク。多職種チーム体制で、

ご本人とご家族の「あなたらしい人生」を支えます。

📍 お近くの事業所を探す → 拠点一覧

✉️ 訪問看護のご相談・ご依頼 → お問い合わせフォーム

*運営: 株式会社FOOTAGE*