はじめに

訪問看護ステーションの管理者は、組織運営、スタッフの育成、サービスの品質向上など、多岐にわたる役割を担っています。特に、訪問看護はスタッフが単独で利用者宅を訪問するため、管理者が組織のビジョンを明確にし、チームの方向性を示すことが不可欠です。本コラムでは、その役割を果たすために管理者に求められるリーダーシップについて解説していきます。

また、本コラムは「管理者の役割」シリーズの第2弾となります。
前回の『成果について考える』では、管理者が成果を生み出す責任者としてどのような視点を持つべきかについて解説しました。
本記事は、前回の内容を踏まえて構成しておりますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。

管理者は、リーダーシップを発揮する必要がある

ピーター・ドラッカーは、現代経営学の父と称される人物であり、マネジメントに関する多くの重要な洞察を提唱しました。
その中で彼は、マネージャーは「リーダーシップを発揮する必要がある」と述べています。

訪問看護ステーションにおいても、管理者は単なる業務の遂行者ではなく、組織を導くマネージャーであるべきです。

では、リーダーシップとは何なのか?
そして、管理者は何をすべきなのでしょうか?

リーダーシップとは何か?:ドラッカーの視点から見る

「リーダーシップ」と聞くと、「私にはできないのではないか?」「特別な資質が必要なのではないか?」と感じる方もいるかもしれません。
また、リーダーシップの定義は、時代や文化、組織の形態によって異なります。
しかし、ピーター・ドラッカーは、リーダーシップの本質は普遍的であるとし、次の3つの考え方を提唱しました。

  1. リーダーシップは才能ではなく「仕事」
    リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、訓練と努力によって身につけることができる。
  2. リーダーシップは特権ではなく「責任」
    地位や権力ではなく、組織の成果を生み出す責務を負うことが求められる。
  3. リーダーシップは個人の力ではなく「信頼」
    フォロワー(部下やスタッフ)からの信頼がなければ、リーダーシップは機能しない。
参考文献:Drucker, P. (2001). Management Challenges for the 21st Century. HarperBusiness.


この視点は、現代の組織運営においても極めて重要な示唆を与えています。

  • リーダーシップは先天的なものではなく、後天的に身につけることができる
  • 管理者の地位や権威の高さは、リーダーシップを発揮するための必須条件ではない
  • 組織を動かすためには、個人の能力よりも「信頼」が不可欠である

つまり、誰でも努力次第でリーダーシップを発揮することができるのです。

1.リーダーシップは才能ではなく「仕事」

ドラッカーは、リーダーシップを「特別な才能を持つ人だけが発揮できるものではない」と述べ、それは「仕事」であり、訓練と実践を通じて習得できるスキルであると述べています。

実際、多くの成功したリーダーは、最初から優れたリーダーだったわけではなく、経験を積みながらリーダーシップを磨いてきました。
例えば、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、若い頃は独裁的なリーダーでした。
しかし、経営の失敗を経験し、徐々にチームを尊重し、共感を持って接するリーダーへと成長しました。

訪問看護ステーションの管理者も同様です。
初めから完璧な管理者である必要はありません。
むしろ、スタッフの意見を聞き、試行錯誤しながらリーダーシップを育てていくことが重要です。
リーダーシップを「才能」と捉えてしまうと、「自分には向いていない」と諦めたり、真剣に向き合うことから逃げてしまうかもしれません。
しかし、「仕事」と捉えることで、諦めるのではなく、学び続けながら成長する姿勢を持つことができます。
この考え方には、そうした心理的な要素も含まれているといえるでしょう。

2. リーダーシップは特権ではなく「責任」

ドラッカーは、「リーダーとは、権力や地位を享受する存在ではなく、組織の成果を生み出す責任を負う人である」と述べています。

これは、訪問看護ステーションの管理者にも当てはまります。
管理者は、単に「指示を出す人」ではなく、スタッフが働きやすい環境を整え、利用者に質の高いケアを提供できるようサポートする責任者です。

しかし、次のような状況が生じていないでしょうか?

  • 「スタッフが言うことを聞かないので、好きにやってもらっている」
  • 「どうせ言っても変わらないから、指導するのを諦めた」

このような状態では、利用者に質の高いケアを提供することは不可能です。
リーダーシップを「責任」として捉えられていないために、管理者の匙加減で組織の質が大きく左右される危険な状況といえます。
また、「責任」を放棄してしまっていることに気づきながらも、自身のエゴで行動してしまっている可能性もあります。

リーダーシップとは、単なる指示ではなく、組織の成功と成長に対する責任を持ち、必要な決断を下し、行動することなのです。

3.リーダーシップは個人の力ではなく「信頼」

リーダーシップの本質は、「人々が自発的にこの人についていきたい、この人と一緒に活動したい」と思う存在になることです。
ドラッカーは、リーダーがスタッフの信頼を得られなければ、どんなに優れた戦略を持っていても組織を動かすことはできないと指摘しています。

これは歴史を振り返っても明らかです。

  • 織田信長と明智光秀(本能寺の変)
  • ナポレオンのロシア遠征
  • ジュリアス・シーザーとブルータス

これらの例は、リーダーが信頼を失うことで組織が崩壊したことを示しています。

訪問看護ステーションも例外ではありません。
訪問看護では、保健師、看護師、准看護師を常勤換算で2.5人以上配置することが義務づけられています。
これは、訪問看護が組織としての活動を前提としていることを意味します。
そして、組織として運営する以上、管理者がスタッフの信頼を得ることは不可欠です。
むしろ、対人サービスである訪問看護だからこそ、スタッフ同士の信頼関係が組織の安定と成長の鍵を握るのです。

リーダーシップとは何をすべきなのか?

訪問看護は、病院や施設とは異なり、看護師が単独で利用者宅を訪問し、ケアを提供するのが基本の働き方です。
そのため、現場での判断がスタッフ個人に委ねられる場面が多くなります。
しかし、スタッフ個人の価値観に依存して意思決定を行うと、思わぬ結果を招くことがあり、組織としての統制が難しくなる可能性があります。
具体的には、以下のような問題が発生する恐れがあります。

  • 組織の方向性が不明確になり、スタッフがバラバラに動いてしまう
  • トラブル発生時に適切な対応が取れず、利用者に損害を与えたり、スタッフの負担が増大する
  • 医療・介護業界の変化に適応できず、競争力が低下する

こうした問題を防ぐためにも、管理者はリーダーシップを発揮する必要があります。
では、具体的に何を意識すればよいのでしょうか?

ピーター・ドラッカーは、「リーダーの仕事は、個々のメンバーが最大限の能力を発揮できる環境を作り、それによって組織全体のパフォーマンスを向上させることである」と強調しています。
また、ドラッカーをはじめとする多くの経営学者や心理学者も、リーダーシップの本質は「指示を出すことではなく、組織の目標に向かってメンバーを導き、能力を最大限に発揮させること」であると述べています。
このように、訪問看護ステーションの管理者は、単なる指示役ではなく、スタッフが主体的に動ける環境を整え、組織の方向性を明確に示すことが求められます。

ここまで述べてきたリーダーシップの3つの考え方を踏まえると、訪問看護ステーションの管理者として発揮すべきリーダーシップには、以下の3つの要素があると考えられます。

1. 生涯学習者としての見本を示す

管理者自身が「リーダーシップは後天的に学べるもの」であることを理解し、常に学び続ける姿勢をスタッフに示すことが重要です。
管理者が「学び続ける姿勢」を見せることで、スタッフも「成長できる環境にいる」と実感し、主体的にスキル向上に取り組むようになります。
また、組織としての成長を促すためにも、管理者が率先して新しい知識やスキルを学び、それを現場に活かす姿勢を示すことが求められます。

2. 組織のビジョンを共有し、スタッフの能力を最大限に引き出す

訪問看護ステーションが組織として機能するためには、明確な方向性が欠かせません。
そのため、管理者は組織のビジョンをスタッフと共有し、各メンバーが能力を最大限に発揮できる環境を構築する責任を持たなければなりません。
ビジョンが組織内で共有されることで、スタッフ一人ひとりが主体的に行動しやすくなり、チーム全体の生産性向上につながります。
また、組織の目標が明確であることで、日々の業務の意味や価値をスタッフが実感しやすくなり、モチベーションの向上にも寄与します。

3. 真摯な姿勢を持ち、一貫性のある意思決定を行う

管理者は、スタッフや地域の関連機関と関わる際に、「事業所としての活動目的」に則った意思決定を行うことが求められます。
リーダーとしての判断や対応にブレがあると、スタッフの信頼を損ない、組織の安定性にも影響を及ぼしかねません。
一貫性のあるリーダーのもとでは、スタッフは安心して働くことができ、組織全体の信頼感が向上します。
また、訪問看護の現場では、多職種との連携も不可欠であり、外部機関との関係性においても、誠実で信頼に足る対応が求められます。

リーダーシップには、さまざまな理論やスタイルが存在しますが、本質的にはこの3つの要素を満たすことが重要だと考えています。
そして、これらの要素を実現するために、時代や文化、組織の形態に応じた適切なリーダーシップの手法を用いながら、組織を導いていくことが求められます。

最後に

本コラムを通じて、訪問看護ステーションの管理者が果たすべきリーダーシップの重要性について解説してきました。
リーダーシップは、生まれ持った才能ではなく、後天的に学び、実践を通じて育てていくものです。
また、それは単なる権限ではなく、組織の成果に責任を持ち、スタッフや関係者からの「信頼」によって成り立つものでもあります。
また、リーダーシップの本質は、「スタッフがついていきたいと思う存在になること」です。
管理者は、自ら学び続け、組織の方向性を示し、真摯な姿勢で信頼を築くことで、訪問看護ステーション全体をより良い組織へと導くことができます。

訪問看護の現場は日々変化し、多くの課題に直面することもあります。
しかし、適切なリーダーシップを発揮し、チームの力を最大限に引き出すことができれば、組織として質の高いケアを提供し続けることが可能になります。これから管理者としてリーダーシップを発揮する上で、本コラムの内容が少しでも参考になれば幸いです。

 

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