今後訪問看護事業所の開業を検討している皆様へ、事業計画の作成について解説していきます。

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1.訪問看護事業所の事業計画とは

▪️事業計画とは

事業計画とは、企業が将来を見据えて設定した目的や目標、及びその実現のための具体的な戦略や行動をまとめた文書です。
事業を担うスタッフや金融機関、投資家等の関わるすべてのステークホルダーに向けて、企業の目的や進むべき方向性を示すものとなります。

▪️事業計画書を作成する目的とは

事業計画が必要な理由として、以下の3つが挙げられます。

方向性の明確化

事業計画を作成することにより、社会に提供する価値や目標ビジョンを明確にすることができます。この計画によって事業の方向性が提供したい価値と事業アイデアが一致しているか、また、継続的に明確な方向性はスタッフ全員が事業のビジョンを見据え、集中した行動をとるために役立ちます。

リスクの軽減

市場の調査や事前分析を行うことで、将来的なリスクを早期に察知し、その対策を立てることができます。そして、事業計画書は事業の進捗管理や経営判断の参考​​資料としてもこれにより事業運営のリスク軽減させることが可能となります。

資金調達

資金調達は事業を進める上で欠かせない要素です。
事業計画書には、将来予想される収益
の根拠や計画を詳細に記載することで、金融機関や投資家からの信用を得ることに繋がります。
融資の際は返済能力、出資の際はビジネスモデルの魅力や収益性、補助金を求める際は制度の要件をしっかりと計画し、それに基づいて計画書を作成することが求められます

  • 融資・・・事業計画書の内容を実行して、利息を含め、借りたお金が返済できることがポイントになります。そのために、売上や費用に対する根拠をしっかりと記載することが大切です。
    ※以前は中小企業経営者に対して連帯保証を取ることが慣例でしたが、政府が2022年をスタートアップ創出元年と位置付けたことによって、創業間もない企業でも経営者保証無しで融資を受けることが可能となっていますので、スタートアップ創出促進保証制度等をお調べください。
  • 出資・・・優れたビジネスモデルで高い収益力があり、出資者への将来的なリターンが大きいのかというポイントを見られます。計画書の作成にあたっても、事業の成長性やその根拠の確からしさを記載することが大切です。将来的に株主配当を出したり、上場を視野に入れた事業展開、事業売却を計画している場合は、選択肢に入るでしょう。
  • 補助金等・・・自治体や実施機関によって、制度の要件があるので、要件に沿って計画書を作成する必要があります。
    実施される補助金制度の主旨を踏まえ、なぜその事業に取り組むか、将来どのような効果が得られるか、といった視点でストーリー性をもって記載することが大切です。訪問看護で活用可能な補助金の例は改めてご紹介します。

事業計画書の内容は同じであっても、伝える相手によって最適な記載方法が異なることもあります。
そのため、相手の立場や要望を考慮しながら計画を記載することが重要です。

▪️訪問看護事業所における事業計画の重要性

訪問看護事業所において、事業計画の作成は非常に重要です。
訪問看護は患者様の多様なニーズに対応しなくてはならない業種であり、サービス内容、対象となる地域、必要な人員数など、多くの要点を計画段階で明確にしておくことが求められます。
事業の優先項目をはっきりと明文化することは、サービスの品質向上、利益増加、そして事業の持続可能性の向上に繋がります。

2.訪問看護事業計画の作成4STEP

訪問看護事業計画書の作成において4つの主要なSTEPについて解説します。
これらのステップを理解し、段階的に計画を構築することで、計画から実行への移行時に失敗を避け、事業所の安定的な運営を実現するための基盤を築くことができます。

STEP①:事業概要の作成

訪問看護事業計画書作成の最初のステップは、事業概要を明確にすることです。
このステップには、経営者の経歴、起業の動機、ビジョン、そして目標が含まれます。

経営者の経歴等

経営者が持っているスキルや過去の経験を明示することで、事業の信頼性を高める事に繋がる、重要な項目です。

起業の動機

何故、訪問看護事業を始めたいのかといった起業の動機を具体的に説明します。
起業の動機は、事業の基盤となり、提供する価値や追求するビジョンに紐づくため、事業計画書作成の重要なポイントです。
この動機が明確であればあるほど、スタッフや関係者もそのビジョンに共感しやすくなります。訪問看護事業所を運営していく中で、壁にぶつかった時に立ち返るものになるので丁寧に言語化します。
自分だけで言語化するのが難しい場合は、身近な方に壁打ちさせて貰うのも良いかもしれません。

ビジョン・目標

訪問看護事業を通して目指す未来とそのために何を達成したいのかを具体的に設定します。
「高ければ高いほど良い」という考えもありますし、「達成可能なものを設定すべき」という考えもあります。
ただし、成功体験を積むことは企業にとっても、人にとっても成長に繋がるため、大きな理想を掲げる際は、より現実的な目標も併せて設定することをお勧めします。
目標を立案する際は、SMARTの法則などのフレームワークを活用すると設定しやすいです。
経営者の背景知識と経験、明確な起業動機、そこから導き出された達成すべきビジョンと目標を整理・明確化することで、事業の基盤となる事業概要が作成されます。

STEP②:事業コンセプトの作成

「事業の内容」は訪問看護事業計画書の中心的な要素です。
この段階で取り組むべき内容は、事業コンセプトの明確化、現状分析、サービス提供に関する販売計画、そして運営体制や必要な人員の実施体制・人員計画があります。

事業コンセプト

事業コンセプトは、起業のアイディアを具体的なビジネス構想に落とし込んだものです。
「誰に」「何を」「どのように」といった視点から明確にし、何を提供するのか、どのような価値を顧客にもたらすのか、事業の全体像を明確に捉えます。

  • サービス、商品の内容・・・具体的にどんな訪問看護サービスを提供するのかを詳細に記述します。自費サービスを提供する場合、保険適用のサービスと併せて明記します。
  • ターゲット顧客・・・訪問看護サービスの主な利用者層を特定します。人口動態、人口密度、高齢者の割合、性別、居住地域、価値観やライフスタイルなどを考慮し、ターゲットを明確にします。
  • サービス、商品の提供方法、仕組み・・・サービスの提供手法や流れを簡潔に説明します。詳細や手続きなどは図や表を用いてわかりやすく整理することが推奨されます。訪問看護は保険業務の一部として、サービスが完了し、卒業する利用者も考慮に入れることが大切です。社会全体でのリソースの有効活用を目指し、適切なサービスを適切な場所で提供することが重要です。

現状分析

訪問看護事業の成功には、市場や競合の詳細な理解が不可欠です。
現状を分析する際、SWOT分析などの手法を使用することで、効果的な分析が可能となります。

  • 業界トレンド、市場規模・・・訪問看護の市場環境を理解するため、国の公式統計や業界団体のデータを参考にすることが有効です。また、具体的な地域の事業者から情報を得ることで、市場や業界の現状を詳細に把握することができます。
  • 競合の状況・・・競合他社が提供しているサービス内容やその特色をしっかりと確認します。事業所を新たに開設する場合、目標とするエリア内の競合事業所数、各事業所のサービス内容、そしてその地域での役割や位置付けなどを調査します。
  • 自社、事業の強み、優位性・・・所属するスタッフの専門知識や経験、24時間365日の対応体制など、自社の独自の強みや優位点を明確にします。訪問看護以外の事業を展開している場合、その事業と訪問看護との連携や相乗効果も考慮します。

販売計画

訪問看護サービスの提供方法や規模、そして収益予測についての詳細な計画を立てます。

  • 販売計画・・・訪問看護は保険事業としての特性上、利用者単価は殆ど固定されています。したがって、現状分析から得られたデータを基に1日の平均利用者数を導き出します。そして「1日の平均利用者数 × 平均利用者単価 × 年間の営業日数」という計算式を活用すると予測収益を算出しやすいです。初期の半年間は集客に時間がかかると予測されるため、この点を考慮して計画を組むことが重要です。最低でも3ヵ年分の計画を作成します。
  • 販売促進、集客方法・・・新しい訪問看護事業所の開設にあたり、地域内での知名度を高める戦略が必要です。顧客からの直接依頼が多くはないといった訪問看護の特性上、BtoBの活動を重視することが必要です。このため、関連機関との信頼関係を構築し、ダイレクトな営業活動を積極的に行うことが推奨されます。

店舗・施設計画

事業所を開設するエリアの潜在的な顧客数の予測や事業所の概要などを詳細に計画に取り込みます。
就業する職員の特性や提供するサービスによって、事業所に求める機能は異なるため、事業所の快適性を高めることで採用における優位性を確保したり、立地に拘ることで顧客からの視認性を向上したり、駐車場との動線の最適化を図ったり、事業所の機能に意図を盛り込みます。

実施体制・人員計画

訪問看護の運営において、必要となるスタッフの数や役割、さらには管理体制を具体的にまとめます。
訪問看護事業所の運営には、常勤の看護師を最低2.5人確保するという基準が存在します。ただし、この最低人員だけで運営が可能かというと、必ずしもそうではありません。
実際に、約88%の訪問看護事業所が24時間の対応体制を取っているものの、オンコールで即座に対応可能なスタッフが4人未満では、スタッフの過労が懸念され、事業の継続が難しくなる可能性が高まります。だからといって、24時間体制を採用しない訪問看護事業所は、地域のニーズに十分に応えるのが難しくなるでしょう。
そのため最低でもオンコール対応が可能なスタッフを4人確保することが望ましいですが、資金との兼ね合いもあるため、それらを勘案して計画を立案します。
(出典)厚生労働省ホームページ 中央社会保険医療協議会 総会(第500回)議事次第 在宅(その5 )について 24時間対応体制加算の届出と利用者数の推移

職員のライフステージの変化に対する対応や休日の確保、キャリアアップ、処遇改善といった就業環境の改善と、事業所の規模拡大や利益増加を視野に入れた3ヵ年分の人員計画を作成します。

STEP③:数値計画の作成

数値計画の策定では、ビジョンや目標を明確な数値で示す作業を進めます。
投資と収益のバランスを適切に計画し、その結果を具体的な数値で示すことが重要です。
計画の具体性が高いほど、現実の実行可能性も高まります。

投資・調達計画

訪問看護事業を始めるにあたり、設備投資や運転資金の必要額を明確に計画します。
訪問看護事業所の立ち上げの際には、運転資金も考慮して、合計で約2000万円の資金を準備することを推奨します。

  • 設備費用・・・オフィス用品やPC、ネットワーク設備、ウェブサイトの開設コストなど、事業を運営するために一時的に必要となる初期投資
  • 運転資金・・・人件費、宣伝・広告費、車両リース料、家賃、納税額など、日常の事業活動に必要な資金

損益計画

損益計画では、事業に取り組む結果としての売上高、利益、返済可能性などを明確にします。
資金を調達する際、最初に担当者が確認するのはこの損益計画となります。
訪問看護に関して、原価の計算方法は法人ごとに異なり、人的資本サービスとして訪問看護を評価する際、人件費を原価と見なす考え方もあります。
原価として取り扱わない場合、以下のように損益計画を立案します。

  • 売上高=売上総利益
  • 売上総利益-販管費=営業利益
  • 営業利益-営業外損益=経常利益
  • 経常利益-法人税等=純利益
  • 返済可能額
  • 借入金返済額

※損益計画とキャッシュフロー計画は異なるため、キャッシュフロー計画も立案することを推奨します。

STEP④:実行計画の作成

実行計画では、事業計画を具体的な行動へと落とし込むプロセスを進めます。
具体的に行うべき事項を列挙し、それらの実施期限を設定します。
文章だけでは伝えきれない部分は、チャートや図を利用して可視化するとわかりやすくなります。

<作成例>

3.訪問看護事業所の事業計画作成に関するまとめ

この記事では、訪問看護事業計画の重要性から、具体的な4STEPに分けた作成方法までを解説しました。
訪問看護事業所の事業計画は、事業の質と持続性を確保するための大切なガイドラインとなり、地域社会への貢献も視野に入れるべき重要な要素です。
訪問看護の開業を考えている方にとって、この情報が参考になれば幸いです。

最後になりますが、
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