はじめに

訪問看護事業は、地域医療を支える重要な役割を担う一方で、その運営には多くの課題が伴います。
サービス品質の向上、収益性の安定化など、これらの問題は日々の運営に影響を及ぼしています。これらの課題にどのように向き合い、解決策を導き出すかは、訪問看護を運営する上で避けては通れない重要なテーマです。

これらの課題に立ち向かうためには、経営者や管理者だけでなく、所属するスタッフ一人ひとりが「自責」の姿勢を持ち、主体的に取り組むことが不可欠です。その姿勢なくしては、組織としての成長や課題の解決は困難と言えます。

本記事では、訪問看護事業の課題解決に向けた鍵として、「自責」の重要性について取り上げています。
なお、本コラムは「自立・自学・自責」シリーズの3本目となりますが。
前々回の「自立」、前回の「自学」でお伝えした前提を踏まえて記載します。
まだそちらをご覧になっていない方は、併せてご確認いただくことで、より深い理解が得られるでしょう。

また自律分散型組織と訪問看護の親和性について記載した記事も併せてお読みいただくことをおすすめします。

「自責」とは何か

自責とは、自分の行動に対して責任を持つこと

フッテージでは、職員の自律性を「自立」「自学」「自責」の3つのテーマで区分しており、これらが全て揃った状態を自律した状態であると定義しています。
その中でも「自責」とは、自分の行動や選択が他者や環境にどのような影響を与えたのかを冷静に分析し、その結果を外部要因や他者のせいにせず、主体的に受け止め、そこから学び、改善を重ねていく力のことです。
内省を通じて問題点を認識し、改善に向けて具体的な行動を起こすことが「自責」の本質であり、この力を養うことで、限界や課題を受け入れつつも前向きに解決策を模索し、成長し続けることが可能になります。

例えば、訪問看護事業において営業活動が思うように進まない状況を考えてみましょう。

  • 「営業活動が進まないのはスタッフのやる気がないせいだ」
  • 「この地域には需要が少ないからだ」

といった考え方は他責の視点です。
一方、自責の視点では次のように捉えることができます。

  • 「スタッフのやる気がないのは、目標設定やサポートが不十分だったのではないか」
  • 「需要が少ないと決めつける前に、地域のニーズをより詳しく調査するべきではないか」

このように、自分や組織が改善すべき点に焦点を当てることで、課題解決に向けた建設的なアプローチが可能になります。
「自責」を実践することで、組織全体としての成長と課題解決を目指す姿勢が育まれるのです。

自責の落とし穴

ただし、すべての事象を盲目的に「自分の責任だ」と捉えることには危険な側面もあります。
過剰な自己批判は、ストレスや行動力の低下につながる可能性があるため、自責の視点を持つことが重要である一方で、自分で解決可能な範囲を見極めることも同様に大切です。
課題に直面した際には、自責と他責のバランスを意識し、自分の役割を客観的に評価する習慣を身につけることが、健全な問題解決能力の発達につながります。自分の行動や選択に責任を持つことは必要ですが、それ以上に、現実的で建設的な視点を持つことが欠かせません。

例えば、「雨が降ってきた」という事象に対し、「自分のせいだ」と考えるのではなく、次のように捉えることが重要です。
「天気予報を確認し、雨が降る可能性を予測できたのではないか。」
「雨が降ることを想定して折りたたみ傘を準備するべきだったのではないか。」
このように「自分でコントロールできるもの」と「コントロールできないもの」を区別し、取り組むべき課題を明確にすることが大切です。

統制の所在と中核的自己評価

自責と統制の所在の関係

自責思考を効果的に活用するためには、自責と他責のバランスが重要であることは前述の通りです。
このバランスを取る際に役立つ概念として、「統制の所在(Locus of Control)」があります。

「統制の所在は心理学的な概念であり、アメリカの心理学者ジュリアン・B・ロッター (Julian B. Rotter) が1966年に発表した論文「Generalized Expectancies for Internal versus External Control of Reinforcement」で提唱した概念です。

“統制の所在(とうせいのしょざい、locus of control)またはローカス・オブ・コントロール(LOC)は、行動や評価の原因を自己や他人のどこに求めるかという教育心理学の概念。”– Wikipediaより引用

とされており、この概念は、個人が物事の結果をどのように捉えるか、すなわちその原因を自身の内側(内的統制)に求めるのか、それとも外部(外的統制)に求めるのかを示すものです。

  • 外的統制(External Locus of Control):運や他者の行動、環境要因が結果を左右すると考える。
  • 内的統制(Internal Locus of Control):自分の行動や努力が結果を左右すると考える。

外的統制の傾向が強い場合、物事の結果を自分の力ではコントロールできないと感じ、努力を怠ることがあります。一方、内的統制の傾向が強い場合は、自分の努力次第で結果を変えられると考え、目標達成に向けて積極的に行動する傾向があります。
自責を育むためには、自分の行動や判断が結果にどのような影響を与えたのかを、内的統制の視点から考えることが重要です。この視点を持つことで、問題解決に向けて主体的かつ前向きに取り組む姿勢が養われ、成長や改善につながります。

外的統制/内的統制と他責/自責の違い

外的統制/内的統制と他責/自責は、しばしば混同されがちですが、似ているようで実際には異なる概念です。
外的統制/内的統制は、「結果が何によって引き起こされたのか」という、結果を引き起こした要因に焦点を当てています。
これは、出来事や状況の原因を自分の内側(内的統制)に求めるのか、それとも外部(外的統制)に求めるのかという視点です。
一方で、他責/自責は、「結果の責任を誰に帰属させるのか」という、結果に対する責任がどこにあるのかに焦点を当てています。
これは、物事の責任を自分(自責)に帰属させるのか、他者や環境(他責)に帰属させるのかという視点です。

柔軟な姿勢の重要性

外的統制傾向があるからといって必ずしも他責になるわけではなく、内的統制傾向が高いからといって常に自責的になるわけでもありません。
状況や環境に応じて柔軟に視点を切り替えることが大切です。
外部要因を冷静に認識しつつ、解決可能な内的要因に注力する姿勢が求められます。
失敗した際には過剰に自己批判せず、基本的には自責のスタンスで改善していくことが重要です。
このようにバランスを取りながら課題に向き合うことで、冷静に分析し、実際の行動に結びつけることができます。

言い換えれば、外的統制/内的統制と他責/自責のバランスを適切に保つことが、柔軟で効果的な問題解決の鍵となります。
このバランス感覚を身につけることで、状況に応じた最善のアプローチが可能になります。

自責と中核的自己評価の関係

統制の所在は、中核的自己評価の一要素

外的統制/内的統制と他責/自責のバランスをとる際、統制の所在だけに意識を向けるだけでは十分ではありません。
このバランスを理解し実践する上で、「中核的自己評価(Core Self-Evaluation)」の概念を深く理解することが有用です。

中核的自己評価は、心理学者のティモシー・ジャッジ(Timothy A. Judge)とその同僚によって提唱された心理学的概念で、自尊心、自己効力感、感情安定性、統制の所在という4つの特性を統合した自己概念です。この評価が高い人は、仕事や人生に対する満足度が高く、ストレスに強くて、パフォーマンスにも優れる傾向があります。
この概念を理解することで、より包括的に自分自身を捉え、バランスの取れた問題解決や自己成長が可能になります。

  1. 自尊心(Self-Esteem):自分には価値があるという感覚
  2. 自己効力感(Self-Efficacy):自分には物事を成し遂げる能力があるという感覚
  3. 感情安定性(Neuroticism):ストレスやプレッシャーに冷静に対処できる感覚
  4. 統制の所在(Locus of Control):物事を自分がコントロールできるという感覚

中核的自己評価と健全な自責思考の関係

中核的自己評価のこれら4つの要素が整うことで、健全な自責思考が機能しやすくなります。
これにより、内省を通じて問題点を正確に認識し、課題解決に向けた具体的なサイクルが形成されます。
魅力的な経営者やバイタリティあふれる人物を観察すると、これらの特性がいずれも高いレベルで整っており、健全な自責思考と積極的な行動が繰り返される好循環が生まれていることがわかります。

一方で、他責思考が強い人を観察すると、自己効力感が低く、感情の安定性に欠ける傾向があります。このような状態で強引に自責思考を押し出すと、挑戦する意欲を失ったり、メンタルが不安定になることがあります。その結果、自尊心が低下し、それに伴って自己効力感や感情の安定性もさらに低下するなど、負のスパイラルに陥る可能性があります。
こうした状態では、コントロール可能な要素にすら取り組む意欲を失い、結果的に成長が阻害されてしまいます。
健全な自責思考を育むためには、これら4つの特性をバランス良く整えることが重要であり、それが結果的に問題解決や自己成長につながります。

自責思考を育むためには、統制の所在に加え、中核的自己評価を構成する『自尊心』『自己効力感』『感情安定性』をバランスよく育む環境を整えることが重要です。それが、課題解決に主体的に取り組める訪問看護の組織づくりの第一歩となります。

まとめ

「自責」の姿勢を通じて、課題解決に取り組むことで、組織全体の能力向上へとつなげることができます。本コラムが、組織運営に取り組んでいる皆さまにとって、少しでもヒントや支えとなれば幸いです。

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