はじめに
今回は、看護師特有のコミュニケーションを理解することでコンフリクト要因の発生を減らすとともに、FOOTAGEで行なっているコンフリクトマネジメントの実際を紹介します。
これまでの記事では、訪問看護における経営と現場の対立について詳しく掘り下げました。
今回のコラムに入る前に、是非前々回と前回のコラムもご覧ください。経営支援コラム:訪問看護の経営と現場の対立について知っておくべきこと経営支援コラム:訪問看護の運営に役立つ コンフリクトマネジメント
看護師とのコミュニケーションで注意する点
看護師は、精神科、小児科、ターミナルケアなど、診療科ごとに様々なコミュニケーション方法を用いており、コミュニケーションは看護師にとって必須のスキルです。
看護学生時代からコミュニケーションについて繰り返し学び、仕事の中で実践している看護師は、信頼関係を構築する上でコミュニケーションの重要性を理解しています。
▪️結果だけではなく、プロセスも評価される看護師
看護師がコミュニケーションに対して高い関心を持つ理由として、顧客から要求される姿勢や評価基準が影響していると考えられます。
訪問看護師は利用者と密接に関わるため、技術面だけでなく、コミュニケーションも顧客からの評価の対象になります。
例えば、技術力が高くてもコミュニケーションが不足していると「冷たい看護師だ」「私に関心がない」と評価されることがあります。
医療処置といった技術だけでなく、体験するサービス全てが評価の対象になっており、信頼関係を築いていくプロセスも評価の対象になっています。
相馬幸恵氏は、著書『看護師の感情労働 ──患者-看護師のコミュニケーションにおいて──』において
看護には病気の回復過程に貢献するという役割があり,結果のみではなく,プロセスも評価の対象になる。一人の看護師が提供する看護サービスの過程と結果に対する評価が,看護職全体,ひいては医療サービスや病院全体への評価ともなり得る。1)
と述べています。
利用者から「あなたのところの事業所はどうなっているの?」というような指摘を受けることもあり、私自身も実体験として経験しています。
▪️相手に興味を持つことが大切
コンフリクトマネジメントの方法
前回のコラムでお話しした通り、対立が発生した場合の対処法としてコンフリクトマネジメントは有用です。
コンフリクトマネジメントの方法は5つのステップで行うことができますので、ご紹介します。
▪️①コンフリクトマネジメントのメリットを共有する
事前準備として、コンフリクトマネジメントのメリットを共有することが重要です。
対立に焦点を当てるのではなく、組織が変わるチャンスと捉え、建設的に話を進めるためのマインドセットが必要です。
また、協力して取り組むことの重要性も共有しましょう。
前提の理解ができているかどうかで話し合いの質が大きく変わるので、丁寧に行いましょう。
▪️②意見交換の場を設定する
お互いが安心して自分の意見を伝えられる環境を整え、意見交換を行いましょう。
相手を否定したり、パワーバランスが傾いて意見が抑圧されるような状況では話し合いが行えないので、心理的安全性の確保に努めましょう。
建設的な話し合いが行えないと判断した場合は、仲介者を設定して客観的な視点を取り入れましょう。
▪️③コンフリクトの要因を明確にする
意見交換をもとに、相違や一致を確認しながら、なぜ対立が発生したのかを客観的に検討し、コンフリクトの要因を明確にしましょう。
コンフリクトの要因は複数存在することが多いため、一つに絞らず、考えられる要因を挙げていきます。
この時に”誰かのせいにする”など、人に焦点を当ててしまうと根本的な解決に至らず、対立が悪化する原因になるため、業務改善や再発防止のための話し合いにしましょう。
▪️④解決策を一緒に導き出す
発生しているコンフリクトに対して、さまざまな角度から解決策を検討しましょう。
建設的な解決策を導き出すため、客観的な視点で物事に焦点を当てて検討します。
双方にとって良い結果となるように解決策を導き出しましょう。
▪️⑤協力して改善に取り組む
どちらか一方だけで改善に取り組んでも、導き出した解決策が上手く機能しないことが多いです。
新たなコンフリクトを生み出す火種になる可能性もあります。
そういった際は、意見交換や話し合いの場に参加すべきメンバーが参加しておらず、不在のまま意思決定してしまっているケースが散見されます。意思決定の内容が多くのメンバーに影響する場合は、メンバー不在のまま勝手に物事を進めすぎず、改善プロセスを丁寧に共有することも大切です。
協力して取り組むプロセスの中で、組織としての力も向上していくでしょう。
以上の5つのステップを踏んで、コンフリクトマネジメントを実践しましょう。
対立を乗り越え、組織の成長につなげることができるよう、効果的なコミュニケーションを心がけることが大切です。
組織全体で協力し、建設的な解決策を導き出すことが、対立を解消し、より良い環境を作り出すための鍵となります。
FOOTAGEにおけるコンフリクトマネジメントの実践
FOOTAGEでのコンフリクトマネジメントの実践を参考に、訪問看護ステーション運営に役立てられるよう、実際の取り組みの一部をご紹介します。
FOOTAGEでは、直営店やフランチャイズ店に関係なく、それぞれの訪問看護ステーションが自律してコンフリクトマネジメントを実施できるよう、制度を設計しています。
▪️①Value〜コンフリクトマネジメントのメリットを共有する〜
FOOTAGEでは、変化を楽しみ、多様な価値観を尊重するというValueをメンバーに伝えています。
毎日1時間程度の対話の時間を設け、その際もValueに基づいた対話が行われています。
変化を楽しむことや、愛情を持って接するという文化が築かれており、対話の土壌作りを徹底しています。
▪️②紛争解決ルールの設定〜意見交換の場を設定する〜
コンフリクトが発生した際の解決ルールとして、『FOOTAGE TEAM PROMISE』が設定されています。
ルールを設けることで、感情的な対立を避け、建設的な対話が行いやすくなります。
▪️③調停者や委員会の招集〜コンフリクトの要因を明確にする・解決策を一緒に導き出す〜
『FOOTAGE TEAM PROMISE』にも規定されているように、当事者間での解決が難しい場合は調停者や委員会を招集し、紛争解決のサポートを行っています。
▪️④グループ内コミュニケーションの活性化〜協力して改善に取り組む〜
当事者同士や単独の事業所での改善が難しい場合は、FOOTAGE全体で協力して改善に取り組みます。
社内SNSでの情報共有や、機能別チーム、専門家チームを活用して、専門性を生かした改善策のサポートを行っています。
また、研修を通じて話し合いのスキルを身につけたり、懇親会やFOOTAGE BARなどで仕事とは別の時間を共有することで、メンバー同士の交流を深める活動も行っています。
コミュニケーションの活性化を行うことで、協力する文化が自然と醸成されます。
以上のFOOTAGEでの取り組みを参考に、訪問看護ステーション運営においてコンフリクトマネジメントがより効果的に行えるよう、制度や取り組みを整えていくことが望ましいです。
まとめ
本コラムでは、看護師のコミュニケーションスキルや価値観を理解することが、経営と現場の対立解消に繋がることをお話ししました。また、コンフリクトマネジメントの重要性や方法について解説し、実際の取り組みの例としてFOOTAGEの取り組みの一部を紹介しました。
参考文献:
1)相馬幸恵著.看護師の感情労働 ──患者-看護師のコミュニケーションにおいて──.北海学園大学経営論集,2011年,3月25日,P65
皆さまへの
コメント
Footage訪問看護ステーションで蓄積してきたナレッジを共有し、訪問看護ステーション運営の助けとなりたい。
課題や葛藤を共有しながら一緒に解決していく仲間を増やすことで、地域医療を支える仲間が、誇りや働く意義を持って、訪問看護に専念できる環境を作りたい。