はじめに:保育園に通うわが子のために、毎日注射を打ちに通っていた日々
「お昼とおやつの時間に、毎日保育園へ通ってインスリンを打っていました」
名古屋市に住むお母さんが、そう語ってくれました。お子さんは未就学で、1型糖尿病(T1DM)という慢性的な疾患を抱えています。保育園には看護師がいないため、保育士がインスリン注射を行うことはできませんでした。
ある日、同じ病気の子を持つ保護者とのコミュニティで「訪問看護師が支援してくれる場合もある」と知り、初めて“外からのサポート”を得ることができたのだそうです。
訪問看護という選択肢に最初からたどり着けたご家庭は、実はごくわずか。本来はもっと多くの家庭が支援を受けられるはずなのに、「情報の壁」が届いていないのです。
1. 小さな体で向き合う病気。1型糖尿病とは?
1型糖尿病は、自己免疫によってインスリンを産生する膵臓の細胞が破壊され、血糖値を下げるホルモン「インスリン」を自力で出せなくなる病気です。突然発症することも多く、小児期〜思春期に診断されることが多いとされています。
命を守るために1日に複数回のインスリン投与や血糖測定が欠かせず、小さな子どもだけでの管理は難しいです。保育園・学校・家庭が連携しながら、継続的なケアが求められます。
2. 保育園・学校生活で直面する「ケアの壁」
- 看護師がいない園が多い
多くの保育園・幼稚園には看護師が常駐していません。そのため、インスリン注射や血糖測定といった医療的ケアを「園で行うことはできない」と断られるケースもあります。 - 保護者が付き添って対応
昼食やおやつのタイミングに合わせて、保護者が毎日園に通う負担が発生します。共働き家庭では特に大きな課題です。 - 学校も例外ではない
小学校入学後も、担任や養護教諭が糖尿病に詳しいとは限りません。病状や緊急時の対応を一つずつ説明する労力が、家族にのしかかります。
3. 訪問看護という選択肢:どんなサポートが受けられるの?
訪問看護師は、医師の指示に基づいてご自宅へ訪問し、療養生活のサポートを行います。高齢者だけでなく、小児や医療的ケア児も対象です。
- 血糖測定やインスリン投与の見守り・記録補助
- 家庭での記録表や判断フローの作成支援
- 保育園・学校との連絡調整、文書作成の補助
- CGMやインスリンポンプの使い方サポート
- 自己管理支援、管理の自立のお手伝い
- ご家族への心理的支援、緊急時のアドバイス
小児看護に特化したステーションでは、病気の理解が深いスタッフが担当します。
4. 名古屋市・愛知県で訪問看護を使うには?
必要な手続き
- 主治医に相談し「訪問看護指示書」を作成
- 訪問看護ステーションへ連絡・相談
- 面談・契約・初回訪問へ
利用できる制度
- 小児慢性特定疾病に該当すれば、医療費助成あり
- 福祉医療費助成制度(名古屋市)で負担軽減
- 自費サービスの活用も可(Footageでは30分5,500円〜)
- 保育園への訪問に限り、自治体の補助制度を活用できるケースあり
※次の章では、「保育園での訪問看護活用」に関する制度と連携事例について、詳しくご紹介します。
5. 保育園での医療的ケア児支援と「訪問看護活用」の新しい形【名古屋市】
名古屋市では、医療的ケアが必要な子どもを受け入れる保育園に対して「民間保育所等障害児等保育事業実施要綱」に基づき、医療的ケアにかかる人件費等の補助制度が設けられています。
この制度の大きな特徴は、医療的ケア児1人に対し、看護師等を常時1名配置している場合に最大月額44万円の補助金が支給される点です(別表4より)。複数の対象児が在籍している場合は最大88万円まで拡大可能とされています。
この補助制度の特徴的な点は、看護師等を“時間単位”で配置する形にも対応しているという点です。たとえば、毎日数時間のみ専門職を配置した場合でも、勤務時間に応じた割合で補助を受けることができます。
さらに注目すべきなのは、「訪問看護事業所等から配置される看護師等」については、時間換算による補助額の調整(いわゆる“按分”)が適用されないという仕組みです。
つまり、訪問看護ステーションと保育園が契約を結び、定期的に看護師が園へ訪問する形であっても、制度上は満額に近い補助が認められているのです。
この制度設計により、以下のようなメリットが生まれます。
保育園側のメリット
- 看護師を園内で雇用・管理するための体制整備の課題を軽減
- 一定の水準で専門的な医療的ケア体制を確保できる
- 外部の医療職と連携することで、園職員の安心感や知識の向上につながる
保護者のメリット
- 医療的ケアを必要とする子どもが、より安全に集団生活へ参加できる
- 保育園への「同伴」や「インスリン投与」のための登園が不要になる可能性
- 医療の専門家が関わることで、家族の心理的負担が軽減される
訪問看護のメリット
- 園への定期訪問により、家庭内ケアとの連続性を保ちやすい
- ケア手順の共有やマニュアル化、緊急時対応支援など多面的な支援が可能
三者連携で保護者の「通園付き添い負担」も解消
訪問看護が保育園と連携することで、たとえば以下のような支援体制が構築可能です:
- 園児が給食前に血糖測定 → 訪問看護師が訪問してインスリン投与
- 保育士へのケア手順共有・マニュアル作成
- 園と保護者の間に立ち、情報の伝達・調整をサポート
結果として、保護者が毎日登園時に園へ出向く必要がなくなり、生活の選択肢や就労継続の可能性が広がるという効果も生まれます。
制度の活用には「認定申請+訪問看護との契約」が必要です
この制度を活用するためには、保育園側が「医療的ケア児」としての認定申請を行い、訪問看護ステーションと業務契約を結ぶ必要があります。
Footageでは、契約・運用・連携マニュアルまで一括支援が可能です。制度利用の第一歩として、まずはご相談ください。
※補足:
本制度は、名古屋市内に所在する「民間保育所等」に適用される支援制度です。
名古屋市立の保育園や幼稚園、公立施設については本制度の対象外となる場合があります。
また、名古屋市外の自治体では制度設計が異なりますので、必ず各自治体の窓口へお問い合わせください。
執筆・監修情報
執筆:株式会社FOOTAGE Footage訪問看護ステーション 取締役 看護師 安藤 優祐
監修:小児看護専門看護師 伊東 佳洋(株式会社FOOTAGE)
公開日:2025年10月10日