「もしものとき、あなたはどのような医療やケアを受けたいですか?」
この問いに、すぐに答えられる人は多くはありません。しかし、あらかじめ自分の想いを言葉にしておくことで、いざというときにご家族が「本人はこう望んでいたはずだ」と自信を持って決断できるようになります。それが、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。愛称の「人生会議」とも呼ばれ、今、多くの医療現場で重視されています。
ACP は「終活」や「死の準備」ではなく、「今をより良く生きるための対話」です。「いつか来る変化に対して、今からどう向き合うか」を、信頼できるチームと一緒に考えるプロセスなのです。私たち訪問看護師は、ご本人が本当に大切にしていることを丁寧に聞き出し、それをご家族や医療チームと共有する役割を担っています。

訪問看護が ACPに関わる理由

訪問看護師は、ご本人の生活の場に最も近い医療職です。この利点を活かして、ACPを実践することには、大きな意味があります。
「生活」と「医療」のつなぎ目を理解している
病院では見えない「大切にしている日々の習慣」や「譲れない想い」を、医学的な視点を踏まえながら言葉にするお手伝いができます。例えば、「毎朝、必ずコーヒーを飲むこと」や「孫の成長を見守りたい」といった一見、医学とは無関係に見える想いが、実は治療方針の選択に大きく影響することがあります。私たちはそうした「その人らしさ」を大切にしながら、医学的な判断とのバランスを取るお手伝いをいたします。
繰り返しの対話を重ねることができる
意思は固定的なものではなく、体調や状況によって変わることがあります。終末期意思決定支援ガイドラインに基づき、私たちは一度決めたら終わりにするのではなく、何度でも対話を重ねます。「3ヶ月前はこう言っていたけれど、今はどう考えていますか?」という柔軟な確認が、信頼できる関係があってこそ可能になるのです。定期的な訪問を通じて、少しずつ想いを深掘りしていく、そういった長期的な対話が実現できるのは、訪問看護だからこそなのです。
ご家族の「代弁者としての準備」をサポート
もしご本人が体調悪化により、自分の想いを伝えられなくなった場合、ご家族が最前線で判断を迫られることになります。そのとき、ご家族が「本人はこう望んでいたはずだ」と自信を持って決断できるよう、チーム全体で支える環境が必要です。私たちが日々の訪問で伺ったご本人の想いは、プラットフォームに記録・蓄積されます。これにより、主治医も、ソーシャルワーカーも、全員がご本人の価値観を共有できるのです。

専門的視点による ACPのポイント

1. 対話の土台づくり:信頼関係の構築

ACPを始めるためには、何より「この人たちなら自分の本当の気持ちを聞いてくれる」という信頼が必要です。急に「人生会議をしましょう」と切り出されても、多くの方は戸惑うでしょう。私たちは、毎回の訪問を通じて、小さな信頼を積み重ね、その関係の上でゆっくりと対話を始めます。
日常のなかで「今日、どんな気分ですか?」「最近、何か心配なことはありますか?」といった開かれた質問をすることで、ご本人は自然と自分の想いを語られるようになります。そうした会話の積み重ねから、私たちはご本人の「本当に大切にしていること」を少しずつ理解していくのです。決して、「終末期はどうしたいですか?」というような重い質問から始まるわけではありません。

2. 複数の視点からの支援:認知機能の変化への対応

ご本人の認知機能が低下していても、ACPを諦める必要はありません。認知症意思決定支援ガイドラインを指針として、言葉だけでなく、表情や仕草からも「本人の最善の利益」を汲み取る努力を続けています。
例えば、「痛みはありませんか?」と言葉で問いかけても返答がない場合でも、表情や身体の動きから不快さを読み取ることができます。また、ご家族が「この人は昔からこういうことを大事にしていた」と教えてくれる情報も、非常に重要です。本人の意思と、その背景となる価値観の両面から、「今、この方に最適なケアは何か」を、チーム全体で検討するのです。

3. ご家族への支援:不安の軽減と共有

ご家族も、ご本人の想いを理解し、一緒にACPに参画することが大切です。「本人が何を望んでいるのか」が分かれば、ご家族の心理的な負担も軽減されます。また、いざというときの決断についても「この決定は、本人の想いに沿っている」という確信が生まれるのです。
私たちは、ご家族向けのガイドを提供したり、一緒に話し合ったりすることで、ご家族がACPのプロセスを理解できるようにサポートします。「何を話し合ったらいいのか分からない」というご家族の不安も、私たちが一緒に歩むことで、解消できるでしょう。

Footageの ACPへの取り組み

私たちは、対話を「特別なイベント」ではなく「日常のコミュニケーション」として大切にしています。
情報の蓄積と共有による継続的なケア
日々の訪問で伺った「想い」は、単なるメモではなく、構造化された形でプラットフォームに記録・蓄積されます。これにより、担当者が変わっても、あるいは緊急事態が起きても、常に本人の価値観を軸にしたケアを選択できる体制が整います。新しい看護師が初めて訪問するときも、これまでの対話履歴から「この方が大切にしていることは何か」を即座に理解できるのです。また、主治医が「治療方針をどうするか」と判断するときも、プラットフォーム内のACPの記録を参照することで、医学的な判断と本人の想いを統合した、より良い意思決定ができます。
多職種チームによる統合的なアプローチ
看護師だけでなく、理学療法士(PT)も、作業療法士(OT)も、ソーシャルワーカーも、同じプラットフォーム上でご本人の想いを共有しています。例えば、「自分の足で歩きたい」という想いがあれば、PTはリハビリ強度を調整し、OTはADL(日常生活動作)のサポート方法を工夫するといったように、チーム全体がその想いを実現するために動くのです。
24時間対応による安心感
もし夜間に緊急事態が起きても、当番の看護師はプラットフォームからご本人のACPの記録を確認し、「この方はこういう価値観をお持ちだから、このような対応が望ましいだろう」と、迷わずに判断できます。つまり、24時間体制で、ご本人の想いに寄り添ったケアが継続されるということです。この安心感は、ご本人とご家族に、どれほどの心理的な支えとなるでしょうか。

まとめ

ACP(人生会議)は「死」の準備ではなく、「今をより良く生きる」ための対話です。「いつか来るかもしれない変化に対して、今からどう向き合いたいか」を、信頼できるチームと一緒に考えることで、ご本人もご家族も、より安心して毎日を過ごすことができます。もし「これからのことについて、専門家と一緒に考えてみたい」とお感じでしたら、私たちにお気軽にお声がけください。訪問看護の初期段階から、このような対話をサポートできるチームとして、あなたの側に寄り添いたいと考えています。


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