はじめに

前回のコラムでは、訪問看護師が営業活動を行う重要性について詳しく説明しました。
営業活動がどのような影響を及ぼすのかを理解することで、営業に対する不快感を軽減することができます。
今回は、訪問看護ステーションがどのように営業活動を進めるべきかについて探っていきます。
営業を行うにあたって重要な戦略立案の方法を、6つのステップで詳しく解説します。

今回のコラムに入る前に、是非前回のコラムもご覧ください。

経営支援コラム:訪問看護師が営業前に知るべき重要ポイント

営業戦略を立てるための6つのステップ

▪️営業戦略とは

営業戦略は事業戦略の一部であり、売上や利用者数といった事業運営のための具体的な目標を達成するための戦略を指します。
ただし、単に数値的な目標に着目するのではなく、その達成過程に関連する事項も戦略に含まれます。
これらが事業戦略と深く結びついているため、営業戦略の策定は重要な活動であることが理解できます。

▪️どのように営業戦略を策定すれば良いのか?

営業戦略を策定する際にはフレームワークの活用が効果的だと言われています。
明確な枠組みがない状態で戦略を策定しようとすると、重要な視点が見落とされる可能性があり、結果として効果的な戦略が形成されないことが予想されます。

また、戦略の策定に時間がかかりすぎると、その実行が遅れる可能性があります。
これらの理由から、フレームワークの活用は営業戦略策定において有効とされています。

営業戦略に関するフレームワークは複数存在し、どれを活用するかによって視点が偏る可能性があります。
そのため効果的な営業戦略を策定するには、複数のフレームワークを組み合わせて活用することが推奨されています。
どのフレームワークを活用するかは、策定する時の事業所の状況に応じて選択することになります。
「でも何を使用すれば良いのだろうか?」と迷う方のために、具体的な例とともに2つのフレームワークを紹介します。

▪️5W1H(フレームワーク)

情報伝達・マーケティング戦略・商品開発などに深く関連するフレームワークです。
訪問看護ステーションで営業戦略を策定する際にも有効に活用できると考えられます。
通常、以下の順序で改善点を見つけ、戦略の策定や再構築を行います。

  1. When(いつ)
  2. Where(どこで)
  3. Who(誰が)
  4. What(何を)
  5. Why(なぜ)
  6. How(どのように)

フレームワークを活用する際、順番に固執したり、どの視点で用いるべきか理解が難しい場合もあると思います。
そこで、私が実際に営業戦略を立案する際の6つのステップをご紹介します。

  1. 営業活動の目的「目標の設定」(Why)
  2. 効果的なタイミング「機会の選定」(When)
  3. 活動の場所「場所の設定」(Where)
  4. ターゲット選定「対象者の選定」(Who)
  5. 提供価値の明確化「提案できる価値の明確化」(What)
  6. コミュニケーション方法「コミュニケーション手段の選定」(How)

ステップ1:営業活動の目的「目標の設定」(Why)

営業戦略を策定する際、売上や新規利用者の獲得だけを追求すると本質的な目標を見失う可能性があります。
「私たちがどのような事業所運営を目指しているのか」「どのような事業所にしたいのか」という事業所の目標に立ち返り、それに向けた営業活動が重要となります。

また、チーム全体で営業を行う姿勢を共有することも大切です。
共通の目標に向かう統一された姿勢は、行動の効率化、営業の属人化防止、知識の蓄積、スタッフの教育に寄与します。
このような取り組みを通じてスタッフは営業を行う理由を自覚し、営業先との関わり方にも変化が生じるでしょう。
その結果、自然と売上の向上や新規利用者の獲得に繋がっていきます。

ステップ2:効果的なタイミング「機会の選定」(When)

営業を行う期間や間隔の選定は、非常に重要な観点となります。
一度きりの営業や継続的なアプローチが行われない場合、その効果は最大限に発揮されません。
数年に一度しか会わない親戚と会話をするのと同じように、期間を空けてしまうと関係性の構築が難しくなります。
そのため、定期的なコミュニケーションや適切な期間を空けてからの再訪問の日程調整は重要です。

また、月次スケジュールや1日のスケジュールの中で自分自身や顧客が忙しくない時間帯を選び、営業を行うことで落ち着いて会話をすることが可能となり、有意義な時間を過ごすことができます。

ステップ3:活動の場所「場所の設定」(Where)

営業を行うエリアの選定については渋滞が発生しやすい道路情報などを考慮に入れ、事業所や待機場所から利用者の自宅まで何分かかるのかを想定した上で決定します。

ステップ4:ターゲット選定「対象者の選定」(Who)

訪問看護ステーションの営業先は複数存在しており、主な営業先としては下記が挙げられます。

  1. 病院
  2. 訪問診療
  3. 障害相談支援事業所、基幹センター
  4. 居宅介護支援事業所
  5. 訪問看護事業所
  6. 各種施設

これらの対象から事業所の状況を踏まえて優先順位を決定し、営業先をリストアップします。
可能な限り多くの関係者と関わりを持つことが望ましいですが、日々の訪問業務もあり、営業に割ける時間や余力も事業所の状況によって異なります。

  1. 事業所の予備能力
  2. 医療と介護の比率
  3. スタッフの専門性
  4. 新たな関係性の構築
  5. 既存の関係者との関係性の強化
  6. 前回の営業時の反応
  7. 事業所の目標

これらの視点を考慮しつつ、効率的に営業を行うための営業先選定を行います。

ステップ5:提供価値の明確化「提案できる価値の明確化」(What)

対話の中で相手のニーズを引き出し、それに対する解決策を提案できると理想的です。
しかし、これは高度なスキルが必要となるため、基本的には事前の準備が大切です。
相手がどのようなニーズを持ち、どの点で悩みがあるかを事前に検討し、それに対する対策を準備しましょう。
事前準備を行うことで形骸化した営業ではなく、自社の強みをまとめたパンフレットの作成や営業先が抱える可能性のある問題を具体的な事例を用いて説明し、解決策を示すことができます。
これにより、双方にとって有意義な情報交換の時間となります。

また、その場で答えられない質問などがあった場合は、一旦持ち帰り、後日電話で回答するという方法もあります。
学びの機会を提供いただいたり、貴重な時間を割いていただいたことに対する感謝の気持ちも忘れずに伝えましょう。

ステップ6:コミュニケーション方法「コミュニケーション手段の選定」(How)

リストアップした営業先に合わせてコミュニケーション方法の選定を行います。
訪問看護業界で主な営業方法として考えられるのは以下の4つです。

  1. 直接営業(アポイントメント・飛び込み)
  2. 電話営業
  3. メール・FAX営業
  4. 勉強会・イベント・懇親会の参加や開催

基本的には直接営業先に訪問する形となりますが、勉強会やイベントの開催を計画する際には事業所への招待や別途会場を借りることで、集中的な時間を確保することが可能です。
これにより、通常とは異なる視点から相手を理解し、より深い関係性を築く機会を得ることができます。

また、新たな関係性を構築するためには、アポイントメントを設定して直接訪問したり、勉強会やイベントに招待することで事業所の存在を理解してもらい、関係性を構築するきっかけを作ることができます。
一方、既存の関係性を強化するためには、訪問の合間に顔を見せに行ったり、報告書を手渡しに行く際に情報共有を行うなどの方法が考えられます。

▪️Tows分析(フレームワーク)を掛け合わせる

5W1Hで抽出した要素をより具体的な営業戦略に落とし込むために、TOWS分析を活用することは非常に有効です。
TOWS分析は、事業所の強み(Strengths)や弱み(Weaknesses)、そして外部環境から見た機会(Opportunities)や脅威(Threats)を組み合わせて戦略を検討する手法です。

例えば、小児科の経験が豊富なスタッフが在籍しているという事業所の強みと、近隣に小児科病床を持つ病院が存在するという機会を組み合わせて考えてみましょう。
この情報を基に、訪問看護ステーションがどの程度の小児看護を提供できるのかを理解してもらうために、共同勉強会を開催するという具体的な戦略を立てることができます。

TOWS分析を行うことで、自社の強みを活かしつつ、外部環境の機会を最大限に利用する戦略を考えることができます。
同時に、自社の弱みや外部環境の脅威に対する対策も考えることができます。
このようにTOWS分析を活用することで、営業戦略はより具体的で実効性のあるものになります。

まとめ

今回の記事では、5W1HとTOWS分析を組み合わせた営業戦略の立案方法を紹介しました。
このコラムでは、戦略を立案するのに必要なステップを詳しく解説しています。
今回ご紹介したフレームワーク以外にも、さまざまな有用な手法が存在します。
PDCAサイクルを活用し、常に状況に合わせて戦略を見直し、修正していくことが重要です。

次回のコラムでは、営業先の病院・居宅介護事業所等の検索方法や、優先順位の付け方など、より実用的な内容に絞ってご紹介させて頂きます。
楽しみにお待ちくださいませ。