訪問看護ステーションの事業成長を大きく左右する要因の一つが「ケアマネジャーとの関係」です。介護保険制度の構造上、ケアマネジャーの推奨が利用者獲得に大きく影響するからです。しかし、多くの開業経営者の方が「ケアマネジャーとの関係をどう構築すればよいか」について、明確な戦略を持たないまま営業活動を進めているのが実態です。今回は、訪問看護ステーションのケアマネジャーとの関係構築における営業戦略の考え方について、実務的なアプローチをご紹介します。
ケアマネジャーが訪問看護事業所を選定する基準
訪問看護の利用者獲得において、ケアマネジャーの役割は極めて重要です。介護事業経営実態調査によると、訪問看護ステーションの新規利用者の75%以上がケアマネジャー経由で獲得されています。つまり、ケアマネジャーがどの訪問看護事業所を選ぶかが、事業の成長に直結するのです。
では、ケアマネジャーはどのような基準で訪問看護事業所を選定しているのでしょうか。これを理解することが、効果的な営業戦略の出発点になります。
選定基準の第一位:利用者のニーズへの対応能力
ケアマネジャーは、自分の利用者が必要とする支援内容に対応できる事業所を選びます。例えば、医療依存度が高い利用者であれば、看護技術が高い事業所が選ばれます。褥瘡ケアや人工呼吸器の管理、栄養管理など、特定の医療ニーズに応じた事業所の選択が行われるのです。
開業初期は、全てのニーズに対応しようとするのではなく、自社が確実に対応できるニーズを明確にし、ケアマネジャーに伝えることが重要です。「特定の疾患や支援内容に強い」という評判が立つことで、その分野の利用者が紹介されやすくなります。
選定基準の第二位:対応の迅速性と信頼性
ケアマネジャーの日常業務は、利用者のニーズ変化への迅速な対応です。訪問看護が必要になったとき、すぐに対応してくれるかどうかは、ケアマネジャーの評価に大きく影響します。また、電話や連絡への返応が早い、約束を守る、報告が的確であるといった信頼性も、継続して利用される重要な要因です。
開業初期は、人手不足で対応が困難なことがあります。しかし「対応できない場合は明確に伝える」「対応できるようになる時期を約束し、実行する」といった誠実な姿勢を示すことで、ケアマネジャーからの信頼を勝ち取ることができます。
選定基準の第三位:相談のしやすさと情報提供の質
ケアマネジャーは、訪問看護師や事業所の管理者と頻繁に相談し、利用者の支援方針を調整します。このとき「相談しやすい雰囲気があるか」「的確で有用な情報が得られるか」が重要になります。
一方的に自社の方針を押し付けるのではなく、ケアマネジャーの視点と訪問看護の視点を統合し、利用者にとって最適な支援を考える協働姿勢が求められます。こうした関係が構築できれば、ケアマネジャーからの信頼は厚くなり、複数の利用者が紹介されるようになります。
ケアマネジャーとの関係構築における三段階アプローチ
効果的な関係構築を実現するには、段階的なアプローチが有効です。
第一段階:初期認知と信頼醸成(開業後3か月程度)
開業直後は、地域内のケアマネジャーに自社の存在を認識してもらうことが最優先です。ここで重要なのは「押し売り的にならないこと」です。
具体的には、あらかじめ作成したパンフレット、事業所の基本情報、対応可能な支援内容、連絡体制などをまとめた資料を準備します。その上で、地域内のケアマネジャーや居宅介護事業所を訪問し、「こういう事業所がこの地域に開業しました」という自己紹介を行うのです。
このとき、1回の訪問で全てを成果にしようとするのではなく「顔を覚えてもらう」「事業所の特性を理解してもらう」という中期的な目標を持つことが重要です。ケアマネジャーも忙しい業務の中にいるため、無理な営業は避け、相手のペースに合わせることが信頼醸成につながります。
第二段階:関係の深化と実績づくり(開業後3~12か月)
初期認知が進むと、ケアマネジャーから実際の利用者紹介が始まります。この段階で最も重要なのが「利用者支援の品質と、ケアマネジャーとの連携の質」です。
紹介いただいた利用者に対して、約束した支援を確実に提供し、定期的に訪問看護の内容をケアマネジャーに報告することで、「この事業所は信頼できる」という評価が固定されます。同時に、利用者の状態変化やケアの工夫について、積極的にケアマネジャーと相談することで、協働姿勢を示すのです。
多くの経営者の方が見落としがちなのは、この段階でのコミュニケーション頻度です。定期的な面談や電話報告を通じて、ケアマネジャーとの関係を継続的に深めることが重要になります。
第三段階:安定的な連携体制の構築(開業後1年以上)
ケアマネジャーから複数の利用者が紹介されるようになったら、より組織的な連携体制を構築する段階です。
具体的には、特定のケアマネジャーとの定期的な面談スケジュールを設定したり、ケアマネジャーが関心を持つ特定のテーマについて勉強会を開いたり、共有の課題解決に一緒に取り組むといったアプローチが考えられます。
この段階では、単なる利用者紹介のやり取りから、ケアマネジャーの経営課題の解決に貢献する関係へと昇華させるのです。例えば「利用者の自立支援をどう進めるか」という共通課題について、訪問看護の視点から情報提供することで、ケアマネジャーからの信頼がより強固になります。
ケアマネジャーとの関係構築で避けるべき落とし穴
経営者の方が陥りやすいミスをご紹介します。
落とし穴1:サービスの差別化ポイントを誤る
訪問看護サービスは介護保険・医療保険に基づく公定価格であるため、料金による差別化は制度上発生しません。新規開業事業所が市場に参入する際に重要なのは、料金ではなくサービス品質と信頼性です。ケアマネジャーは「どのような利用者に、どのような専門性で対応できるか」を重視して事業所を選定します。自社の強みが不明確なまま営業を進めることが、最も避けるべき失敗です。
落とし穴2:ケアマネジャーの判断を無視した利用者直接営業
一部の経営者は、訪問看護の利用者本人や家族に直接営業をしかけようとします。しかし、介護保険制度ではケアマネジャーがサービス選択をリードします。利用者の希望だけで事業所が決定されることは稀なのです。むしろ、ケアマネジャーの専門的判断を尊重する姿勢を示すことが、長期的には利用者獲得につながります。
落とし穴3:約束の不履行
開業初期の忙しさから「対応できると言ったのに、実際には対応できなかった」というケースがあります。ケアマネジャーは、こうした約束不履行を極めて重大に受け止めます。一度信頼が失われると、回復するのに相当な時間を要するのです。
できない約束はしない、やると言ったことは必ずやる、というシンプルながら重要な原則を、開業初期から徹底することが重要です。
Footageの営業支援における関係構築サポート
当社では、訪問看護ステーション開業者の方々に対して、ケアマネジャーとの関係構築に関するコンサルティングを行ってきました。
開業予定地域のケアマネジャーリスト作成、初期訪問のための営業資料作成、ケアマネジャーとの協働に必要なプロセス設計など、具体的なサポートを実施しています。さらに、開業後の営業成果分析も行い「どのケアマネジャーからの紹介が多いのか」「対応品質に課題がないか」といった点を定期的に検証し、改善提案を行うことで、安定的な利用者獲得につながるケースが多いです。
また、当社の関連事業所の経験から、ケアマネジャーとの定期的な面談を習慣化することが、長期的な事業成長に大きく寄与することを実感しています。開業初期から、こうした体制をつくることが重要です。
まとめ
訪問看護ステーションの事業成長において、ケアマネジャーとの関係構築は避けて通れない営業戦略です。ケアマネジャーがサービス選択を主導する介護保険制度の特性を理解し、相手の立場を尊重しながら、段階的に信頼を構築することが重要です。
経営者の方が、利用者ニーズへの対応能力、迅速性と信頼性、相談のしやすさという三つの基準を意識し、継続的にケアマネジャーとの関係を深めることで、安定的かつ継続的な利用者獲得が実現できることをお勧めします。
開業初期からケアマネジャーとの関係構築に注力することで、その後の事業成長基盤が確立されます。ご不明な点やご相談があれば、ぜひ当社までお問い合わせください。







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Footage訪問看護ステーションで蓄積してきたナレッジを共有し、訪問看護ステーション運営の助けとなりたい。
課題や葛藤を共有しながら一緒に解決していく仲間を増やすことで、地域医療を支える仲間が、誇りや働く意義を持って、訪問看護に専念できる環境を作りたい。