はじめに

訪問看護ステーションの運営において、業務効率化の推進はとても重要です。
私たちFootage訪問看護ステーションも、2019年1月1日に開設してから、既に4年が経過しました。
この4年間の中で、私たちは試行錯誤を重ねながら、さまざまな業務効率化を図ってきました。
今回のコラムでは、訪問看護ステーションの運営に際し、業務効率化の重要性とその影響について説明します。

訪問看護事業所における業務効率化について

▪️業務効率化とは

訪問看護ステーションの運営において、発生する業務を効率よく進行させるために、業務フローや使用するツール、取り組む期間の改良や見直しを行うことを業務効率化といいます。

業務効率化を推進する際には、「ムリ・ムダ・ムラ」の3つの視点に焦点を当てると良いです。

  • ムリ・・・実際に処理できない業務量やスケジュール管理になっていないかを確認します。
  • ムダ・・・業務のフローの中で不必要な項目や時間の浪費が生じていないかを検証します。
  • ムラ・・・業務の処理において、処理を行う人により成果に大きな差が出ていないか、業務負荷が偏っていないかを確認します。

これら3つの視点をもとに業務を見直すことで、スタッフに過度な負担をかけず、事業所内で大切にしたいことに時間を有効に活用できるようになります。
また、訪問看護を取り巻く環境から見ても、業務の効率化は必須となってきます。

▪️訪問看護事業所を取り巻く環境

在宅医療は変革の時期にあり、2025年には団塊の世代が75歳に達し、高齢化率が総人口の30%を占める見込みです。
2040年までに高齢化率はさらに上昇し続けると予測されており、在宅医療を支える人材の配置が急務となっています。
厚生労働省は2025年までに少なくとも、訪問看護師は12万人必要としていますが、令和2年(2020年)時点での訪問看護師数は81,632人にとどまり、不足しています。
訪問看護師数は増加傾向にはありますが、必要な数に到達しない可能性も十分に考えられます。
そうなれば、一人の看護師がより多くのサービスを提供しなければならない状況が生じます。
業務の効率化を進めることにより、このような社会的な問題への解決にも寄与することができます。

(出典)厚生労働省ホームページ 令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況 従事者の状況

また、公益社団法人日本看護協会、公益財団法人日本訪問看護財団、一般社団法人全国訪問看護事業協会らが共同で作成した訪問看護アクションプラン2025では、

近年、在宅ケアの対象者は急増し、しかも重度化・多様化・複雑化してきています。
訪問看護の利用者も、がん末期患者や人工呼吸器の装着者、チューブ類を使用して生活する人など、医療ニーズの高い利用者が増えています。
また、重度の障がいのある小児や精神障がいがある在宅生活者、認知症の人など多様化してきていることも最近の特徴です。
人生の最終段階を在宅で過ごすことを希望する利用者も増えています。
さらに、一人暮らしや高齢者世帯、老老介護、認認介護など家族介護基盤の弱体化も加わり、複雑化した多問題を有する利用者が少なくない状況です。1)

と記載されています。
これらの内容からも、訪問看護事業所は様々なニーズに対応できることが求められていることが明らかです。

また、訪問看護アクションプラン2025では、2025年に向けて訪問看護ステーションが実践すべきことを大きく4つに区分しています。
その中に業務効率化も含まれており、これは②の訪問看護の機能拡大という項目に位置づけられています。
しかしながら、他の全ての項目に対しても、業務効率化を進めることにより、プラスの影響を及ぼすことが可能だと考えています。

(出典)公益社団法人日本看護協会 公益財団法人日本訪問看護財団 一般社団法人全国訪問看護事業協会 訪問看護アクションプラン2025 

業務効率化がもたらす効果

前述の訪問看護アクションプラン2025の4つの主要項目に基づき、業務効率化が訪問看護ステーションにどのような影響を与えるかを考察します。

▪️訪問看護の量的拡大への影響

訪問看護の量的拡大では、全国的な訪問看護事業所の整備、訪問看護師の安定的な配置、医療機関と訪問看護ステーションの看護師の相互育成が求められています。
業務の効率化を進めることで、一人当たりの訪問看護師の負担を軽減し、スタッフの働きやすさを向上させることができます。
働きやすさの向上は離職率の低下と人材の獲得につながり、訪問看護事業所の規模拡大を促進します。
小規模事業所では、働く負担が大きく、事業の安定性や持続性に影響を与える可能性があります。
さらに、事業所としての余裕がない場合、内部教育すら手が回らず、医療機関と訪問看護ステーションの看護師の相互育成が難しくなることが容易に想像できます。
これらのことから、業務効率化によって訪問看護の量的拡大に対する効果は大きいと言えるでしょう。

▪️訪問看護の機能拡大への影響

訪問看護の機能拡大では、訪問看護の提供場所の拡大、訪問看護事業所の機能拡充、小規模多機能型居宅介護の増加、訪問看護業務の効率化が求められています。
ICT等を利用することで文書作成時間を短縮し、看護サービスに集中することが可能になります。
さらに、情報共有も効率化でき、地域内の多機関・多職種との連携強化に繋がります。
連携の強化により、地域包括ケアシステム内でのチームサービス提供が可能になり、自宅訪問だけでなく地域施設への訪問や住民への健康相談などの活躍の場も拡大します。
業務効率化はスタッフ一人当たりの負担軽減につながり、24時間対応や重症度高い利用者の受け入れ、見取り対応なども可能になります。
これらから、業務効率化は訪問看護の機能拡大に大きな影響を与えるといえます。

▪️訪問看護の質の向上への影響

訪問看護の質の向上では、健康の維持・回復を支える視点を持つ専門家の育成、看護の専門性を発揮して多職種と協働、訪問看護ステーション管理者のマネジメント能力の向上、看護基礎教育への対応強化が求められています。
業務効率化を推進することで、スタッフが働きやすい環境を作ることが可能になります。
安心して働ける環境が整備されることは、離職率の低下や優秀な人材の確保につながり、多様な知識や経験を持った人材が集まる可能性を高めます。 さらに、看護の質を向上させる事例検討会や勉強会、カンファレンスなどの時間を確保できるようになり、看護の深化を目指す時間を増やすことが可能となります。
人材の定着や看護の深化時間の確保は、看護の質の向上に直結します。

▪️地域包括ケアへの対応にもたらす効果

地域包括ケアへの対応では、訪問看護の国民への周知、地域包括ケアシステムの構築、地域での生活を包括的に支援する訪問看護ステーションの機能強化、そして訪問看護の立場からの政策提言が求められています。
国民への周知や政策提言は難しいかもしれませんが、事業所が属する地域の事業や会議、イベントへの参加や開催は極めて重要です。
これにより、地域や住民のニーズを理解する機会や、地域包括ケアシステムで活躍する他職種の方々との交流の機会を作ることが可能になります。
また、HPやSNSを活用して訪問看護についての記事を投稿することで、訪問看護についての認知度向上にも寄与できます。
業務効率化を進めることにより、これらの活動を行う時間を確保することができるようになります。

まとめ

今回のコラムでは、業務効率化を行う重要性について訪問看護の量的拡大、機能拡大、質の向上、地域包括ケアへの対応の4つの視点から考察しました。
訪問看護の更なる発展と地域との連携強化に向けて、業務効率化は不可欠な要素であることを確認しました。

参考文献:
1)著 公益社団法人日本看護協会 公益財団法人日本訪問看護財団 一般社団法人全国訪問看護事業協会『訪問看護アクションプラン2025』より.P3