はじめに

前回のコラムでは、訪問看護事業所における業務効率化の重要性とその効果について触れました。
訪問看護の分野においても、業務の効率化は非常に大きな影響を及ぼすことが明らかです。
今回は、訪問看護事業所においてBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)と称される業務改革をどのように展開すると良いのか、そのポイントについてお話しします。
今回のコラムに入る前に、前回のコラムも合わせてご確認ください。経営支援コラム:訪問看護事業所での業務効率化の重要性

BPRについて

▪️BPRとは

BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)は、通常、業務改革として知られており、組織や制度を根底から見直し、目的や目標に向けて非効率な業務フローを大規模に改革し、全体の業務プロセスを再設計する取り組みです。

組織が成長すると、業務効率や生産性の向上を目的として、各部署で専門性を高めるための分業化が行われます。
しかし、これが進むと部署間の連携が失われ、異なる業務フローが生じることや業務の重複が発生します。
訪問看護事業所でも、事業所の規模拡大、チーム分け、事務員の採用、多店舗展開などにより、業務プロセスが変化します。
これらの変化に対応して業務プロセスを根本から見直すBPRは、きわめて重要な役割を担うのです。

訪問看護事業所において、BPRを適切に行うことで、サービスの質が向上し、利用者満足度が高まります。
また、職員の働きやすさも改善され、リソースの有効活用が可能となり、組織としての競争優位性が高まります。
具体的には、訪問スケジュールの最適化、ICTツールの導入、多職種連携の強化などがBPRの一環として取り組まれることが多いです。

これにより、業務の効率化だけでなく、訪問看護の質そのものも向上します。

▪️BPRが注目される理由

BPRの考え方は1990年代初頭に誕生し、日本でも社会的な変化を背景に注目されています。
少子高齢化による労働力不足、国内市場の縮小、さらにICT技術の進展などが、民間企業や地方自治体においてBPRの導入を促しており、これによってBPRが再注目されることとなりました。

在宅医療においても同じく、訪問看護師の人手不足が懸念される中で、訪問看護アクションプラン2025では訪問看護ステーションが実践すべきことが強調されており、その実現のためにBPRの活用が欠かせません。

▪️BPRと業務改善の違い

業務効率化を目指すにあたり、BPRと業務改善の違いを把握することは重要です。
これらは両方とも業務効率化の手法ですが、目的とアプローチに差があります。
これらを混同してしまうと、時間を無駄にしたり、目標が曖昧になってしまい、結果的に効率化が進まないこともあります。

BPRは、業務プロセスを根本から見直し、顧客満足度や生産性の向上を目指すもので、従業員の満足度にも大きな影響を与えます。
例えば、訪問看護業務で報告書作成がスタッフの負担となっている場合、AI技術を活用してワークフローを一新するなど、従来のプロセスに革命的な変化をもたらし、組織全体のパフォーマンスを飛躍的に向上させます。

一方、業務改善は、既存のプロセスに沿って「ムリ・ムダ・ムラ」を排除し、効率を徐々に高めることに焦点を当てます。
例えば、初回訪問において、スタッフ間で訪問時に確認する項目にばらつきがあったため、チェックリストを作成することで、全員が均一かつ必要な確認を行えるようになります。

BPRは大胆な変革で業務プロセスを根本的に改善するアプローチであり、一方、業務改善は徐々に改良を加えてプロセスを滑らかにする方法です。
目的に応じて適切な手法を選び、意識的に取り組むことで、業務効率化を効果的に進めることができます。

▪️BPRを進める5つのステップ

総務省から三菱UFJリサーチ&コンサルティングとの共同でBPRを進めていくためのステップが紹介されています。
出所:「民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究」(総務省、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を基に経営支援事業部が作図

①検討

目的・目標の設定:
BPRを行うことは、企業文化や経営戦略、スタッフのスキルや意識など、多くの要素に影響を及ぼす可能性があります。
業務改革を行う目的は何か、企業が目指すミッション・ビジョンに沿っているかを再度確認し、現在の事業所の状況を考慮した上で、BPRを行うかを検討します。BPRをうまく進めていくためには、組織全体でその重要性を理解していることが重要です。既存の業務プロセスを変えることに対して、現場が抵抗を感じる場合、経営者だけで進めてしまうとうまくいかないことが多いです。
BPRの重要性を共有することで抵抗感を減らすだけでなく、スタッフのモチベーション向上も期待できます。

対象とする業務範囲の設定:
目的と目標を明確にした上で、対象とする業務の範囲や業務プロセスを明確にします。
例えば、目的が「より多くの人に訪問看護を提供するための体制を整える」であれば、事業所の業務範囲を「訪問業務」「記録業務」「スケジュール管理」などに分けて、具体的に取り組む領域を明確にしていく必要があります。

②分析

分析・課題の把握(業務内容、フロー、組織):
次に、業務プロセスの流れや関連性を可視化し、分析します。
一般的に、課題分析にはABCツールやBSCツールなどの分析フレームワークの使用が有効とされています。
フレームワークの使用に慣れていない場合は、以下の項目に注意を払いながら既存の業務プロセスにおける課題を分析し、改善に繋げるための情報を得ることができます。

  • 業務の目的が明確か
  • 業務内容が明確か
  • 業務の抜けがないか
  • 業務に関わるステークホルダーとの関係
  • 業務に必要な時間はどの程度か
  • 業務分担が可能か
  • 業務同士の関係性
  • 進捗確認などのスケジュール管理ができているか

これらの項目を検討し、現状の業務プロセスにおける問題点や改善の余地を洗い出していくことが、BPRの分析フェーズで重要となります。

③設計

戦略・方針の策定・実施方法の検討・ビジネスプロセスの設計(業務フロー、ルール、組織):
分析の結果をもとに、戦略や方針を策定し、ビジネスプロセスの標準化を行います。
標準化を進める際には、経営陣だけでなく、現場のスタッフを改革に積極的に関与させることが重要です。
経営陣のみで進めると、「会社が現場の意見を聞かずに勝手に何かしている」「会社は現場のことを理解していない」などの声が上がり、効果的な改革が進まず、かえって経営と現場との間に溝ができる可能性があります。
BPRを成功させるためには、現場の積極的な参加を促し、ボトムアップのアプローチを取り入れることが求められます。
また、訪問看護師としての専門性を活かした「コア業務」に注力する一方で、「ノンコア業務」についてはオートメーション化を第一に考え、それが困難な場合は外部に委託する(アウトソーシング)ことも検討します。
これにより、業務の効率化だけでなく、スタッフのモチベーション向上にも寄与することができます。

④実施

BPRは業務改善と異なり、根本からの変革を目指すため、目標の達成には時間がかかることが多いです。
一度の取り組みだけでは、長年培われた習慣などがあるため、業務改革を組織内に浸透させて定着するのは容易ではありません。そのため、継続的かつ組織全体での取り組みとして実施することが重要です。
経営陣と現場との間で方針にズレが生じていないか、目標が達成されているかどうかを定期的に確認することが大切です。

⑤モニタリング・評価

業務モニタリング・効果測定・達成度評価:
実施を進める中で、新しく構築した業務プロセスに問題がないか、また問題があった場合、それがどこにあるのかをモニタリングします。同時に、効果や成果についてもモニタリングし、達成度に問題がある場合は修正しますが、修正に当たっては、最初の「検討」フェーズに戻って見直します。
先に述べたように、BPRは継続的な取り組みであるため、事前にモニタリングや達成度の評価を行う期間を設定し、PDCAサイクルを円滑に回せるような設計を心がけましょう。

まとめ

BPRは大きな変革をもたらすため、組織内の抵抗や課題が現れることもあります。
そのため厳密なプロジェクト管理の上で、ステークホルダーとコミュニケーションを取りながら進めていくことが重要です。
訪問看護事業所でのBPRは、利用者にとってのサービス向上と組織全体の効率化に繋がり、持続可能な経営を支える大きな要素となります。
組織全体で協力し、業務プロセスの再構築に取り組むことが求められます。