はじめに

訪問看護ステーションでは、利用者の状態変化に対応するため、継続的な学習が欠かせません。
つまりスタッフが常に新しい知識やスキルを習得し、利用者により良いケアを提供出来る学習環境が求められます。
今回はスタッフの自発的な学びを引き出すために、フッテージ訪問看護ステーションが取り組んでいる事柄について紹介します。

本コラムは「自立・自学・自責」シリーズの2本目となりますが、前回の「自立」についての記事でお伝えした前提を踏まえて記載しますので、今回のコラムを読み進める前に、是非そちらもご覧ください。

また自律分散型組織と訪問看護の親和性について記載した記事もありますので、そちらもおすすめです。

「自学」とは何か

自学とは、自分に必要なことを、主体的に学び続けること

フッテージでは職員の自律性を「自立」「自学」「自責」の3種類のテーマで区分しており、これらが全て揃った状態を自律した状態であると定義しています。
「自学」とは自分に必要なことを主体的に学び続ける力のことで、自分の人生の目的やキャリアの目標、目標達成に必要なための能力等を客観視し、計画的に学習していく能力に他なりません。「自学」の能力をこのように定義した場合、学習はただの手段ではなく、それ自体が目的となるような、生涯を掛けて取り組む営みの1つになります。

それは看護師等の専門職が、生涯のキャリアを通じて様々なことを学んだり経験したりする中で、患者はもちろん、地域や自分自身にとってもより良い関係を持てるようになっていくことと似ています。つまり、「自学」の能力を育むことで、自分が関係を持っている多くの方々と、相互作用しながらより良い方向へ向かうことが出来るのです。

専門職の生涯学習に必要な環境について

学習における成人の特徴を理解する

会社組織での学習を考える際に、集合型の研修や、OJT(On the job training)など、学校教育と似通った内容になってしまうことが多いと思います。
学校教育は教育カリキュラムの完遂や大学受験を目的に、国家が定めた制度によって運営されているため、画一的な内容を一定の水準で修めることに重心が置かれますが(新学習指導要領では社会に開かれた教育が重要視されていますが)、会社組織での教育は目的が異なります。
特に専門職の場合、専門職として就業するための一定の知識や経験は学校教育や資格の取得過程で修めている場合が多く、社会人となってからはそれらを応用したり、職務又はライフプラン上で必要性の高い知識や技能を自ら特定し、習得する能力が求められるわけです。

このような学習における成人の特徴を考えるにあたっては、マルカム・ノールズの成人学習理論(アンドラゴジー)が参考になります。

“成人学習理論によると、おとなの学習者には、大きく分けて4つの特性があります。
1つ目は、おとなの学習には、自己決定性やアイデンティティが大きく影響すること。
2つ目は、これまでの蓄積された経験が豊富な資源となって学習の基盤になること。
3つ目は、おとなの学習へのレディネス(準備状態)では、社会的な役割や精神的な発達課題に目が向けられること。
4つ目は、学習への方向付けが、教科中心のものから課題達成や問題解決中心のものへ変化していくことです。
また、おとなの学習者の場合、内的誘因や好奇心に働きかける新しいことを学ぶための動機づけがより重要であることも指摘しています。”

おとなの学習と子どもの学習の違いって何だろう? −成人の特性を生かした学習援助論-(東洋大学入試情報,TOYO Web Style)より引用

つまり専門職の学習については、画一的に取り扱うべき内容と本人次第で学習する内容とを区分し、本人の問題意識に寄り添って学ぶ内容を決定し、学んだ内容によってキャリアが向上するような体制を準備することが大切であると意訳することが出来ます。

学び方の得手不得手に配慮する

適性処遇交互作用(ATI:aptitude treatment interaction)という考え方があります。
これは学習者の学力や性格、得意な学習方法の違いなどによって、効果的な指導者の関わり方や学習材の種類等が異なることを指します。

例えば循環器内科での勤務経験が長い看護師が、がんの終末期患者の看護に苦手意識を持っていた場合に、終末期領域に関するテキスト教材のみを手渡し、当該看護師に対して指導したことにしてしまっては、高い学習効果は期待しづらいでしょう。もし当該看護師に、具体的に何に対して苦手意識を感じるか聴取し、一緒に患者のもとへ向かい、注意すべきポイントについて説明し、本人が得意な教材の中で参考になる部分のみを使うように紹介していたらどうでしょう。
このように学習者個別の得手不得手に配慮した学習機会を提供していくことで、高い学習効果を得ることが出来ます。

ただし、指導者のみが学習者の特徴を把握し、学習を調整するだけでは十分とは言えません。
指導者にも学習者にも、いずれは組織から離れるタイミングがやってきますし、学習の主導権が自身に無い状態は、主体的に人生を切り拓いている状態ではありません。
つまり生涯学習を考えるにあたっては、学習者自身が自分の得手不得手について理解し、それらを踏まえた上で主体的に学び続ける力を育む必要があり、これが「自学」の土台となるのです。

「自学」を推進する組織の学習体制について

個別最適な学びを提供する

学ぶ内容が組織の都合のみで決定されていては、学習者の興味関心や問題意識、得手不得手に寄り添った学習環境とは言えず、学習者の学びに対する意欲が十分に発揮されない可能性があります。また会社の制度が学びを妨げている場合や、推進していない場合も考えられます。

個別最適な学びとは、学習者一人ひとりが、自分の問題意識に寄り添って、学ぶ内容や方法を自ら選択し、主体的に学ぶことが出来る環境を指します。
これにはまず、会社が学んで欲しい内容をカリキュラムとして定義し、学ぶ目的や意味、方法や所要時間等を明確にし、多様な学習材(テキスト、動画、音声、体験型など)を整備し、学びのマイルストーンを明確にすることで、学習者自身の選択を支援する必要があります。
学習者は学びのマイルストーンを理解した上で、自分の人生設計やキャリアプランを考慮しながら学習計画を立案し、指導者や同僚からフィードバックを貰いながら、学習を進めていきます。ここでは、学習が計画通り進むことが目的ではなく、学習者自身が学習計画を修正しながら、自身の問題意識や学びの得手不得手等についてメタ認知(客観的に認識する)し、自己理解を深めることが目的となります。
そうすることで、学習者自身の生涯学習の基盤が整っていくわけです。

注意点として、ただ闇雲に生涯学習を推進することが正しい訳ではなく、経営的なインセンティブも考慮した上で、どの程度推進するか、若しくは推進しないのか、決定する必要があるということです。

協働的な学びについて

突飛ですが、個別的な学びを整備する目的は、協働的な学びが発生するよう仕向けるためです。

協働的な学びとは、個別最適な学びによって知識や技能を身につけた学習者同士が、共通の目的や課題に対して議論を深める中で、新たな解決策や知識を生み出し、より深い学びを得るプロセスのことで、学び本来の姿を指します。この本来的な学びを発生させ、問題解決を推進していくことが、学習環境を整備する目的となります。

ここでは指導者も生徒も関係なく、その場に居合わせる全てのステークホルダーが学習者となります。

“すべてのメンバーに求める、生涯学習者としての姿勢
1.安易に答えを求めず、すべての答えはその場に応じた暫定的なものとして取り扱いましょう。
2.すべての事柄に適応出来るような、普遍的な知識は存在しないことを理解しましょう。
3.知識を共有することよりも、体験や思考プロセスの共有を大切にしましょう。
4.自分自身も含めたすべてのメンバーに学習権があることを理解しましょう。
5.知識・経験・仲間こそが、自分を真に助けてくれるものと理解しましょう。
6.新しい知を紡ぐことこそ、次の世代に対する責任であると理解しましょう。
フッテージの人材育成指針より抜粋

まとめ

「自学」を通じて学習に明るい環境を目指すことで、組織能力の向上に繋がります。
本コラムが、課題を抱えながら組織を運営されている方にとっての一助となれば幸いです。

フッテージでは、訪問看護ステーションの経営支援サービス(フランチャイズ、コンサルティング)を展開しています。
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