はじめに

訪問看護ステーションを運営する中で、避けられない壁として立ちはだかるのが営業です。
看護師の大半が病院での就業経験があり、病院という環境では看護師が働きかけなくても受診や入院を目的として、自然に患者が集まってきます。
そのため、訪問看護師として初めて営業に行くことになると「営業って何をすればいいのだろうか?」と多くの訪問看護師が悩みを抱えています。
そのような背景から「どうやったらスタッフが営業に行けるようになるのだろうか?」といった相談が、経営者や管理者の方から寄せられることも少なくありません。

このような相談をいただいた際に、現場で活躍しているスタッフが営業に対してどのように感じているのか質問をすると、
「私は営業をしたくて訪問看護に来たんじゃない。看護をやりに来たんです。」
「営業に行く時間があれば、看護の質を高める時間に使いたい。」
と表現に違いはあるものの、営業に対して強い嫌悪感を感じていることが回答から見て取れます。

しかし訪問看護師が営業活動を通じて地域医療に貢献できることは多く、喜ばしいことも沢山あります。
今回のコラムを読み進めることで、営業が苦手だと感じる訪問看護師や支援したいと考える経営者・管理者の一助となれば幸いです。

訪問看護師が知っておくべき、営業について

▪️営業とは

小須田 庸平氏は、著書『企業の営業力向上についての考察 : インターナルマーケティングアプローチの視点から』において、

営業という言葉は日本語独特の物である。英語で言うSales(販売)、Business(事務、業務)、Operation(作業、活動、運営)、Trade(商売)の意味を含んでいる。日常的には明確な区分けがなされないまま用いられていることが多い。1)

と述べているように営業という言葉は多くの意味を含んでおり、明確な区分けがされていないため受け取る側によって捉え方に違いが出てしまうことが多いです。
捉え方にズレが生じたままの状態では、トラブルに発展する可能性が非常に高いです。

訪問看護の現場で「営業に行こう」という言葉を投げかけるだけだと「新規の利用者を獲得してこないといけない」とプレッシャーを感じたり、「依頼をいただけなかった。どうすればいいんだ」と一喜一憂することにつながります。
改善できるのであれば改善するに越したことはありませんが、必要以上に負荷をかけすぎると苦手意識が増長されてしまいます。
新規の利用者を獲得するだけが目的ではなく、営業に行くことでどのようなことに繋がるのかを共有し、一つずつ成功体験を積み重ねていくことが大切です。

▪️営業相手が求めるもの

HubSpot Japan株式会社が公表している、”買い手にとって誠意がある営業担当者とは?”の調査結果によると、
「足を運び、対面で話してくれる」という項目が23.9%とそこまで大きな値を示していないのに対して、
「できないことを明確に伝えてくれる」「短時間で内容の濃い商談をしてくれる」「社内でも気づいていない課題を発見し、解決策を提案してくれる」「自社のアピールより顧客の課題ヒアリングを重視してくれる」の方が、それぞれ数値が高いことがわかります。

(出典)HubSpot 日本の営業に関する意識・実態調査2021の結果をHubSpotが発表
買い手にとって誠意がある営業担当者とは?

これはいわゆる、営業職に限った話だけではなく、在宅医療においても通じる部分があると考えています。
以前、当コラムにて「訪問看護師は体験するサービス全てが評価の対象になっている」とお伝えしました。経営支援コラム:看護師の特徴とFOOTAGEでのコンフリクトマネジメント

医師やケアマネジャーもサービス全てが評価の対象というのは同様であり、「なんであの事業所を紹介したんだ」といった形で訪問看護ステーションの選択も評価の中に含まれます。
訪問看護ステーションを選択する上で、誠意を感じる事業所を選択することは極々自然な流れだと思います。

営業方法として、経営者や外部に営業を委託する方法もあるが、営業に行ったとしても実際の現場の状況を把握できていないことが多く、いわゆる形だけの営業になってしまう可能性が高いです。
サービスの強みや特徴を伝えるだけの営業なら行えるかもしれませんが、現実的な解決策の提案や課題の抽出などは困難であり、誠意を持って対応することが難しいのは容易に想像できます。

訪問看護師が営業活動を行う意義

▪︎訪問看護師の役割

話を進めていく前に、訪問看護師の役割について把握することで理解が深まると思いますので、以前掲載したコラムを是非、一読してから読み進めてください。経営支援コラム:訪問看護の役割と自律分散型組織の親和性について

訪問看護師はチーム医療の中心的な存在として多職種と連携し、地域住民の総合的なサポート体制を構築することが求められています。
この中心的な役割を担う上で、営業活動は訪問看護師にとって大切な業務の一つだと考えられます。

▪️営業活動の3つの効果

訪問看護師が営業活動を行うことで、3つの効果が考えられます。

看護の質の向上

地域包括ケアシステムの中で在宅医療を担う訪問看護師は、チームとして医療を提供しています。
李超、狩俣正雄氏は、著書『働きがいのある最高の組織とチームビルディング』において、

有効なチームを形成するためには,①成員間のオープンで自由なコミュニケーションが行われ,②成員が高いコミットメントを有し,③多様なスキルを持った成員が相乗効果的に協働し,④成員が相互に学習し合うことである。2)

と有効なチームワークについて述べています。
コミットメントやスキルに関しては専門性を活かしていく部分になりますが、コミュニケーションや学び合うことに関しては各々が独立して活動を行なっているため、サービス担当者会議や往診といった限られた時間でのコミュニケーションになりがちです。
また現場の実態として、訪問看護師を含めてどの職種も次の訪問があることが大半であり、落ち着いて話をする機会がほとんどありません。
そうした環境の中での営業は、コミュニケーションや学び合う絶好の機会であり、有効なチーム形成に重要です。
チーム内で自由なコミュニケーションを取るにあたり、見ず知らずの人に頼み事をしづらいように、顔が見える関係性であることは信頼を構築しやすくなります。
チームワークの質はパフォーマンスに影響を及ぼすため、看護の質の向上に繋がっていきます。

また現場の知識に基づいて、訪問看護サービスの特徴や、介入困難事例の解決策等を、医師やケアマネジャーに共有ができることのメリットは大きいです。
医師やケアマネジャーが訪問看護を顧客に紹介する際に、自社のステーションについて具体的な話をしてくれているため、利用者やその家族も訪問看護のイメージができており、訪問看護の導入がスムーズに行えます。
訪問看護の導入時点で方針のズレなどが発生してしまうと
「こんなはずではなかったのに。」
「訪問看護は必要ないです。」
といったように、利用者にとって望まぬ形でのサービスの提供になってしまう可能性が考えられます。
ミスマッチを防ぐことで、看護の質の向上にも繋がっていきます。

訪問看護師としてのスキルの向上

他職種と密な関わりを持つことで地域の他職種がどのような権限を持ち、どのような形で利用者に対してサポートできるのかといった情報を得ることができます。
そこで収集した情報をもとにケアマネジャーと相談し、訪問看護師が行える具体的なサポート方法を提案し、利用者の療養生活を支えていきます。
営業活動を通して情報収集能力やコミュニケーション能力、調整能力といったスキルの向上に努めることで、地域の中で活躍する訪問看護師としての専門性を高めることに繋がります。

地域医療への貢献を実感できる

私自身、営業に行く際に一番嬉しいことが、地域の中で貢献出来ていることを実感する瞬間です。
「Footageさんでよかった。」「〇〇さんって本当に素敵な看護師さんですね。」と言っていただけたり、医師やケアマネジャーにこちらからも直接感謝の言葉を伝えることで、一緒に喜ぶことができます。
訪問看護師をやっていて良かったなと思える瞬間の一つです。

また、今まで関わりを持つことが出来ていなかった方々にも「これから是非、一緒に協力していきましょう。」と声をかけてもらえると地域の中で活躍の場が増えていることを実感でき、モチベーションの向上につながります。

まとめ

今回のコラムでは、訪問看護師が営業活動を行う意義について解説しました。
営業が苦手だと感じる訪問看護師や支援したいと考える経営者・管理者の一助となれば幸いです。

参考文献:
1)著 小須田 庸平『企業の営業力向上についての考察 : インターナルマーケティングアプローチの視点から』より.商大ビジネスレビュー 5 (1),2015年,9月,P20
2)著 李超・狩俣正雄『働きがいのある最高の組織とチームビルディング』より.商経学叢 第64巻第2号,2017年, 12月,P352