嚥下訓練は大きく、食べ物を使わない「間接訓練」(パタカラ体操・嚥下体操・アイスマッサージなど)と、食べ物を使う「直接訓練」(姿勢や食形態の調整)の2つに分かれます。誤嚥性肺炎は高齢者の主要な死因の一つで(厚生労働省 人口動態統計)、その予防には飲み込みの力を保つことが欠かせません。嚥下調整食のとろみは「薄い・中間・濃い」の3段階に整理されています(日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021)。ただし、評価を受けない自己流の訓練は誤嚥や窒息につながることもあるため、医師・言語聴覚士(ST)の評価のもとで行うことが大切です。この記事は、ご高齢の方とご家族向けに、安全に取り組める嚥下訓練の考え方を整理します。
この記事でわかること
・嚥下訓練の「間接訓練」と「直接訓練」の違い
・パタカラ体操の意味と、音と働きの対応
・自宅でできる嚥下体操・マッサージ
・誤嚥を防ぐ食形態・とろみ・姿勢の工夫
・嚥下訓練で気をつけたい注意点とやってはいけないこと
Q: 嚥下訓練とは?間接訓練と直接訓練はどう違う?
嚥下訓練とは、飲み込み(嚥下)に関わる筋肉や反射の働きを保ち、安全に食べる力を支えるための訓練です。 大きく次の2つに分けられます。
- 間接訓練(基礎訓練):食べ物を使わずに行う訓練。パタカラ体操・嚥下体操・唾液腺マッサージ・アイスマッサージ・発声練習など。誤嚥の心配がある段階でも取り組みやすいのが特徴です
- 直接訓練(摂食訓練):実際に食べ物を使って行う訓練。姿勢の調整や食形態(とろみ・きざみなど)の工夫を組み合わせます
加齢や脳卒中、パーキンソン病などにより飲み込みの力が落ちると、むせ・食事に時間がかかる・体重が減るといったサインが現れます。高齢者では筋力低下(サルコペニア)に伴って飲み込みの力も衰えることが知られています。どの訓練が適しているかは、飲み込みの状態によって変わるため、まずは医師・言語聴覚士の評価を受けることが出発点になります。
Q: パタカラ体操とは?どの音がどの働きに対応する?
パタカラ体操とは、「パ・タ・カ・ラ」の4つの音を発声することで、飲み込みに関わる口や舌の筋肉を動かす訓練です。 それぞれの音が、飲み込みの別々の働きに対応しています。
| 音 | 主に鍛える働き |
|---|---|
| パ | 口唇を閉じる力(食べ物を口からこぼさない) |
| タ | 舌の前方を上あごにつける力(食べ物を送り込む) |
| カ | 舌の奥を持ち上げる力(食べ物が気管に入るのを防ぐ) |
| ラ | 舌を回して食べ物をのどへ送る力 |
やり方は、「パパパパ」「タタタタ」のように各音をはっきり繰り返したり、「パタカラ・パタカラ」と続けて発声したりします。食事の前のウォーミングアップとして取り入れると、口や舌が動きやすくなります。一つひとつの音を、口や舌の動きを意識してはっきり出すことがポイントです。
Q: 自宅でできる嚥下体操・マッサージにはどんなものがある?
食事の前に行う嚥下体操や唾液腺マッサージは、ご家庭でも取り入れやすい間接訓練です。 代表的なものを紹介します。
- 嚥下体操:深呼吸 → 首をゆっくり左右に回す・傾ける → 肩の上げ下げ → 頬を膨らませる・へこ ませる → 舌を前後左右に動かす → 「パタカラ」の発声、という流れで、食事前に行います
- 唾液腺マッサージ:耳の下や顎の下を優しくさすり、唾液の分泌を促します。口の乾きが気になる方に向いています
- アイスマッサージ:凍らせた綿棒などで口の奥(前口蓋弓)を軽く刺激し、飲み込みの反射を引き出す方法。むせやすい方に行われることがあります
- 発声・ブローイング:声を出す練習や、コップの水をストローで吹く運動で、息こらえと口唇の力を養います
なお、首を持ち上げて飲み込みの筋肉を鍛える「頭部挙上訓練(シャキア法)」のように、負荷の高い訓練もあります。こうした訓練は体への負担が大きく、心臓や首の状態によっては向かない場合があるため、必ず専門職の指導のもとで行ってください。 どの体操をどのくらい行うかは、ご本人の状態に合わせて言語聴覚士が調整します。
Q: 高齢者の誤嚥を防ぐ食事の工夫は?
むせを防ぐには、「食形態(とろみ・やわらかさ)」と「食べる姿勢」を整えることが基本です。 飲み込みの力に合わない食事は、誤嚥や窒息の原因になります。
食形態については、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類2021が、共通のものさしとして広く使われています。飲み物のとろみは「薄いとろみ・中間のとろみ・濃いとろみ」の3段階に整理され、食事はコード0〜4の段階で示されます。とろみは濃ければ安全というわけではなく、濃すぎるとかえって飲み込みにくくなることもあるため、その方に合った段階を選ぶことが大切です。
姿勢と食べ方の工夫としては、次の点が挙げられます。
- 上半身を起こし、あごを軽く引いた姿勢で食べる(あごが上がると誤嚥しやすくなります)
- 一口の量を少なめにし、口の中が空になってから次の一口に進む
- 飲み物と食べ物を交互にとる(交互嚥下)
- 食後30分程度は座った姿勢を保ち、逆流を防ぐ
これらは口腔ケアと組み合わせることで、誤嚥性肺炎の予防にいっそうつながります。口腔ケアの具体的な方法は、在宅での口腔ケア|誤嚥性肺炎を防ぐために訪問看護師が伝えたいこともあわせてご覧ください。
Q: 嚥下訓練で気をつけたい注意点・やってはいけないことは?
最も大切な注意点は、「評価を受けないまま、自己流で食べ物を使った訓練を進めないこと」です。 飲み込みの力に合わない訓練や食事は、誤嚥・窒息という命に関わるリスクにつながります。次の点に気をつけてください。
- 発熱・痰の増加・元気がないときは、食べ物を使う直接訓練を控える(誤嚥のサインのことがあります)
- 「むせない=安全」ではない:むせずに気管へ入る「不顕性誤嚥」もあるため、食後の声がガラガラする・微熱が続くなどの変化に注意します
- 一口量を多くしない・急がない:丸のみや早食いは窒息の原因になります
- テレビを見ながらなど、注意がそれた状態で食べない
- 負荷の高い訓練を自己判断で行わない:頭部挙上訓練などは専門職の指導のもとで
窒息や強いむせ込みが起きたときは、すぐに食事を中止し、必要に応じて医療機関へ連絡してください。日々の訓練は、医師・言語聴覚士の評価と指導を土台に、無理のない範囲で続けることが安全につながります。
Footage訪問看護ステーションの嚥下サポート
私たちFootage訪問看護ステーションは、嚥下の問題を「飲み込みの訓練」だけでなく、口腔ケア・栄養・姿勢まで含めて多職種で支えています。
フッテージには言語聴覚士が在籍し、看護師・理学療法士・作業療法士とワンチームで関わります。言語聴覚士が飲み込みの状態を評価して訓練メニューを組み立て、理学療法士・作業療法士が食事の姿勢や座位の安定を整え、看護師が口腔ケアと全身状態の変化を見守る、という連携ができます。食事中のむせや食後の様子はDXツールでチーム内に同期し、不顕性誤嚥のサインに早く気づける体制を整えています。夜間に発熱やむせ込みが増えたときも、24時間365日の連絡体制で経過を把握したうえで対応します。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 嚥下訓練は1日にどのくらい行えばよいですか?
ご本人の状態によって異なります。食事前の嚥下体操やパタカラ体操を毎食前に行うなど、無理のない回数から始め、具体的な量は言語聴覚士の指導に従ってください。
Q2. パタカラ体操は本当に効果がありますか?
パタカラ体操は飲み込みに関わる口や舌の筋肉を動かす訓練です。継続することが大切で、効果や適した方法はご本人の状態によって異なるため、専門職に相談しながら続けると安心です。
Q3. むせがないので、嚥下訓練は必要ないのではないですか?
むせずに気管へ入る「不顕性誤嚥」があるため、むせがなくても油断はできません。食後の声の変化や微熱が続くときは、一度評価を受けることをおすすめします。
Q4. とろみは濃いほど安全ですか?
いいえ。とろみが濃すぎると、かえって飲み込みにくくなり口やのどに残ることがあります。嚥下調整食分類2021の段階を参考に、その方に合った濃さを選ぶことが大切です。
Q5. この記事の内容は子どもにもあてはまりますか?
本記事は高齢者の在宅療養を想定した内容です。小児の嚥下管理は考え方が異なるため、重症心身障害児の在宅看護|安心できる生活空間と呼吸・嚥下の管理をご覧ください。
まとめ
嚥下訓練は、食べ物を使わない間接訓練(パタカラ体操・嚥下体操・マッサージ)と、姿勢や食形態を整える直接訓練を組み合わせて行います。とろみや食形態は嚥下調整食分類2021を目安に、その方に合った段階を選ぶことが大切です。「むせない=安全」とは限らず、自己流の訓練は誤嚥・窒息のリスクがあるため、医師・言語聴覚士の評価のもとで取り組むことが安全につながります。飲み込みや食事のことでご心配があれば、いつでもご相談ください。
あわせて読みたい
この記事の運営
Footage訪問看護ステーション
在宅医療を支える訪問看護ネットワーク。多職種チーム体制で、
ご本人とご家族の「あなたらしい人生」を支えます。
📍 お近くの事業所を探す → 拠点一覧
✉️ 訪問看護のご相談・ご依頼 → お問い合わせフォーム
*運営: 株式会社FOOTAGE*
