経営と現場の対立について

株式会社FOOTAGEの経営支援事業部として、同業他社への訪問やヒアリングを行う中で、経営と現場の対立に関する相談が増えています。
「どうすれば主体性を持って事業所の運営に参加してもらえるのか?」「会社としての方針を出しているが、現場が中々行動化できない。」「管理者が上手に現場をコントロールできていない。」といった具体的な悩みが多く寄せられます。
これらの相談から推測すると経営者と現場のスタッフ、そして管理者の間で相互理解が上手く進んでいないことが想像できます。
このような状況が続くと、経営と現場の連携が取れず、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが懸念されます。

▪️経営と現場での対立による影響について

まず、訪問看護ステーションの現状を確認してみましょう。
2025年問題が近づく中、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、訪問看護師不足が深刻化しています。
そのため、訪問看護師の量的拡充が強く求められています。

訪問看護ステーションの開設数は増加傾向にありますが、その一方で新規開設されたステーションの1/3以上が廃止や休止に追い込まれています。令和3年度には新規開設1806件に対して、732件が廃止や休止になりました。
訪問看護業界の潮流として社会的な在宅医療の推進の流れに伴い、成長産業と言えますがこれらのデータから訪問看護ステーションの運営は容易ではないことが伺えます。
その廃止や休止の一因として、「経営と現場の対立による看護師の常勤換算割れ」が挙げられ、経営と現場の連携が上手くいかない場合、スタッフとの信頼関係や事業へのモチベーションに大きく影響を与える事となり、スタッフの定着率に大きく影響を与えます。
看護師の常勤換算割れといった状況に陥らないためにも、経営と現場の相互理解と連携が不可欠になります。

▪️経営者視点から見て”現場が何を考えているのかわからない”ことも

私は訪問看護事業者から運営の相談を受ける際に、まず「現場はどのような意見を持っているのか?」「その意見の背景にはどのような要因があるのか?」といった点を確認します。
経営者として現場の状況を理解していて当然と思われがちですが、多くの場合で「現場が何を考えているのかわからない。」「状況を把握できていない。」という返答を受けることが多いのです。
これは、経営者が現場の状況やニーズを十分に把握していないために、経営と現場の対立が発展し、相互理解が難しくなるケースが多いことを示しています。
特に、経営者と医療従事者では考え方が異なることが多く、経営者は業績に重点を置くのに対し、医療従事者は利用者の満足度や医療の費用対効果に重点を置く傾向があります。
このような職業意義の違いや考え方の特徴を理解していない経営者の場合、対立関係が顕著に現れやすいと感じています。
経営者が現場の声に耳を傾け、現場の状況やニーズを深く理解することで相互理解と連携を促進し、対立の解消に繋がると考えています。

▪️経営と現場の対立の解消

訪問看護ステーションの運営において、経営者や管理者が現場との対立を解消し、円滑な運営を実現するためには、以下の対策や改善策が考えられます。

業務フローとしてコミュニケーションの機会を作る

経営と現場の対立が起こる原因の一つは、コミュニケーション不足による誤解です。
定期的なミーティングやオープンな意見交換の場を設けることで、双方の意見や懸念を理解し合い、解決策を見つけることができます。
訪問看護事業は移動が多く、事業所にスタッフが集まる時間が限られており、「コミュニケーションを大切にしたい」という意識だけではコミュニケーションの場を設けることが困難です。
日頃の業務の流れの中に、仕組みとしてコミュニケーション機会を設けることが重要です。

Footage訪問看護ステーションでは、日単位、週単位、月単位で様々なコミュニケーションの機会を整えています。
必要に応じて、経営陣もコミュニケーションの機会に参加しながら現場とコミュニケーションを図っています。

現場の意見を尊重する

経営者は現場の意見を尊重し、それを経営判断に反映させることが重要です。
職業的意義を大切にしている看護師は経営の邪魔をしているわけではなく、目の前の利用者に精一杯ケアを提供することで、事業にとって良い影響を与えてくれています。
現場の声を鑑みない経営判断をすると対立が深まるだけでなく、医療職の職業的意義を無視する結果になってしまうため、現場のモチベーションも低下してしまいます。

Footage訪問看護ステーションでは、各会議体での協議の機会やコミュニケーションツール、アンケート等も活用しながら現場の意見を抽出して課題解決に努めています。

経営者と現場でチームを作る

経営者が現場の仕事を理解することで、現場の要望や悩みに対して適切な対応ができるようになります。
経営者自身が現場に出向いて現場の実際を把握することで距離を縮めることができます。
看護を提供することや利用者さんのことを知ることを行うのではなく、どのような状況や環境で働いているのかを知るだけでも、距離を縮めることにつながります。
経営と現場が協力してこそ事業の継続性に繋がるので、両者共に歩み寄り、チームとして協力する必要があります。

Footage訪問看護ステーションでは、事業所の運営状況を把握することができる帳票を活用しています。
帳票を活用することで経営者と現場で同じ視点で観察できるようになり、よりチームとしての活動を促進させることが出来ます。

目標やビジョンを共有する

経営者は現場に対して、会社の理念やビジョン、目標等を明確に伝えることが大切です。
共通のビジョンに向かって働くことで、経営と現場が一体となり、対立を解消できる可能性が高まります。
在宅医療が地域にとってどのような影響を与えるのか、訪問看護はその中でどのような役割を担っていくのか、地域の中でどのような訪問看護ステーションを運営していきたいのか、運営を継続していくための経済的な目標などを共有することが大切です。
社会的意義と経済合理性の双方の視点を持つことが必要になります。

コンフリクトマネジメントの習得

コンフリクトマネジメントとは、対立をマイナスと捉えるのではなく、組織の活性化や新しいアイデアが生まれる事業所の成長の機会と捉えて積極的に問題解決に取り組もうとする考え方をいいます。
経営者や管理者はコンフリクトマネジメントのスキルを習得することで、対立を円滑に解決する方法を実践することができます。
適切な対応ができるようになると、経営と現場の関係が改善されるでしょう。

まとめ

この記事では、訪問看護の経営と現場の対立について知っておくべきことについて解説してきました。
経営と現場の対立を解消し、円滑な運営を実現するためには、これらの対策や改善策を実践することが重要です。
経営者と現場が一体となり、相互理解と連携を深めることで、訪問看護ステーションの運営が円滑に進み、スタッフの定着率向上やサービスの質の向上に繋がるでしょう。
今回のコラムを読んでいただくことで、訪問看護ステーションの経営者及び管理者の皆様の一助になれば幸いです。

次回はコンフリクトマネジメントについての記事を掲載させていただきます。