はじめに

訪問看護ステーションの開設や運営を検討されている皆さまへ。
本コラムでは、開業準備・経営戦略の柱となる「事業計画書」の作り方を、4つのステップで解説します。
事業計画書は単なる申請資料や融資のための書類ではありません。
開設準備、経営の見通し、事業の拡大など、そのすべてにおいて「羅針盤」となる実践的な戦略書です。

訪問看護という仕事は、制度・地域ニーズ・人材環境など、外部環境の変化に大きく影響されます。
だからこそ、事業計画は「一度作って終わり」ではなく、何度も見直し、つくり直しながら進めていくものです。

計画書を通して「自分が何を大切にしたいのか」「どんな地域に、どんな看護を届けたいのか」という本質的な想いを言語化しておくことは、日々の意思決定において大きな支えになります。
さらにその想いは、チームの方向性を定め、スタッフとの目標共有を促す共通言語にもなります。

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訪問看護事業所における事業計画書とは?

▪️事業計画書とは

訪問看護ステーションの開業や運営において、事業計画書は“最初の一歩”であり、継続のカギを握る戦略ツールです。開業者自身が将来のビジョンを整理し、具体的な目標・戦略・アクションプランを体系的に言語化したものです。

また、事業計画書は、経営者自身にとっての羅針盤であると同時に、以下のようなあらゆるステークホルダーに向けた「説明責任のための文書」としても重要です。

  • 金融機関(融資審査・返済計画の根拠提示)
  • 投資家(ビジネスモデルの将来性とリターンの説明)
  • スタッフ(目指すビジョンと働く意義の共有)
  • 地域関係者(地域課題への貢献性の提示)

▪️事業計画書を作成する目的とは

事業計画書が必要な理由として、以下の3つが挙げられます。

方向性の明確化

事業計画書を作成することにより、社会に提供したい価値や組織として目指すビジョンを明確にすることができます。この「言語化された方向性」があるからこそ、スタッフ全員が同じ目的地に向かって一丸となって進むことができ、事業のビジョンを見据え、集中した行動を継続的にとることに繋がります。

リスクの軽減

市場動向・制度変更・競合状況など、事前のリサーチを通じて、将来起こり得るリスクを想定できます。そして、その対策を事前に講じておくことで、意思決定のスピードと質が格段に向上し、経営の安定性にもつながります。また、事業計画書は進捗管理や業績評価の基準としても活用でき、現場の改善にも役立ちます。

資金調達

資金調達は事業を進める上で欠かせない要素です。事業計画書に将来予想される収益の根拠や、計画を詳細に記載することで、金融機関や投資家からの信用を得ることに繋がります。融資の際は返済能力、出資の際はビジネスモデルの魅力や収益性、補助金を求める際は、制度の要件をしっかりと把握した上で計画し、作成することが求められます
各ポイントについては、以下にまとめています。

  • 融資・・・事業計画書の内容を実行して、利息を含め、借りたお金が返済できることがポイントになります。そのために、売上や費用に対する根拠をしっかりと記載することが大切です。
    ※以前は中小企業経営者に対して連帯保証を取ることが慣例でしたが、政府が2022年をスタートアップ創出元年と位置付けたことによって、創業間もない企業でも経営者保証無しで融資を受けられる可能がありますので、スタートアップ創出促進保証制度等をお調べください。
  • 出資・・・優れたビジネスモデルで高い収益力があり、出資者への将来的なリターンが大きいのかというポイントを見られます。計画書の作成にあたっても、事業の成長性やその根拠の確からしさを記載することが大切です。将来的に株主配当を出したり、上場を視野に入れた事業展開、事業売却を計画している場合は、出資といった選択肢も視野に入るでしょう。
  • 補助金等・・・自治体や実施機関によって、制度の要件があるので、要件に沿って計画書を作成する必要があります。実施される補助金制度の主旨を踏まえ、なぜその事業に取り組むか、将来どのような効果が得られるかといった視点でストーリー性をもって記載することが大切です。訪問看護で活用可能な補助金の例は改めてご紹介します。

事業計画書の内容は同じであっても、「誰に伝えるか」によって伝達の際に強調ポイントは変える必要があります。金融機関には「収益の裏付け」、投資家には「成長可能性と市場優位性」、スタッフには「ビジョンと働きがい」、地域には「社会的意義と課題解決性」のように、合わせて調整することが必要です。伝わる計画書=選ばれる事業所と考え、創ることがコツです。

▪️訪問看護事業所における事業計画書の重要性

訪問看護は、医療依存度の高い利用者さんへの対応、地域包括ケアとの連携、24時間対応体制の整備などが求められる、複雑で柔軟性の高い運営が必要な領域です。
そのため、訪問看護ステーションの開設・運営においては、事業計画書に「どのようなサービスを、どの地域で、どのような体制で提供するのか。さらに、その体制をどのように構築・維持していくのか。」といった運営の根幹を、計画段階から明確に言語化しておくことが大切です。

下記に一例を挙げると

  • 対象地域の選定とニーズ把握(地域の人口動態、競合事業所の状況、高齢化率などの地域特性)
  • サービス内容の明確化(医療依存度への対応、自費サービスの有無、専門領域の特化方針など)
  • 人員体制と24時間対応の有(法令基準の遵守、オンコール体制の有無、採用と定着を見据えた人員戦略)

これらの情報などを数値とストーリーの両面から整理した事業計画書は、金融機関や関係機関に対する説得力を高めるだけでなく、スタッフの共感や方向性の統一にも大きく寄与します。
さらに、経営判断や日々の優先順位設定においても、明文化された計画は「軸」となり、サービスの品質向上・収益性の確保・持続可能な運営体制の構築に直結します。

訪問看護事業計画の作成4STEP

訪問看護事業計画書の作成において4つの主要なSTEPについて解説します。
これらのステップを押さえることで、開設や運営の精度が高まり、失敗リスクの回避や組織としての安定運営を実現するための土台が築かれます。

STEP①:事業概要の作成

訪問看護事業計画の第一歩は「事業概要」の明確化です。
ここでは、創業者自身の背景やビジョン、そして起業の原点となる想いを言語化していきます。

経営者の経歴等

経営者のスキル・保有資格・これまでのキャリアは、事業の信頼性や再現性を裏付ける材料にもなります。
医療・看護・マネジメントなど、事業に活かせる経験を具体的に記載しましょう。

起業の動機

何故、訪問看護事業を始めたいのかといった起業の動機を具体的に説明します。起業の動機は、事業の基盤となり、提供する価値や追求するビジョンに紐づくため、事業計画書作成の重要なポイントです。この動機が明確であればあるほど、スタッフや関係者から共感を生むストーリーとなり、苦境に立ったときの“拠り所”にもなります。訪問看護事業所を運営していく中で、壁にぶつかった時に立ち返るものになるので丁寧に言語化します。自分だけで言語化するのが難しい場合は、身近な方に壁打ちさせて貰うのも良いかもしれません。

ビジョン・目標

訪問看護事業を通して目指す未来とそのために何を達成したいのかを具体的に設定します。「目標が高ければ高いほど良い」という考えもありますし、「達成可能なものを設定すべき」という考えもあります。
ただし、成功体験を積むことは企業にとっても、人にとっても成長に繋がるため、大きな理想を掲げる際は、より現実的な目標も併せて設定することをお勧めします。高すぎず低すぎない、実行可能性と挑戦性を両立した目標設定が理想です。目標を立案する際は、PEST分析などのフレームワークを活用すると設定しやすいです。経営者の背景知識と経験、明確な起業動機、そこから導き出された達成すべきビジョンと目標を整理・明確化することで、事業の基盤となる事業概要が作成されます。

STEP②:事業コンセプトの作成

訪問看護事業の核となる「事業コンセプト」を明確にし、実行計画の骨格を設計します。
この段階で取り組むべき内容は、事業コンセプトの明確化、現状分析、サービス提供に関する販売計画、そして運営体制や必要な人員の実施体制・人員計画があります。

事業コンセプト

事業コンセプトは、起業のアイディアを具体的なビジネス構想に落とし込んだものです。
「誰に」「何を」「どのように」といった視点から明確にし、何を提供するのか、どのような価値を顧客にもたらすのか、事業の全体像を明確に捉えます。

  • サービス、商品の内容・・・具体的にどんな訪問看護サービスを提供するのかを詳細に記述します。自費サービスを提供する場合、保険適用のサービスと併せて明記します。訪問看護で実際に提供するサービス内容を含め、訪問看護事業の概要を把握することでどんな訪問看護サービスを提供するのかをイメージすることが可能です。
  • ターゲット顧客・・・訪問看護で行うケア内容や利用される方の疾病等を把握することで、訪問看護サービスの主な利用者層を特定します。また、開設エリアの人口動態、人口密度、高齢者の割合、性別、居住地域、価値観やライフスタイルなどを調査し、ターゲットを明確にします。
  • サービス、商品の提供方法、仕組み・・・サービスの提供手法や流れを簡潔に説明します。詳細や手続きなどは図や表を用いてわかりやすく整理することが推奨されます。訪問看護は保険業務の一部として、サービスが完了し、卒業する利用者も考慮に入れることが大切です。社会全体でのリソースの有効活用を目指し、適切なサービスを適切な場所で提供することが重要です。
    ・医療保険、介護保険の訪問時間や単価の違い
    ・保険サービス、自費サービスの違い
    ・助成金制度
    ・待機や遅番等を含めた営業時間内と時間外サービスの違い
    等も含めて、訪問看護サービスの提供方法や仕組みを把握し、明確にします。

現状分析

訪問看護事業の成功には、市場や競合の詳細理解が不可欠です。
現状を分析する際、SWOT分析などの手法を使用することで、効果的な分析が可能となります。

  • 業界トレンド、市場規模・・・訪問看護の市場環境を理解するため、国の公式統計や業界団体のデータを参考にすることが有効です。また、具体的な地域の事業者から情報を得ることで、市場や業界の現状を詳細に把握することができます。
  • 競合の状況・・・競合他社が提供しているサービス内容やその特色をしっかりと確認します。事業所を新たに開設する場合、目標とするエリア内の競合事業所数、各事業所のサービス内容、そしてその地域での役割や位置付けなどを調査します。
  • 自社、事業の強み、優位性・・・所属するスタッフの専門知識や経験、24時間365日の対応体制など、自社の独自の強みや優位点を明確にします。訪問看護以外の事業を展開している場合、その事業と訪問看護との連携や相乗効果も考慮します。

販売計画

訪問看護サービスの提供方法や規模、そして収益予測についての詳細な計画を立てます。

  • 販売計画・・・訪問看護は保険事業としての特性上、利用者単価は殆ど固定されています。したがって、現状分析から得られたデータを基に1日の平均利用者数を導き出します。そして「1日の平均利用者数 × 平均利用者単価 × 年間の営業日数」という計算式を活用すると予測収益を算出しやすいです。初期の半年間は集客に時間がかかると予測されるため、この点を考慮して計画を組むことが重要です。最低でも3ヵ年分の計画を作成します。
  • 販売促進、集客方法・・・新しい訪問看護事業所の開設にあたり、地域内での知名度を高める戦略が必要です。顧客からの直接依頼が多くはないといった訪問看護の特性上、BtoBの活動を重視することが必要です。このため、関連機関との信頼関係を構築し、ダイレクトな営業活動を積極的に行うことが推奨されます。

店舗・施設計画

事業所を開設するエリアの潜在的な顧客数の予測や事業所の概要などを詳細に計画に取り込みます。
就業する職員の特性や提供するサービスによって、事業所に求める機能は異なるため、事業所の快適性を高めることで採用における優位性を確保したり、立地に拘ることで顧客からの視認性を向上したり、駐車場との動線の最適化を図ったり、事業所の機能に意図を盛り込みます。

実施体制・人員計画

訪問看護の運営において、必要となるスタッフの数や役割、さらには管理体制を具体的にまとめます。
訪問看護事業所の運営には、常勤の看護師を最低2.5人確保するという基準が存在します。ただし、この最低人員だけで運営が可能かというと、必ずしもそうではありません。
実際に、約88%の訪問看護事業所が24時間の対応体制を取っているものの、オンコールで即座に対応可能なスタッフが4人未満では、スタッフの過労が懸念され、事業の継続が難しくなる可能性が高まります。だからといって、24時間体制を採用しない訪問看護事業所は、地域のニーズに十分に応えるのが難しくなるでしょう。
そのため最低でもオンコール対応が可能なスタッフを4人確保することが望ましいですが、資金との兼ね合いもあるため、それらを勘案して計画を立案します。
(出典)厚生労働省ホームページ 中央社会保険医療協議会 総会(第500回)議事次第 在宅(その5 )について 24時間対応体制加算の届出と利用者数の推移

職員のライフステージの変化に対する対応や休日の確保、キャリアアップ、処遇改善といった就業環境の改善と、事業所の規模拡大や利益増加を視野に入れた3ヵ年分の人員計画を作成します。

STEP③:数値計画の作成

数値計画の策定では、ビジョンや目標を明確な数値で示す作業を進めます。
投資と収益のバランスを適切に計画し、その結果を具体的な数値で示すことが重要です。
計画の具体性が高いほど、現実の実行可能性も高まります。

投資・調達計画

訪問看護事業を始めるにあたり、設備投資や運転資金の必要額を明確に計画します。
訪問看護事業所の立ち上げの際には、運転資金も考慮して、合計で約1,500〜2,000万円の資金を準備することを推奨します。

  • 設備費用・・・オフィス用品やPC、ネットワーク設備、ウェブサイトの開設コストなど、事業を運営するために一時的に必要となる初期投資
  • 運転資金・・・人件費、宣伝・広告費、車両リース料、家賃、納税額など、日常の事業活動に必要な資金

損益計画

損益計画では、事業に取り組む結果としての売上高、利益、返済可能性などを明確にします。
資金を調達する際、最初に担当者が確認するのはこの損益計画となります。
訪問看護に関して、原価の計算方法は法人ごとに異なり、人的資本サービスとして訪問看護を評価する際、人件費を原価と見なす考え方もあります。
原価として取り扱わない場合、以下のように損益計画を立案します。

  • 売上高=売上総利益
  • 売上総利益-販管費=営業利益
  • 営業利益-営業外損益=経常利益
  • 経常利益-法人税等=純利益
  • 返済可能額
  • 借入金返済額

損益計画だけでは、売上や利益の数値は把握できても、「どのように収益が生まれているのか」や「どのような条件を満たせば安定した収益が確保できるのか」といった、収益構造の全体像を捉えることは困難です。
そのため、損益計画とあわせて、収益予測(=サービス単価 × 稼働数 × 稼働日数)や人員配置・採用計画、販売管理費などを含めたシミュレーションを行うことを強く推奨します。
シミュレーションをあらかじめ明示しておくことで、事業計画の実現可能性を高めるとともに、金融機関や投資家、社内の関係者に対しても高い説得力を持たせることができます。

STEP④:実行計画の作成

実行計画では、事業計画を“実際の行動”へと落とし込むプロセスが求められます。
計画倒れで終わらせないためには、戦略や構想を「行動レベル」にまで具体化することが不可欠です。
まずは、実施すべきタスクを洗い出し、それぞれに対して「いつ」「誰が」「何を」「どのように実施するか」を明確にします。
そのうえで、文章だけでは把握しづらい内容は、Ganttチャート(ガントチャート)やスケジュール表などを活用して可視化することが有効です。
さらに、毎週・毎月のKPI(重要業績評価指標)を設定し、工程と進捗を定期的にレビューする体制を整えることで、実行計画の実現性と再現性を高めることができます。

<作成例>

訪問看護事業所の事業計画書作成に関するまとめ

今回のコラムでは、訪問看護事業所における事業計画書の重要性と、その作成方法について4つのステップに分けて解説しました。
事業計画書は、単なる資料ではなく、事業の質と持続性を確保するための“羅針盤”であり、実現可能性を高める戦略書です。
訪問看護の開業を検討している方や、すでに運営されている方にとって、計画づくりのヒントや実践に役立つ情報となれば幸いです。

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