はじめに

今回のコラムでは、コンフリクトマネジメントに焦点を当てて説明をしていきます。
前回のコラムでは、訪問看護の経営と現場の対立について知っておくべきことについて掲載しました。
ぜひ、前回のコラムも一度ご覧ください。

経営支援コラム:訪問看護の経営と現場の対立について知っておくべきこと

コンフリクトとコンフリクトマネジメントについて

▪️コンフリクトとは

コンフリクトとは、心理学辞典で「複数の相互排他の要求(欲求)が同じ強度をもって同時に存在し、どの要求に応じた行動をとるかの選択ができずにいる状態」を指す言葉で、衝突や対立を意味します。
対立が発生するのは自然なことであり、対立自体を恐れる必要はありません。
むしろその対立を成長の機会と捉え、双方にとって良い解決に繋げることで、協力体制を構築することができます。
ここでコンフリクトマネジメントの役割が登場します。

▪️コンフリクトマネジメントとは

コンフリクトマネジメントは、組織内で発生した衝突や対立を成長の機会と捉え、双方にとって良い解決に繋げることによって組織に対しても好循環をもたらすマネジメント手法です。
コンフリクトマネジメントを取り入れることで得られるメリットやデメリットをご紹介します。

▪️コンフリクトマネジメントのメリット

心理的安全性をもたらす

「経営者が言うことは絶対。」「管理者の言うことには逆らえない。」といった環境だと自由に意見を出すことが難しく、対立を生みやすくなります。
対立に対して肯定的に捉える環境であれば、所属するメンバーも意見が出せ、組織の成長に繋がります。

アイデアを生みやすい

自分以外の視点や価値観を知ることで、新たなアイデアや考え方が生まれやすい環境づくりに繋げることができます。

組織改革のタイミング

起こるべくして起こった対立については、大きな変化をもたらす組織改革のタイミングの機会となります。
通常は組織の変革には構成員に変革の意義を感じてもらう必要があり、多大な労力を伴いますが、コンフリクトが発生している状態は、構成員の変革に対するニーズが高まっている状態とも言えます。
こういったニーズを的確に拾い上げ、メンバーの意見を取りまとめて合理的な方向に導くのも、経営者や管理者に求められているリーダーシップと言えます。

▪️コンフリクトマネジメントのデメリット

関係性悪化への拍車

「衝突や対立を成長の機会と捉え、双方にとって良い解決に繋げること。」といった前提条件が無い状態でコンフリクトを無理に解決しようとすると、さらなる関係性の悪化に繋がります。
マネジメント層は現場に対して「双方にとって利のある、建設的な話し合いにしたいこと」をしっかり伝え、その上で対話を進めるようにしましょう。

▪️コンフリクトの要因

コンフリクトの要因は3つに分類されます。

条件の対立

「経営と現場」「管理者とスタッフ」のように立場や役割の違う者同士が仕事の方針などをめぐって対立するものを指します。
コストやクオリティ、利益やホスピタリティなど、何に重きを置くかが異なることが要因として挙げられます。
ただし、条件の対立の多くが条件同士をトレードオフ(交換不可)な関係性であると認識しているのに対し、実際は収益性(利益)とサービスの質(ホスピタリティ)は両立可能であったりします。
そのため、対立構造を作らないことが大切です。

認知の対立

同じ物事に取り組んでいても、人によって考え方は様々です。
例えば「体調確認」という言葉を使っていたとしても、人によって体調確認の範囲は異なることなどが挙げられます。
建設的な対話に繋げるためにも、言葉や物事の定義を統一するように心掛けましょう。

感情の対立

気持ちが要因の対立です。
条件の対立や認知の対立が継続することで発生する対立であり、解決するのが非常に困難になります。
コンフリクトマネジメントを活用することで感情の対立が悪化しないように予防することが望ましいです。

コンフリクト要因の併発

宍戸拓人氏は、著書『コンフリクト・マネジメント・ フレームワーク ──近年のコンフリクト研究に対する文献研究より』において

De Dreu and Weingart(2003)と De Wit, Greer and Jehn(2012)のメタ分析によって,多くの職場や集団において異なる種類のコンフリクトが併発しているという事実が示唆された。すなわち,成員がコンフリクトに対処しようとする際に,単一の種類のコンフリクトのみが生じているという場合は稀なのである。1)

と述べており、大半の場合は複数の要因が併発していると考えられます。
例えば「経営と現場」といった条件の対立が発生している状況では、認知の対立についても検討しなくてはならず、医療職特有の思考や価値観について認識しておくことが大切です。

コンフリクトマネジメントを活用することで、組織内の対立を適切に管理し、問題解決や意思決定のプロセスを円滑に進めることができます。
また、異なる視点や価値観を受け入れることで、新たなアイデアや創造性を育む環境を作り出すことができます。
ただし前提条件の理解が不十分であれば、コンフリクトマネジメントは関係性の悪化に繋がることもあるため、注意が必要です。

コンフリクトマネジメントの方法

前回のコラムでお話しした通り、対立が発生してしまった場合の対処法としてコンフリクトマネジメントは有用です。
コンフリクトマネジメントの方法は5つのステップで行うことができますので、ご紹介していきます。

▪️①コンフリクトマネジメントのメリットを共有する

事前準備として、コンフリクトマネジメントのメリットを共有することが重要です。
対立に焦点を当てるのではなく、組織が変わるチャンスと捉え、建設的に話を進めるためのマインドセットが必要です。
また、協力して取り組むことの重要性も共有しましょう。
前提の理解ができているかどうかで話し合いの質が大きく変わるので、丁寧に行いましょう。

▪️②意見交換の場を設定する

お互いが安心して自分の意見を伝えられる環境を整え、意見交換を行いましょう。
相手を否定したり、パワーバランスが傾いて意見が抑圧されるような状況では話し合いが行えないので、心理的安全性の確保に努めましょう。
建設的な話し合いが行えないと判断できる場合は、仲介者を設定することで客観的な視点を入れましょう。

▪️③コンフリクトの要因を明確にする

意見交換をもとに、相違や一致を確認しながら、なぜ対立が発生してしまったのかを客観的に検討し、コンフリクトの要因を明確にしましょう。
コンフリクトの要因は複数存在することが多いため、一つに絞らず、考えられる要因を挙げていきます。
また、この時に”誰かのせいにする”など人に焦点を当てると根本的な解決に至らず、対立が悪化する原因になります。
業務改善や再発防止のための話し合いにしましょう。

▪️④解決策を一緒に導き出す

発生しているコンフリクトに対して、さまざまな角度から解決策を検討しましょう。
建設的な解決策を導き出すため、客観的な視点で物事に焦点を当てて検討します。
双方にとって良い結果となるように解決策を導き出しましょう。

▪️⑤協力して改善に取り組む

どちらか一方だけで改善に取り組んでも、導き出した解決策が上手く機能しないことが多いです。
新たなコンフリクトを生み出す火種になる可能性もあります。
そのような場合は、意見交換や話し合いの場に参加すべきメンバーが不在のまま意思決定してしまっているケースが見られます。
意思決定の内容が多くのメンバーに影響する場合は、メンバー不在のまま勝手に物事を進め過ぎず、改善プロセスを丁寧に共有することが大切です。協力して取り組むプロセスの中で、組織としての力も向上していくでしょう。

以上の5つのステップを踏んで、コンフリクトマネジメントを実践しましょう。
対立を乗り越え、組織の成長につなげることができるよう、効果的なコミュニケーションを心がけることが大切です。
組織全体で協力し、建設的な解決策を導き出すことが、対立を解消しより良い環境を作り出すための鍵となります。

まとめ

訪問看護ステーション運営に役立つ コンフリクトマネジメントについてご紹介しました。
これらの取り組みを通じて、訪問看護ステーションの運営が円滑になり、経営者や管理者の悩みを軽減することができるでしょう。

次回は、対立が発生する看護師特有の価値観やコミュニケーションについて、またコンフリクトマネジメントの方法とFOOTAGEで実際に行っている施策の紹介などを行う予定です。

参考文献:
1)宍戸拓人著.コンフリクト・マネジメント・ フレームワーク ──近年のコンフリクト研究に対する文献研究より.日本労働研究雑誌,2020年,7月号,(No.720),P40