はじめに

これから訪問看護事業所の開業を考えている皆さまへ、「訪問看護開設研修の取り組み」と題して、開設したばかりの事業所のメンバーに実際に伝えている内容について解説します。
訪問看護ステーションを開設する際の第一歩目の行動は、その後の運営状況に大きく影響を与えます。
経営支援事業部で行っている研修の一部を紹介しながら、事業所開設時の初動の重要性について深掘りしていきます。

皆様の事業所運営にお役立ていただければ幸いです。

形成期の重要性と研修内容

以前掲載したコラムで、オープニングスタッフの役割と重要性についてお話しました。
オープニングスタッフは、チーム文化やサービス提供の基盤を構築する重要な役割を担っています。
適切なサポートを提供することが、訪問看護事業所の運営状況に大きな影響を与えることを説明しています。
是非、下記のコラムも併せてご確認ください。経営支援コラム:【ノウハウ公開】訪問看護オープニングスタッフ採用①

このコラムの中で、タックマンモデルにも触れています。
Footage訪問看護ステーションでは、タックマンモデルの各段階を擬似的に体験する研修を行なっています。
本日は、タックマンモデルの最初のステージである「形成期」を体験する研修内容の一部をご紹介いたします。

▪️タックマンモデルの形成期

タックマンモデルとはチームの発達段階を包括的に示すモデルで、チームの状態は「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」の4段階で示されます。英語では「norming」「storming」「forming」「performing」となり、韻を踏んでいるような心地良さがありますね。

今回は『形成期』の振り返りから始めます。
この時期は、メンバー同士がチーム内の方針や依存関係を探る試行錯誤の時期です。
新しい組織でのコミュニケーションは、メンバー間でもお互いに知らないことが多いため、不安や緊張を伴いがちです。
そのため、メンバー同士の相互理解を深め、信頼関係を構築することが重要となります。
心理的な安全性を確保するための文化作りが、チームの強固な基盤を築く鍵となります。

▪️自己開示と相互理解が大切

開設したばかりの事業所は、まさにタックマンモデルの形成期の状況です。
開設前から所属メンバー全員で顔合わせをしながら準備を進めるのが理想的ですが、そのような状況は現実的に困難な場合が多く、開設日に初めて全員で顔を合わせることも少なくありません。
このような状況で、「電話で挨拶回りのアポイントメントをお願いします。」「居宅さんに挨拶に行ってください。」といった具体的な行動の指示をしても、上手く機能しないことが予測されます。

▪️なぜ、上手く機能しないのか

ここで創作やイソップ寓話等の諸説のある話ですが、わかりやすい例え話として有名な『3人のレンガ職人』の話を紹介します。

昔ある所に、一人の旅人がいました。ここは中世のとあるヨーロッパの町です。旅人が街を歩いていると、汗をたらたらを流しながら、重たいレンガを運んでは積み、運んでは積みを繰り返している3人のレンガ職人に出会いました。そこで旅人は「何をしているのですか?」と尋ねました。すると、3人のレンガ職人は次のように答えました。
1人目は、「そんなこと見ればわかるだろう。親方の命令で レンガを積んでいるんだよ。暑くて大変だからもういい加減懲り懲りだよ」と答えました。
2人目は「レンガを積んで壁を作っているんだ。この仕事は大変だけど、お給料がいいからやっているのさ」と答えました。
3人目は「レンガを積んで、後世に残る大聖堂を造っているんだ。こんな仕事につけてとても光栄だよ」と答えました。』

10年後、旅人はあの時と同じ場所を訪れました。
1人目は10年前と同じように文句を言いながらレンガを積んでいました。
2人目はレンガ積みよりお給料のいい仕事につきました。危険が伴う教会の屋根の上で仕事をしていました。
3人目は建築現場の監督として多くの職人を育て、出来上がった大聖堂には彼の名前がつけられていました。

この話の教訓は、どの考え方が正しい、間違っているというものではなく、目的意識をどのように持つかでその後の結果や人生が大きく変わるという点にあります。
「電話で挨拶回りのアポイントメントをお願いします。」「居宅さんに挨拶に行ってください。」という行動においても、ただ指示通りに動くのか、新規利用者獲得のために行うのか、1人でも多くの人々がご自宅でより良いサービスを受けられるように、地域の多職種の方々と関係性を醸成するために行うのかでは、アプローチの仕方も結果も大きく変わります。

▪️Visionの共有

チームとしての活動を上手く機能させるためには、ビジョンを事業所のメンバーで共有し、メンバーそれぞれに自分なりに咀嚼して貰う事が大切です。
メンバーひとりひとりが自分自身を知ってもらい、相手のことも自分事として捉えていく必要があります。

・なぜ、訪問看護ステーションに入職したのか?
・自分はどういった人間なのか?
・どんな価値観を大切にしているのか?
・どんな訪問看護ステーション運営をしたいのか?
等の各々の価値観を知り、ビジョンとの共通点を見つけることで、チーム全体の共通目的としてのビジョンが息をし始めます。

フッテージでは、「地域の隅々まで、訪問看護のプロフェッショナルチームを」をビジョンとして掲げているため、メンバーのビジョンに対する理解度が向上するように、自己開示と相互理解が促進するような研修プログラムを組んでいます。

▪️Footage訪問看護ステーションの開設時研修

Footage訪問看護ステーションでは、新規開設するステーションの事業責任者、管理者、メンバーに向けて研修を開催しています。
今回は、その研修内容の一部を紹介させていただきます。

5分間自己紹介

4〜5人ほどのグループを形成し、その中で自己紹介を行います。
自己紹介の内容は基本的に自由ですが、「なぜフッテージに来たのか?」は必ず含めていただきます。
初対面に近いメンバーの中で話すのは緊張しますが、聞き手も協力して話しやすい環境を作っていきます。
メンバーの人生を追体験することで、日常会話では引き出すのが難しい人生観や価値観などを共有しやすくなります。
事業所メンバー同士の共通の価値観や話題を見つけることで、話しやすくなったり、協働が促進されるよう促します。

人生において大切な5つの価値観を共有する

バリューズカードというゲームを通じて、研修に参加しているメンバー同士で、人生において大切にしている5つの価値観を共有します。
価値観への問いかけをランダムに投げかけられるため、普段自分自身でも意識をしていなかった価値観も引き出されます。
ゲームを通して自己開示を促進することができ、それを共有することで相互理解も深まります。
ゲームの前後では、メンバー同士の心理的な距離感が大きく変わるのをいつも感じます。

以上が、フッテージで実施している研修の一部内容です。
これらの研修を通じて、メンバーの相互理解を深め、強固なチームを築くためのきっかけとなります。
開設したばかり訪問看護ステーションでは大変なことも多いですが、運営がスムーズになるよう、是非参考にしていただければ幸いです。

まとめ

訪問看護ステーションを開設したばかりの時の行動は、その後の運営にも大きな影響を与えます。
形成期の重要性を理解し、開設当初からメンバーの信頼関係を構築することで、強固な基盤を築くことに繋がります。
この情報が、訪問看護の開業を考えている方々や既に運営をされている皆様にも役立つことを願っています。