はじめに

訪問看護ステーションに限らず、組織を運営しているとさまざまなトラブルや出来事が発生します。
このような場合に現場の管理権限を持っている上司が現場から遠い位置にいればいるほど、情報の精度や量が不足しやすく、情報伝達の不具合や対応の遅延が発生する可能性が高くなります。

特に訪問看護では、利用者の状態は都度変化し、スタッフが単独で対応しなければならないケースも多く発生するため、現場職員が管理者や経営者の指示を待つだけでなく、柔軟かつ迅速に対応することが求められます。

自律分散型組織は、管理階層を可能な限り排除することで、全社的に協働的な体制を作ったり、迅速な意思決定に長がある組織形態です。私たちは、自律分散型組織(ティール組織、オランダのBuurtzorgが有名)と訪問看護ステーションとの相性の良さに着目し、創業初期から自律分散型組織で運営してきました。
私たちが訪問看護ステーションを自律分散型組織で運営するにあたって気を付けていることを、今回から全3回に渡ってお届けしたいと思います。

訪問看護と自律分散型組織の親和性についての記事もありますので、ご興味がある方は今回のコラムを読み進める前に是非そちらもご覧ください。

経営支援コラム:訪問看護の役割と自律分散型組織の親和性について

自律とは何か

自律とは文字通り、自分を律することが出来る状態、及びそれ自体を指します。
フッテージでは職員の自律性を「自立」「自学」「自責」の3種類のテーマで区分しており、これらが全て揃った状態を自律した状態であると定義しています。

中でも「自立」はその後の土台となる大切なテーマです。
今回は「自立」について、特に行動規範の形成に着目し、お伝えしたいと思います。

行動規範について

私たちは生活や仕事の中で、常に何かを意思決定したり、行動しています。
この時に何も参考にせずに何かを決定しているのではなく、社会のルールや慣習、培ってきた経験、所属している組織の価値観などを規範とし、意思決定します。

“規範(きはん、英: norm)とは、「〜である」と記述される事実命題に対し、「〜べきである」と記述される命題ないしその体系をいう。法規範や社会規範がその典型であり、道徳や倫理も規範の一種である。” – Wikipediaより引用

組織とは人々が共通の目的のもとに集まることで成り立つものですが、集まった人々が目的達成のために用いる手段はさまざまですので、取りうる手段によっては金銭的又は時間的なコスト等が高かったり法令違反があったりと、管理が大変になります。
そうすると、組織は管理コストを低下させようと、ミッションやビジョン等を策定したりマニュアル等を整備することで、組織の構成員に対して共通の手段を用いるよう働きかけます。
これらが組織のルールとなり、組織構成員が意思決定や行動する際の規範となっていく訳です。

自律分散型組織では、この行動規範(ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)、パーパス、クレド、ガイドライン、マニュアルなど)を組織が社会に存在している意義に立脚して策定し、営利的な活動だけでなく、社会的な意義に根ざした活動をするために形成していきます。

組織内の情報伝達

行動規範を形成するにあたっては、組織内で取り扱う情報が大きく影響しますので、それらをどう取り扱うかが重要になります。
組織内で取り扱う情報は「意味情報」と「形式情報」で区分されると考えられており、今回は私たちがそれらの情報をどのように取り扱っているかについて紹介したいと思います。

形式情報は、文脈依存性を可能な限り排除した、誰が受け取っても同じ意味を持つ情報を指します。
例えば日時や金額、担当者名など、マニュアルを作成したり、タスクの処理を依頼する場合などに用いることが多い情報です。

対して意味情報は、極めて文脈依存的であり、受け手によって意味が異なる可能性が高い情報を指します。
例えば「楽しい」や「面白い」など抽象度が高い語句や文が、それにあたります。

組織の情報伝達では、形式情報と意味情報がステークホルダーに与える影響について考え、組織の存在意義に対して正の方向へ働くように意図することが大切になります。
今回は特に、意味情報に着目してお伝えしていきます。

引用元:有斐閣『リーディングス 日本の企業システム』第1巻「企業とは何か」 1993年01月発行 yuhikaku.co.jp/books/detail/4641053138

意味情報の伝達

組織の存在意義

組織の存在意義(ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)、パーパス、クレドなど)は、組織内の重要な意味情報になります。
意味情報とは上述の通り、受け手によってさまざまな意味を持つ情報を指しますので、組織の存在意義はなるべくたくさんの人々に共感していただけるような、社会に通底している善い価値観に働きかけることの出来るものであることが望ましいでしょう。

もし組織の意味情報が、利己的であったり独善的なものである場合には、当然ステークホルダーからの賛同は得づらく、周囲に応援して貰えないことで、活用可能なリソース(金銭、社会関係に関連した資本など)が少なくなってしまう可能性があります。

ただし、受け手による意味情報の解釈の幅が広すぎても、無用な誤解から混乱を招く可能性があるので留意しましょう。
事前に意味情報の受け取り方を想定し、自分達が示したい方向性から逸脱していないか確認することが大切です。

方針の共有(制度、ガイドライン)

組織の存在意義を明確にすると、次は具体的な方針の共有になります。

存在意義は協力者を増やす包括的な枠組みですが、顧客への対応や新人教育についてなど、個別具体の事象に対応するには抽象度が高すぎます。
また後述しますが、当事者から相手に働きかける際の手続き(マニュアルは労務手続きやシステムの操作についてなど)を取りまとめるには有効なのですが、相手から要請がある場合(顧客に相対する場合や発生頻度が少ないトラブルなど)の対応では、予見しうる全てのパターンに対してマニュアルを作成するには限界があります。

このような事態に適切に対処するために、社内体制を方向づける為の制度や、領域毎の対応方針を明示するガイドラインが必要になります。
特にガイドラインがあることで、マニュアルに示しきれない総合的な方針について共有することができ、かつマニュアルのように必ず従わなければいけないものではなく、具体的な対応は当事者のスタッフに委ねられることで、自律分散型組織の特徴である自立性を損なわずに対応することが出来ます。

ここで大切なのは、スタッフの自立性を最優先と捉えているのではなく、顧客と直接相対するスタッフが顧客対応の詳細を判断した方が、顧客利益が高いと考えていることです。スタッフが個別の判断を用いて対応することで対応の質が落ちたりコンプライアンス違反に波及する可能性に着目するのではなく(品質管理やコンプライアンス等の課題に関しては、内部監査や外部監査によるディフェンスラインを用意するなど、分離して取り扱うことをお勧めします)、スタッフが目の前の顧客に対して、組織の存在意義を踏まえた上で、スタッフの文脈で最適な解決策を生み出すにはどのような組織体制であるべきかを考えてみると良いでしょう。

まとめ

自律的な組織を目指すにあたって、「自立」は自律の土台となる大切なテーマです。
本コラムが、課題を抱えながら組織を運営されている方にとっての一助となれば幸いです。

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