在宅での吸引ケアと訪問看護|痰吸引の手技と家族指導のポイント
在宅での痰吸引(喀痰吸引)は、訪問看護師の支援のもとで安全に実施できるケアです。在宅で気管吸引等を必要とする方は全国で多数おり、訪問看護師の定期的な支援のもとで在宅療養を継続している例が多くみられます。2012年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、所定の研修(喀痰吸引等研修・3号研修)を修了した介護職員や家族も、一定の条件下で痰吸引を実施できるようになり、認定特定行為業務従事者の登録者数は累計で多数に達しています。
私たちFootage訪問看護ステーションでは、臨床推論に基づくアセスメントで「なぜ痰が増えているのか」という原因に着目し、吸引だけでなく排痰を促すケアも含めた包括的な呼吸管理を提供しています。
この記事でわかること
- 在宅での痰吸引の基本手技と適切な吸引圧の目安
- 家族が吸引を行うための研修制度(3号研修)の仕組み
- 吸引時の感染予防と清潔操作のポイント
- 痰の量や性状から読み取る体調変化のサイン
- Footageの訪問看護チームによる呼吸管理サポート
Q: 在宅での痰吸引はどのような手順で行うのか?
在宅での痰吸引は、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内の3つの経路があり、それぞれ手技が異なります。基本的な手順は以下の通りです。
口腔内吸引の手順
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手指消毒:速乾性アルコール消毒液で手指を清潔にする
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吸引圧の設定:成人の場合、20kPa(150mmHg)以下に設定する。小児の場合は10〜13kPa(80〜100mmHg)が目安(日本呼吸療法医学会 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕)
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カテーテルの挿入:口腔内の場合は10〜12cm程度を目安に挿入する。無理に奥まで入れない
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吸引の実施:カテーテルを回転させながらゆっくり引き抜く。1回の吸引時間は10〜15秒以内
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観察:吸引後の呼吸音、SpO2(酸素飽和度)、顔色、痰の量・色・性状を確認する
吸引圧の目安一覧
| 対象 | 推奨吸引圧 | 出典 |
|---|---|---|
| 成人(口腔・鼻腔) | 20kPa(150mmHg)以下 | 日本呼吸療法医学会 気管吸引ガイドライン2023 |
| 成人(気管内) | 20kPa以下 | 同上 |
| 小児 | 10〜13kPa(80〜100mmHg) | 日本小児呼吸器学会 |
| 新生児 | 8〜10kPa(60〜80mmHg) | 同上 |
吸引圧が高すぎると気道粘膜を損傷するリスクがあります。在宅用の吸引器には圧力調整ダイヤルが付いているため、訪問看護師が初回訪問時に適切な圧力を設定し、ご家族にも確認方法をお伝えします。
Q: 家族が痰吸引を行うにはどのような研修が必要か?
家族(同居の家族や介護にあたる近親者)が在宅で患者本人に対して気管内吸引を行うのに、資格は要りません。
医行為は本来医師・看護師等しかできませんが、患者本人や家族が「自己(自家)療養の延長」として行う行為は医師法・保健師助産師看護師法の対象外、というのが厚労省の整理です。実務上は、訪問診療医や訪問看護師から手技指導を受け、家族が日常的に吸引するという形が一般的です。
どうしても手技や知識に関して不安が残る場合は、「3号研修(特定の者対象)」を受講されると安心して実施出来ると思います。
3号研修の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 特定の利用者に対してのみ実施する介護職員・家族 |
| 基本研修 | 合計9時間30分(講義8時間、演習1時間、筆記試験30分) |
| 実地研修 | 指導看護師が評価票で「実施できる」と判断するまで行う(最短1日~数日程度。利用者ごとに手順確認を行う) |
| 修了後 | 都道府県に「認定特定行為業務従事者」として登録 |
在宅介護の現場で吸引を担う家族や介護職員は、認定特定行為業務従事者として都道府県に登録されており、登録者数は年々増加しています。最新の集計は厚生労働省「特定行為業務従事者数」の都道府県別データで確認できます。
出典: 喆痰吸引等の研修について(厚生労働省) / 第三号研修テキスト(厚生労働省)
ただし、家族による吸引はあくまで「日常的な排痰ケア」が対象です。痰の量が急に増えた場合や、血液が混じる場合は、速やかに訪問看護師や主治医に連絡することが大切です。
Q: 在宅での吸引ケアにおける感染予防のポイントは?
在宅環境では病院のような無菌操作は困難ですが、「清潔操作」を徹底することで感染リスクを十分に低減できます。日本環境感染学会の「在宅ケアにおける感染対策ガイド(2023年改訂版)」では、以下の4点を推奨しています。
感染予防の4原則
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手指衛生:吸引前後に速乾性アルコール消毒または流水+石けんで手洗い。WHO手指衛生ガイドラインでは、手指衛生の実施率が10%上がるごとに医療関連感染が約20%減少すると報告されています
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カテーテルの管理:使い捨てカテーテルは1回ごとに廃棄が理想。再利用する場合は、消毒液(0.01%次亜塩素酸ナトリウム)に浸漬し、24時間で交換する。
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吸引瓶の管理:排液は8分目になったら廃棄し、0.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄する
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環境整備:吸引器周辺を清潔に保ち、カテーテル保管容器は週1回消毒する
在宅で注意したい感染サイン
| サイン | 考えられる状態 |
|---|---|
| 痰の色が黄色〜緑色に変化 | 細菌感染の可能性 |
| 痰に血液が混じる | 気道粘膜の損傷または肺出血 |
| 発熱(37.5℃以上)+ 痰の増加 | 肺炎の可能性 |
| 吸引後もSpO2が90%以下 | 呼吸状態の悪化 |
これらのサインを発見した場合は、訪問看護師に速やかにご連絡ください。
Q: 痰の量や性状から何がわかるのか?
痰の観察は、呼吸器の状態を把握する重要なアセスメント項目です。訪問看護師は訪問のたびに痰の量・色・粘稠度を確認し、変化を記録しています。
痰の色と考えられる状態
| 痰の色 | 考えられる状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 透明〜白色 | 正常な気道分泌物 | 通常のケア継続 |
| 黄色 | 細菌感染初期 | 主治医への報告を検討 |
| 緑色 | 細菌感染(緑膿菌など) | 主治医への報告・抗菌薬検討 |
| 赤色(血痰) | 気道損傷・肺出血 | 緊急連絡 |
| 茶褐色 | 古い血液の混入 | 主治医への報告 |
痰の量の目安
健康な成人の1日の気道分泌物量は約100mLですが、感染や炎症があると増加します。在宅での吸引回数が1日8回以上(通常は3〜5回)に増えた場合は、呼吸器感染症の可能性があるため注意が必要です。
私たちFootageでは、DXツールを活用して痰の量・色の経時変化をチーム内でリアルタイム共有しています。「昨日から痰の色が変わった」という情報が看護師・理学療法士・主治医に即座に伝わることで、早期対応が可能になります。
Footage訪問看護ステーションによる吸引ケアサポート
臨床推論に基づくアセスメント
私たちは「痰を吸引する」だけでなく、「なぜ痰が増えているのか」という原因を探る臨床推論を大切にしています。脱水による痰の粘稠度上昇なのか、体位の問題で排痰がうまくいっていないのか、感染徴候なのか。原因に応じて、水分摂取量の調整、体位ドレナージの提案、主治医への早期報告といった対応を使い分けています。
多職種チームでの呼吸管理
看護師による吸引ケアに加え、理学療法士(PT)が呼吸リハビリテーション(排痰体位、呼吸筋トレーニング)を実施し、作業療法士(OT)が日常生活での呼吸が楽な姿勢や動作、食べやすい食事環境などを指導します。言語聴覚士(ST)は嚥下機能の評価を行い、誤嚥性肺炎の予防に貢献します。在宅酸素療法を併用されている方の機器管理や日常生活の注意点は、在宅酸素療法(HOT)の管理で詳しく解説しています。
24時間365日の緊急対応
「夜中に痰が詰まって苦しそう」「吸引しても取れない」といった緊急事態にも、24時間体制で看護師が電話対応し、必要に応じて緊急訪問を実施します。日中の訪問記録をもとに利用者の状態を把握しているため、夜間対応でも的確な判断が可能です。
ご家族への丁寧な指導
吸引手技の指導は、1回の説明で完結するものではありません。私たちは訪問のたびにご家族の手技を確認し、「カテーテルの挿入角度」「吸引のタイミング」「圧の確認方法」を繰り返しお伝えします。不安が解消されるまで何度でもサポートします。また、吸引前後の緊張や不安を和らげる方法として、手で優しく触れて安心感を伝えるタッチングケアの効果と方法も参考になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 在宅用の吸引器はどこで入手できますか?
医療機関からのレンタルまたは医療機器販売店での購入が可能です。 介護保険の福祉用具貸与の対象外ですが、身体障害者手帳(呼吸器機能障害等)をお持ちの方は市区町村の「日常生活用具給付事業」で助成を受けられる場合があります。この制度は国による統一基準額はなく、自治体の裁量で基準額・対象者要件が異なります(参考例:仙台市は基準額59,100円・耐用年数5年。対象は呼吸器機能障害3級以上等)。詳細はお住まいの市区町村の障害福祉窓口または地域包括支援センターにお問い合わせください。医療機器販売店での市場価格の目安は据置型で3〜8万円、携帯型で2〜5万円程度(2024年時点)です。主治医や訪問看護師にご相談いただければ、適切な機種選定をサポートします。機器の準備が間に合わない場合、フッテージの一部店舗では吸引機の貸し出しも実施しています。
Q2. 吸引は1日に何回まで行ってよいですか?
回数の上限はなく、痰が貯留して呼吸が苦しいときに必要に応じて実施します。 一般的な目安として1日3〜5回程度の方が多いですが、状態によっては8回以上必要な方もいます。1回の吸引時間は10〜15秒以内とし、連続で吸引する場合は30秒以上の間隔を空けることが推奨されています(日本呼吸療法医学会 気管吸引ガイドライン2023)。
出典: 気管吸引ガイドライン(Mindsガイドラインライブラリ)
Q3. 吸引時に出血した場合はどうすればよいですか?
少量の血液が痰に混じる程度であれば、吸引圧が高すぎるかカテーテルの挿入が深すぎる可能性があります。 まず吸引を中止し、吸引圧とカテーテルの挿入長を確認してください。繰り返し血液が混じる場合や出血量が増える場合は、訪問看護師または主治医に連絡してください。Footageでは24時間電話対応が可能です。
Q4. 痰が固くて吸引できない場合はどうしますか?
室内の湿度を50〜60%に保つこと、水分摂取量を1日1,000〜1,500mL以上確保することも痰の粘稠度低下に有効です。場合によっては体位ドレナージ、去痰剤、吸入、深刻なケースでは気管挿管なども対応の選択肢に入りますが、いずれも医療的な処置になりますので、詳細は主治医や訪問看護師にお問い合わせください。
Q5. 訪問看護で吸引ケアを受けるにはどうすればよいですか?
主治医から訪問看護指示書を発行してもらうことで利用を開始できます。 医療保険・介護保険いずれでも利用可能です。ケアマネジャーがいる場合はケアプランに位置づけてもらいます。Footageでは初回相談から主治医への連絡、指示書の手配までサポートしています。お気軽にお問い合わせください。
Q6. 夜間に痰が増えやすいのですが、対策はありますか?
就寝前の体位調整が有効です。 仰臥位(あおむけ)は痰が咽頭に貯留しやすいため、上半身を15〜30度挙上するセミファウラー位や側臥位(横向き)が推奨されます。また、就寝前にネブライザーで加湿し、排痰を促してから休むと夜間の痰貯留を軽減できます。
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まとめ
在宅での吸引ケアは、適切な手技と感染予防の知識があれば安全に実施できます。
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吸引圧は成人で20kPa以下、1回10〜15秒以内が基本
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痰の色・量・性状の変化は呼吸器感染の重要なサイン
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感染予防の4原則(手指衛生・カテーテル管理・吸引瓶管理・環境整備)を守る
ご家族だけで吸引ケアの不安を抱え込む必要はありません。私たちFootage訪問看護ステーションは、臨床推論に基づくアセスメントと24時間365日の対応体制で、在宅での呼吸管理を全力でサポートします。
吸引ケアのご相談や訪問看護のご利用をお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。
看護師・リハビリ職の方へ
この記事は、名古屋を中心に訪問看護ステーションを運営する Footage が、日々の訪問で行っているケアをもとにまとめています。在宅での処置やご家族への指導に関わる仕事に関心がある方は、私たちと一緒に働くことも考えてみませんか。訪問看護が初めての方も歓迎しています。
