はじめに
Footage訪問看護ステーションでは、自律分散型組織として訪問看護ステーションの運営を行っています。
最近は少しずつ認知され、「自律分散型組織での運営について」の講演などの依頼をいただくことが増えています。
「自律分散型組織に興味があります。」「理想的な話ですね。でも、実際に運営できているんですか。」など、様々な意見をいただくこともあります。
これらの実体験から、「自律分散型組織」に対する社会的な関心が高まっていることを実感しています。
▪︎なぜ、自律分散型組織への関心が高まっている?
自律分散型組織への関心が高まっている理由は、その柔軟性と効率性にあります。
現代のビジネス環境はVUCA時代と呼ばれ、急速に変化するため、企業や組織はその変化に対応しなければなりません。
自律分散型組織では、個々のチームやメンバーが自主的に意思決定を行い、自己調整することができるため、変化への適応力が高まります。
また自律分散型組織は、情報共有やコミュニケーションの効率化を実現し、組織全体のスピード感を高めます。
このように自律分散型組織は、現代のビジネス環境で求められる柔軟性と効率性を提供し、従業員の満足度向上にも貢献しているため、多くの関心を集めています。
そしてVUCA時代を乗り越えることは、医療業界においても同様の課題があると考えられます。
地域包括ケアシステムにおける訪問看護の役割
団塊の世代が75歳以上となる2025年には、高齢化率が総人口の30%に達し、超高齢化社会となります。
介護や医療が必要となる高齢者の増加や、それらを担う生産年齢人口の減少により、2025年には需要と供給のバランスが崩れることが予測されています。
そして2025年問題に対処するために、地域医療構想や地域包括ケアシステムの構築が解決策として掲げられています。(出典)総務省統計局 高齢者の人口
▪︎地域医療構想
地域の医療・介護ニーズに応じた医療サービス体制を整備することを目的として、「地域医療構想」という取り組みが実施されています。
整備の方法としては、病床が担う医療機能を「高度急性期機能」「急性期機能」「回復期機能」「慢性期機能」の4種類に分類し、病床の数を病院単位ではなく、地域全体で調整していきます。
高度な医療である「高度急性期機能」だけを提供するのではなく、リハビリを集中的に行う「回復期機能」や、長期に渡る療養が必要な「慢性期機能」などが対象となる人々も十分な医療資源を活用できるように、体制を整えることで地域住民が適切な医療サービスを受けられるようになることが期待されています。
(出典)厚生労働省ホームページ 地域医療構想
▪︎地域包括ケアシステム
重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制を目指す取り組みが「地域包括ケアシステム」です。
地域によって予算や人口動態、年齢層などの特徴が異なり、地域差が大きく出てしまいます。
そのため都道府県や市町村が主体となってシステムを構築していくことになっています。
都市部では比較的システム構築が容易ですが、僻地や中山間地帯などではシステム構築が難しいといった課題があります。
(出典)厚生労働省ホームページ 地域包括ケアシステム
▪︎訪問看護の役割
地域ケアシステムの特性上、診察を行う医師、社会資源の調整や相談を受けるケアマネジャー、施設サービスや在宅サービス、自治会など多くの人との関わりが必要になります。
訪問看護師は医療機関、介護施設、行政などと連携し、地域住民の総合的なサポート体制の構築に貢献します。
地域包括ケアシステムにおいては、各職種が単体で動くのではなくチームとして動くことが重要です。
吾妻知美、神谷美紀子、岡崎美晴、遠藤圭子氏は、著書『チーム医療を実践している 看護師が感じる連携・協働の困難』において、
チーム医療の歴史において看護師は患者を中心に多職種と関わってきた。
しかしその役割は、患者の診察をした医師が他の医療スタッフに指示や連絡を行うための連絡役としての関わりであった。
そして現在のチーム医療においても、多職種との調整役として様々な困難にぶつかりながらチームの調整者として奮闘していた。
また看護師は最も数の多い職種であり、そのため意思統一が困難であるという状況もみられた。
しかし看護師はこの数の多さを生かし,保健医療福祉専門職のチーム医療の推進に関わる意識改革の原動力となることでこれからのチーム医療の中心的な役割を担えると考える。1)
と述べているように、チーム医療において看護師は中心的な存在であると位置づけられています。
実際に訪問看護の現場でも訪問以外の時間は連絡調整で終わってしまう日もあるほど、連絡調整は重要な役割であると私自身も実感しています。
また一方で、調整役として様々な困難にぶつかることも述べられています。
病棟、外来、地域連携などいくつかの役割が分かれている病院看護師と比較し、多くの人と関わることが必要な訪問看護師は、より困難にぶつかる頻度が多いことが予測されます。
そのためチームの中心としての役割もより高度になることが推測できます。
このように訪問看護師は地域包括ケアシステムにおいて重要な役割を担っており、チーム医療の中心的な存在として多職種と連携し、地域住民の総合的なサポート体制を構築することが求められています。
訪問看護と自律分散型組織の親和性について
私は訪問看護ステーションが地域包括ケアシステムの中で役割を担うにあたり、自律分散型の組織形態と親和性が高いと考えています。
自律分散型組織の特徴を理解することで、その親和性について説明が可能です。
▪︎自律分散型組織の特徴
病院や多くの企業のように、会長や社長など上位の役職が意思決定を行い、従業員に対して指示を出すトップダウン形式の中央集権型組織とは異なり、自律分散型組織では個人やチームが組織の中で定められたビジョンや目標に沿って自主的に意思決定し、行動を起こします。
自律分散型組織の特徴は、従業員の自律性や創造性を引き出し、組織全体の効率性や柔軟性を高めることです。
▪︎地域包括ケアシステムに当て嵌めてみると
地域包括ケアシステムは、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制の構築」といった明確な目標を掲げています。
そして目標を達成するために、訪問看護師や医師、ケアマネジャーなどが一つのチームとして役割ごとに地域住民と関わることが求められています。
地域包括ケアシステムのチームでは、上下関係なども存在しません。
このように考えると、自律分散型組織の特徴と共通する部分が多く見られます。
地域包括ケアシステムを効率的に運営し、柔軟に対応できるようにするためには、自律分散型組織の特徴を理解することが重要です。
つまりチーム医療において中心的な役割を担う訪問看護師の自律分散型組織への理解の深さが、システムにおいて鍵となることが予想されます。
しかし慣れていない環境下で高度な役割を担うことは困難であると容易に想像できるため、そういった環境に触れる機会を提供することも重要だと考えられます。
そのような背景からも、訪問看護ステーションの運営において、自律分散型組織導入の意義は大きいでしょう。
まとめ
本コラムでは、訪問看護の役割と自律分散型組織の親和性についてご紹介させていただきました。
今回は社会的な背景から、訪問看護ステーションの運営において自律分散型組織を導入する意義を説明いたしました。
次回は組織力の向上など内部的な背景からの導入意義や、自律分散型組織を機能させるためのポイント紹介を行う予定です。
参考文献:
1)吾妻知美・神谷美紀子,・岡崎美晴・遠藤圭子著『チーム医療を実践している 看護師が感じる連携・協働の困難』より.甲南女子大学研究紀要第 7 号 看護学・リハビリテーション学編,2013年, 3月,P32
皆さまへの
コメント
Footage訪問看護ステーションで蓄積してきたナレッジを共有し、訪問看護ステーション運営の助けとなりたい。
課題や葛藤を共有しながら一緒に解決していく仲間を増やすことで、地域医療を支える仲間が、誇りや働く意義を持って、訪問看護に専念できる環境を作りたい。